シャローヴァナルとの建国祭午後②
本を売っている露店でデートスポットについて書かれた本を買ったが、ここでゆっくり読むわけにはいかない。取り合えず人が集まっている場所から離れて、軽くパラパラとページをめくってみる。
見てすぐに思ったのは、この雑誌はかなり最近になって作られたものだということだ。というのも写真が使われており、デートスポットの紹介がかなり華やかだった。
まぁ、その分ページ数はかなり少なめだったり、まだまだ写真は高価なのだと伝わってくる部分もあるが……。
「あんまりゆっくりは見れませんが、どこかいいところありますかね?」
「そうですね……むっ、快人さん、そのページは?」
「え? ここですか? えっと、なになに……『時計塔特別天望席で特別な時間を』……時計塔っていうと、アレですよね」
シロさんが気になった様子のページには、首都の中でもひと際大きな時計塔が載っていた。あの時計塔には覚えがある。初めてハイドラ王国を訪れた際に、光永くんを狙ったテロが行われた場所だ。まぁ、アリスが防いで処理したので大きな問題にはなってないが、印象には残っている。
あの時計塔ってデートスポットだったのか……。
そう思いながら説明を見てみると、あの時計塔は一番上に特別天望の個室が用意されており、そこを予約することで利用することができるらしい。
ただし、利用できるのは1日につき1組だけであり、人気も相まって抽選倍率は相当なレベルらしい。
「その時計塔から見る夕日は絶景であり、カップルにとって最高の一時を演出するのは間違いないが、そもそもその天望席に座れるのは、相当の幸運の持ち主だけである……って書いてますね」
「ふむ。なるほど、素晴らしいですね。まだ昼なのですぐにというのは勿体ないですが、夕方には快人さんと一緒に言ってその最高の一時とやらを味わいたいですね」
「いや、でもそもそも抽選が……あ、いや、待ってください。首都で行事がある日には封鎖されてるみたいですね。ここに例として建国記念祭当日って書かれているので、今日は確実に封鎖されてはいることはできないみたいですよ」
まぁ、当然と言えば当然だが、建国記念祭の日は時計塔には立ち入り禁止らしい。前のようなテロ防止の意図もあるのだろうが、それ以外にも祭りで気が大きくなった人が危険行為をしたりする可能性もあるだろうし、そういったリスクを防止する意味もあるのだろう。
すると俺の言葉を聞いたシロさんは、静かに頷いで口を開く。
「なるほど……時空神」
「はっ!」
「快人さんと最高の一時とやらを味わいたいです」
「問題ありません。既に時計塔に席は用意してありますし、ハイドラ国王には話は通っております。シャローヴァナル様のお望みのタイミングでご案内できるかと……」
「分かりました。ではその時に改めて呼ぶことにします」
「はっ!」
圧倒的、圧倒的サポートである。流石というか、どうやら予想していた……いや、もしかすると首都内でカップルに人気のスポット……つまりはこの雑誌に載っているような場所は、シロさんが興味を持つ可能性が高いと考えて、事前に根回しを終わらせている気がする。
本当に流石というべきかなんと言うべきか、万全の態勢で臨んでいるのが伝わってくる。
「……そういえば、シロさん。さっきもそうでしたが、クロノアさんのことを呼ぶときなんか言い淀んでませんでした?」
「ああ、少々迷いました。順調に成長はしていますが、まだフェイトほどとは言えません。となると、まだもう少し待つべきと判断しました。まぁ、そう時間はかからないでしょうが……」
そう言って少しだけ口角を上げるシロさんを見て、その意図を理解することができた。おそらくシロさんはクロノアさんのことを名前で呼ぶかどうか迷ったのだろう。
前回の白神祭などを経て、クロノアさんやライフさんもシロさんの目から見て成長をしているみたいで、フェイトさんと同じように名前で呼ぶかどうかを考え……あともう少しということで、まだ今回は「時空神」と呼ぶことにしたみたいだった。
そのことを語るシロさんの表情はどこか優し気で、この成長を楽しむ親のようにも見えた。
シリアス先輩「これは、午後のあとに夕方があると判断してよろしいか?」
???「よろしいのでは?」
シリアス先輩「くそがっ!」




