シャローヴァナルとの建国祭昼⑤
実感して思うのは、人は己の発言に責任を持たなければならないということと、口にすることと実行することの差だ。
なにが言いたいかというか……100回は流石に長かった。
「まぁ、シロさんが満足そうでよかったですけど……いい加減ゴンドラ動かしません?」
「いまも動いていますよ。ただ時間が引き延ばされているだけなので、ほんの僅かには動いています」
「これだけ時間かけて目に見えて移動してないとなると、ゴールまでどんだけかかるか想像したくもないので、動かしましょう」
「そうですね。お返しが済めば速度を戻しましょう」
「……お返し?」
え? なんだ、まだ何かあるのか? 発言から察するに、先ほどの俺の好意に対するお返しという意味なのだろうが、そうだとすれば少々不安を覚える。
なにせいまのシロさんは見てわかるほどに上機嫌。それはもうニッコニコである。シロさん的にはイチャラブが十分できたという状態なのだろう。それはもう大変に可愛らしいのだが、それはそれとしてテンションが上がりまくっているシロさんがなにをするかという不安はある。
「そのままの意味ですよ。こうして……」
「うおっ!? あ、え? お返しってそういう……」
言うが早いかシロさんは俺の腰に手を回して、俺の体を抱き寄せた。先ほどまで俺がシロさんにしていたことの再現であり、シロさんの力が強いこともあって簡単に抱き寄せられる。
だが、待ってほしい。お返しの意味は理解したが、これは少々困ったことになるのでは……仮にシロさんが先ほどの行為を入れ替えて行おうとしているとして、俺とシロさんには大きな差がある。
そう、胸部……胸である。先ほどまでと同じ展開であれば、シロさんはこのまま俺の頭を抱き寄せ胸に抱える。そうなると俺の顔は必然的にシロさんの豊満な胸に埋まる形になるわけだ。
あと、テンパって思考は滅茶苦茶動いてるけど声に出せているわけではないので、シロさんの行動を阻止できていないし、待ったもかけられていない。
いや、シロさんは俺の心が読めるのだから分かっているのだろうが、一切の躊躇なく俺の後頭部に空いた手を回して抱き寄せる辺り、この心の声は無視するようだ。
「~~!?!?」
そして視界にシロさんの胸が迫ったかと思うと、直後になにも見えなくなると共に顔が柔らかく温かなものに包まれる。
鼻腔をくすぐる心地よい香りもそうだが、一瞬で頭がクラクラしそうなほどであるが……まだそれでは終わらない。
「……快人さん、大好きですよ」
吐息がかかるほど耳の近くで囁かれた、どこか甘さを感じる声……ゾクゾクそ背中をむず痒いような快感が駆け抜けていく。
世にASMRというものが存在するように、聴覚より得られる快感というのは馬鹿にならないものだ。しかもそれをしているのは、天上の美声ともいえるような声までチートのシロさんである。
しかも、しかもだ……普段の抑揚のない声ではなく、しっかりと気持ちと熱の籠った声……本当に頭がクラクラしてきた。シロさんが気に入るのも分かるというか、これは想像以上の破壊力である。
「……では、あと99回ですね」
「……は? あ、いや、ちょっと待っ――」
快人とシャローヴァナルのゴンドラからそれなりに離れた位置で見守っていた最高神たちは軽く息を吐く。
「ひとまずこれで20分は、気を休められるか? もちろん油断はできないが……」
「ええ、そうですね……おや? 運命神? どうしたのですか?」
シャローヴァナルのテンションが上がった際の立体文字などへの対応はあるものの、人の誘導や出店の調整などといった作業は少し一息つけるかと思ったタイミングで、フェイトの顔がどんどん青ざめていく。
「あ、ヤバい、これヤバい……なんか、もの凄い力が動いてる……無理無理! これ、私の力じゃ止めれないよ……シャローヴァナル様のテンションが凄いことになってる気が……こ、これ、さっきまでと規模が違うやつが来るよ!!」
「な、なに!?」
「そ、そんな、一体何が――これはっ!?」
必死に告げるフェイトの言葉にクロノアとライフが青ざめた直後、まるで空が塗りつぶされるように満天の星空に変わり、『幸せ』と書かれた輝く流星群が空を埋め尽くした。
突然昼から夜に変わり、天を埋め尽くすほどの流れ星が流れる絶景を、建国記念祭に参加していた者たちは足を止めて見上げる。
相当の距離があるため文字ではなく普通に流星と思っているだろうし、ずば抜けた視力を持つ者が見たとしても日本語なので意味は分からないだろう。既存の魔法具などでは再現など不可能であろう、あまりにも美しい空を埋め尽くす色とりどりの流星群に、多くの者が目を輝かせて感動する中……最高神の三人は死んだ魚のような目で流れる星を見る。
「……終わったよこれ、世界規模のやつだ」
「どう取り繕う? 取り繕えばいい? というか、なんとかなるのかこれは……」
「……もうこれ、シャローヴァナル様からの特別な計らいとかにでもしない限り、誤魔化しは不可能なのでは?」
フェイト、クロノア、ライフは、なんとも言えない哀愁の漂う表情で呟いていた。
なお時を同じくして、セレモニー会場に移動していたラグナとリリアも、空を見上げて絶望したような表情を浮かべていた。ただ、幸いだったのは、明らかに人の手で対応できるような事態ではないので、この対応は神族たちに一任するしかないことだろうが……もちろんそれで、胃の痛みが消えるわけではなかったが……
シリアス先輩「わ、私の胃にもすさまじいダメージが……このイチャイチャは、胃に効く……」
???「イチャイチャ見ると胃にダメージ受けるとか、変な新設定足すのやめてもらえます?」




