閑話・外から見た評価
セレモニーの開始時間が近づいたことで、ハイドラ王国の王城の一室……大広間には各国貴族たちが集まり始めていた。
セレモニー会場に移動するまではそれほど時間は無いが、貴族にとってはこの短い時間も縁を広げるよい機会でもある。実際、大広間のあちこちでは軽く雑談をしている貴族たちもいる。
そんな様子を視線の端に捉えつつ、アルクレシア帝国の侯爵家の嫡子でもある令嬢は静かに思考を巡らせていた。
(お父様の代理を任されているとはいえ、あくまで私は当主ではなく代理、いきなり高位の貴族に声をかけるのは失礼にあたりますね。となれば、公爵や侯爵は避けて伯爵や子爵と交流すべきですね。お父様と交流のある高位貴族の方々と話すのは、夜に行われるパーティの席で……)
令嬢は、以前アルクレシア建国記念祭にて、偶然とはいえ快人の露店をいち早く発見し、今貴族たちの中で秘かな話題となっているミヤマブランドのティーカップを獲得することができた。
それは彼女の父である侯爵の社交の助けにも繋がり、父親から彼女に対する評価もかなり大きく上昇し、今回の建国記念祭ではどうしても仕事の関係で出席が難しい父の代理を任されていた。
実際令嬢はお忍びで市井に出かけるのが好きだったりと、ややお転婆なところはあるものの、頭の回転も速く貴族としてはかなり優秀な部類だった。
いまも冷静に状況を見て、今後の侯爵家の利となりそうな相手をいくつか見繕って、声をかけるために移動しようとした。
するとそのタイミングで大広間の扉が開き、国王であるラグナと共にリリアが入ってきた。
(……あれはっ、リリア・アルベルト公爵……国王と共に入室とは、流石と言わざるをえませんね。ハイドラ王国に対しても、かなり強いコネクションを所持していると見て間違いないでしょう。流石は、わずか数年……10年すらかからず、王家を凌ぐほどの発言力を持つほどに公爵家を発展させた天才……佇まいにも、迫力がありますね)
リリア・アルベルトの名は社交界において非常に有名である。王位継承権を放棄して公爵家を立ち上げ、ほんの数年で目覚ましい発展を行っただけでなく、神界や六王にも強い伝手を持ち高く評価されているという噂もある存在であり、既にシンフォニア王国において一番巨大な力を持つ大貴族といっても過言ではない存在だ。
(特に神界との強い繋がりは圧巻です。時空神様の本祝福を受けていることももちろんですが、運命神様なども公爵家を訪れているとか……さらには、あのシャローヴァナル様より天空城を下賜されるという前代未聞の栄誉を賜るなど、神界にも非常に高く評価されている存在……言うまでも無く、最重要な人物ですね)
リリアのコネクションには、快人の存在が極めて大きく関与しているのだが、当人たちならともかく外野には細かな内情まではわからない。
ただ事実として、リリアは貴族の中で唯一最高神の本祝福を受けており、歴史上ただひとりシャローヴァナルから直接なにかを下賜されたという存在だ。
……なお、快人に関しては一種の特異点として広く認識されているため、そういった例からは除外して考えるのが一般的であり、あくまで快人を除いた中で歴史上ただひとりだけシャローヴァナルから直接なにかを下賜された存在という形だ。
(彼女の凄いところは、シャローヴァナル様からの下賜という凄まじい権威を得ながらも、それを己のみで使用せず……即座に国に預けて観光地として広く開放しました。これは、妙手ですね……特に宗教的な部分は理屈通りには行かぬことも多い。下賜された天空城を自身の邸宅として利用したりしていれば、嫉妬なども多く集めたでしょう)
世界の神たるシャローヴァナルを深く信仰している者は多い。シャローヴァナルより城を下賜されたとなれば、貴族だけでなくそういった信者の中にも強い嫉妬を持つ者もいただろう。
だがリリアが即座に天空城を国に預け、観光地として一般人にも広く公開したことで、逆に信者たちからは賞賛されており、リリアは教会などからも高い評価を得ていた。
(……天才という言葉は、己に敗北を納得させるための言い訳のようで好きではありませんが、彼女に対してはその天才という言葉があまりにも当てはまっています。類まれなる武の才だけでなく、貴族としての才もまさに天賦……恐ろしい存在と同年代に生まれてしまったものです)
概ね他国の貴族たちからのリリアの評価というのは、このような感じであり、戦士としても貴族としても超一流の天才との評価だった。
(ラグナ陛下とはなにを話しているのでしょう? 互いに苦い表情……牽制をしあっているのでしょうか? 千年に渡り国王と勤め、シンフォニアやアルクレシアの王たちを手玉に取る老獪さを持つといわれるラグナ陛下の表情をああも変えて互角に渡り合っている……やはり凄まじい。憧れますね……出来れば夜のパーティでお話する機会があればいいのですが……)
ラグナとリリアが、快人とシャローヴァナルのデートの件で胃を痛めながら僅かな時間も惜しんで話し合っているとはつゆ知らず、侯爵令嬢は感嘆と憧れの混じった表情で遠めにリリアを見つめていた。
シリアス先輩「……なるほど、読者とか快人視点だと、胃痛にのた打ち回ってるトラブル引き寄せ体質のお嬢様だけど……外から見ると、数年で王家すら凌ぐ力を得た稀代の傑物って感じなのか……」




