シャローヴァナルとの建国祭午後⑤
普通壁ドンというのは行う側が主導権を持っているはずだ。いや、実際俺も主導権は持っているのだろう。シロさんは待ちの態勢だし、なにをどうするかというような指示もない。俺がしたいことをすればいいという感じなのは理解できる。
慣れないことに困惑しつつも、なんとか漫画やドラマの知識を頼りにシロさんの頬に壁についていない方の手を添え、覗き込むように顔を近づける。
大丈夫かこれ? この動作はイケメンにしか許されないやつじゃないだろうか、俺がやると滑稽になってないか心配ではあるが、幸い誰にも見られていないのでその気持ちは押し込めて口を開く。
「こうして、まじかで見ると本当に綺麗ですね、シロさん。透き通るような白い肌に、吸い込まれてしまいそうなほどに綺麗な金の瞳……こうして見ているだけで愛おしさが込み上げてくるようです」
こ、こんな感じでいいのか? だってシチュエーション的に口説くような感じだよね!? なんなら自分で言ってて恥ずかしくてたまらないんだけど、家に帰って思い出したら悶絶ものなんだけど……。
後なんか強引というよりは、キザな方向になってない? あと心が読めるシロさんに対して、内心こんな焦りまくってて表面取り繕って意味があるのか……もう、勢いで押し切ろう。
若干テンパっていたこともあるだろう、俺はやややけくそ気味にシロさんに唇を重ねた。現在は俺の方が身長が高いので少し覆いかぶさる様な、上から押さえつけるような感じで……少し荒々しくなってしまったような気もする。
そのまま深く唇を重ねて、熱いキスをしたあとでゆっくりと顔を離す。まだ片手はシロさんの頬に添えたままであり、シロさんは綺麗な金の瞳でこちらを見ている。
なんというか、ちょっと五月蠅いぐらいに心臓が鳴っていて、体が火照っている気がした。いつもと違うシチュエーションな上、若干テンパり気味だったこともあって熱に浮かされたような気分だ。
言葉も無くシロさんと見つめ合い、少しずつ思考が冷静さを取り戻していき、同時に気恥ずかしさが湧き上がってくるが……俺の思考が落ち着く前にシロさんが微かに頬を染めで告げる。
「……こういうのも、素敵ですし、幸せですね。快人さん、もっとキスをお願いします。荒々しいのも、優しいのも……どちらも好きです。幸いにして今はふたりきりですし、時間はいくらでもあります。というわけでもっとキスをお願いします」
「……結局俺が押してるんだか、分かんないですけど……まぁ、そういうことはあとで考えればいいですかね」
ここでキスのおかわりを要求してくるのは本当に卑怯というか、タイミングも含めて絶妙すぎる。もちろん抗えるわけもなく……いや別に抗う必要も無いのだが、再び俺はシロさんに唇を重ねる。
壁ドンというシチュエーション上、俺の方が主導権を握っているはずではあるし、実際にキスは俺の方からしているわけで……シロさんはそれを受け入れてくれている感じではある。
だが、それでも、なんとなく上手く掌の上で転がされている感じがする……まぁ、それも悪くないかと思うし、なんだかんだで幸せな気持ちでいっぱいだ。
なんとなく、本当に長くキスをしてシロさんとふたりの時間に溺れてしまいそうだと思いつつも、それでも心のどこか冷静な部分で、本当に歯止めが利かなくなる前に一息付こうと、そんな風に考えた。
(私は別に、歯止めが利かなくなっても構いませんよ?)
そういう殺し文句を平然というのが恐ろしすぎる。本当に、本当に……魅力的ではありますが、いままだ建国記念祭でデートしてる途中ですから、本来の趣旨は忘れずに行きましょう。
頭に響くように聞こえてきた声に、キスを続けたまま心の中で返す。正直危なかったと思う。ある程度冷静さを取り戻す前の熱に浮かされた状態であれば、ふたりきりということも相まって本当に歯止めが利かなかった可能性はある。
まぁ、シロさんが口を開くまで少し間が空いていたということを考えると、シロさんは全部分かった上で俺が少し冷静さを取り戻してから声をかけたのだろう。
それは、俺の感知が居かもしれないが……いずれ状況に流されるような形ではなく、熟考の上で俺の方から求めて来てほしいというメッセージのようにも感じられて、顔が熱くなるのを感じた。
???「あれ? シリアス先輩は?」
マキナ「向こうで砂糖になってるよ」
???「ふむ……で、マキナが手に持ってるのはなんですか?」
マキナ「シュガートーストだよ! ???も食べる?」
???「……毎回、シリアス先輩が変態する度に躊躇も逡巡もなく、即食うって選択を取ってる貴女も、やっぱ相当ぶっ飛んでますよね……」
マキナ「シュガートースト美味しいよ? ちょっとバターを多めに塗るのがコツだね」
???「そういう話じゃねぇんすよ……」




