シャローヴァナルとの建国祭昼④
さて状況がいいか悪いかで言えば、よくはない……現状この狭い箱の中はシロさんと俺のふたりきり、20分という時間も果たしてどこまで信用していいものか……つまり、俺に逃げ道はない。
……いや、別にゴンドラの中じゃなくても無かったな。と、ともかく、ハッキリしているのはこの状況を打破するにはシロさんを満足させなければならない。
それこそ、シロさんが満足しない限りゴンドラは永遠にゴールに辿り着かないという可能性すらあるのだ。
「……えっと、それでシロさん、結局俺はなにをすれば? さっき言ってた通りのことを言えばいいんですか?」
「そうですね。まず、私の腰に手を回して抱き寄せます」
「……」
あれ? おかしいな? そういう話だったっけ? 心の中で考えていた好きという言葉を、声に出して伝えようとか、そういう話ではなかっただろうか? それを、腰を抱くのに何の因果関係が……。
「これはとても重要なことです」
「なんでしょうね。迫真の顔してるところ悪いですが、過去の経験から全然重要じゃない理由な気がするんですよ」
「参考にした書物にそういったシーンがあって、私もやりたいからです」
「ほらやっぱり!?」
なんか、どさくさに紛れて他の要望も叶えようとしてない? いや、確実にそんな気がする……ぐっ、いや、確かにそういうシチュエーションは恋愛漫画とかでそこそこあるイメージはある。
肩を抱くよりは登場頻度は少ないが、親密な雰囲気という意味ではかなり適しているのかもしれない。
「……その、やるかどうかは別として、別としてですよ。それだけですか? 腰を抱いた状態で、さっきの約束通り言葉で伝えれば満足します?」
「いえ、続きがあります」
「いちおう聞きます。どうぞ……」
「まず、腰に手を回して抱き寄せ、空いている片方の手を私の後頭部に添えて胸に抱き寄せます。そして私の耳元で、囁くように愛の言葉を告げる……というのがいいです」
思ったより7倍ぐらい難易度の高いやつ出て来たな。それって割と、ただしイケメンに限るとかそんな言葉が頭に付きそうなシチュエーションと言う気がして、実行するのはかなり恥ずかしい。
例えばオズマさんのような大人の色気溢れるカッコいい男性がやれば様になるのかもしれないが、俺がやってもなんか変な感じにならないだろうか? そうなると恥ずかしさの追い打ちなのだが……。
「私にとって、世界一カッコいいのは快人さんですし、条件としてはまるで問題ないのでは?」
「うぐっ……」
この人は相変わらずそういう恥ずかしいことをサラッとストレートに……そう言われてしまうと、これ以上ごねる気にもならないというか……正直結構嬉しいというか……う~ん。アリスのこと言えないな、俺も結構チョロいかもしれない。
シロさんの真っ直ぐな好意を受けて、そこまで思ってくれてるのなら要望ぐらい叶えてあげたいという気持ちになっているので……うん、まぁ、覚悟を決めるか……どうせふたりきりなんだし、注目を集めたりとかそういうことにはならない。
そう考えを固めた俺は、シロさんの要望通りに隣に座ったまま腰に手を回して抱き寄せる……柔らかいし、服越しなのに指が吸い付くかのような心地良さ、相変わらず全身チートみたいな人だ。
そして、もう片方の手でシロさんの頭を胸に抱えるように抱き寄せる。髪の手触りすげぇし、いい匂いがするしやっぱりかなりドキドキする。
顔が熱を帯びるのを感じつつ、シロさんの耳元に口を寄せ……囁くように告げる。
「……シロさん、好きですよ」
できるだけシロさんへの思いを込めて告げたつもりの言葉……さて、反応は? そう思っていると、シロさんが俺の胸から顔を上げ、珍しく分かりやすいぐらいに表情を変えていた。ニッコニコである。どうやら気に入ってもらえたらしい。
「これは、想像していたよりずっといいですね。とても素晴らしいです」
「あ、あはは、ちょっと気恥しかったですけどシロさんがそこまで喜んでくれたならやったかいもありましたね」
「はい。なので、『あと100回』ほどお願いします」
「ふぁっ!?」
非常に気に入ってもらえたのは間違いない。だが、いかんせん気に入り過ぎたようで……おかわりの注文が入ってしまった。
チラリとゴンドラの外を見てみると、景色がまったく動いてない感じがするので……100回終わるまで、ゴンドラが進むことは、なさそうである。
シリアス先輩「無だ……心を完全なる無にすることで、ダメージを軽減する。こ、こんなところでくたばってたまるか……」
???「無にしても『軽減』が限界なんすね」




