シャローヴァナルとの建国祭午後③
果たして子ともいえる神族の成長を穏やかに見守る微笑ましき光景だったのか、この事態にも即応できるぐらいに入念かつ多岐にわたるシミュレーションを行っている神族たちの苦労を嘆くべきかは悩みどころではあるが、とりあえず時計塔には夕方に行くことが確定した。
なので引き続き露店を眺めつつ、シロさんと他愛のない会話を行う。
「けど、なんだかんだでシロさんの要望通りというか、結構カップルっぽいデートが出来てますよね」
「そうですね。ここまで、かなり順調ですし夕方の予定も決まりました。ただ、思うに快人さんの方からグイグイくるパターンが不足している気がします」
「……う、う~ん。まぁ、そう言われると……そうかもしれませんね」
実際ここまでのカップルっぽい行動は、基本的にシロさんの要望を叶えているパターンが多いので、俺の方からグイグイ行くパターンが少ないと言われれば、確かにその通りではある。
そしてこうして口にしてくるということは、それは遠回しの要望ということでもあるので、なにかしらはしてあげたいところだ。
ただ、俺の方からグイグイ行く……つまり俺がリードするパターンというのも、改めて考えると難しい。シンフォニア王都とかよく知ってる場所ならまだしも、あまり土地勘のない首都で、なおかつ建国記念祭という特殊な状況となると、カップルっぽくイチャイチャをしつつ俺がリードする展開というのは、そうそう考え付かない。
いや、別に建国記念祭という場に拘る必要は無いのか……あくまでカップルっぽいシチュエーションで、俺の方がグイグイ行くパターンを考えてみればいい。
グイグイねぇ……強引な感じをグイグイというのなら、例えば壁ドンとか? いや、でも壁ドンとかはイチャラブというよりは恋愛のシチュエーションのひとつだし、カップルというよりは付き合う前の距離感で行うもののようなイメージがある。
まぁ、壁ドンはともかくとして、方向性はその感じで考え……。
「……ほぅ」
おっとヤバい感じだぞ、シロさんがなにやら興味深そうな表情をしている。明らかに俺の心を読んだうえでの表情であるということは、間違いなく壁ドンに興味を持ったのだろう。
だが、待ってほしい。いまこの場ですぐに実行できるようなものではない。いろいろと前提条件が必要なシチュエーションなのだ。だから、やるにしてももっとずっと後で……。
「なるほど」
「待ってくださいシロさん、なに手を振ろうとしてるんですか……」
「いえ、適した壁を作ろうかと」
「こんな天下の往来に突如壁が出現したら、クロノアさんとかの胃が死んでしまうので本当にやめてあげてください」
あとなんなら、いまこの場で壁だされても、ヨシじゃあ壁ドンしようか……とはならないよ!? 人滅茶苦茶多いし、こんなところで壁ドンなんてしたら完全に注目の的。クロノアさんの胃だけではなく、俺の世間体も死を迎えることになりかねない。
「シロさんが興味があるなら、あとでやりますので、ここに壁を出現させるのはやめてください」
「ふむ。であれば、適した壁があるシチュエーションで、ふたりきりの状態であればしてくれると?」
「え? ええ、それは、しますけど……」
どうやら壁ドンはシロさんの興味を強く引いたようで、かなり期待するような目でこちらを見ており、俺が思わず頷くと、直後にシロさんが軽く手を振るのが見え……景色が一変した。
ハイドラ王国首都の上空、快人とシャローヴァナルのデートを見守っていた最高神の三人はほぼ同時に目を見開いた。
「消えた!? くっ、恐れていた事態か……どこかに転移を!?」
「周辺ではありません。今回は事前に完璧に準備をしているので、人界内であれば私の感知範囲ですが……その何処にも確認できないということは、人界ではないですね」
「……たぶんこれ、亜空間だと思う。新しい空間を作って、そこに移動した感じかな……たぶん、カイちゃんとふたりきりになるため?」
最高神の三人にとって、最初の快人とシャローヴァナルのデートの際にふたりを一時でも見失ったのは大きな反省点となっており、今回も当然その対策はしてきていた。
「……なるほど、運命神の言う通りとして、問題は戻ってきた際に元の場所に戻ってくるかどうか……」
「そうだね。まだ露店に興味があるなら同じ場所かもしれないけど、他の場所に戻ってくる可能性もある。タイミングも分からないし、広めに警戒しておいた方がいいね」
ふたりが亜空間に移動しているからと言って、その間は休憩とはならない。むしろいつ戻ってくるか分からないからこそ、いままで以上に集中して首都全体の様子に気を配っていく必要があり、最高神たちの苦労はまだまだ続きそうである。
「……でも、いいなぁ、シャローヴァナル様。私もカイちゃんとイチャイチャしたいよぉ」
ふたりのデートを見ていて快人とイチャイチャしたい、建国記念祭が終わったとにすぐにでも快人のところに遊びに行きたいという気持ちが強くなった。そのためフェイトは、いまここにいる自分の記憶を、本来の次元の己に引き継げないか、あとでシャローヴァナルにお願いしてみようと、そんな風に考えつつ首都に視線を戻した。
シリアス先輩「次回ヤバそうだな、私も亜空間に逃げるか……???、亜空間作ってくれ」
???「いいすよ。おふたりのデートがよく見える亜空間でいいっすか?」
シリアス先輩「それ意味ないんだよなぁ……」




