胃痛直送
オリビアさんがリリアさんへ挨拶をすると決めた際に、俺は口を挟むべきかどうか躊躇した。リリアさんがまた胃の痛い思いをするかもという思いもあるが、もしかしたらオリビアさんとの交流はリリアさんの利になるのではという気持ちもあるからだった。
俺には貴族のコネクションとかその辺りはよく分からないのだが、オリビアさんは人界でもかなりのビックネームだし、普通ではパイプを結びにくい友好都市のトップだ。
六王幹部や神族といった魔界や神界の権力者ではなく、人界の権力者相手だとするならコネクションはあったほうがいいのだろうか? う~ん、分からない。
「それでは、私は王城に向かいます。シャローヴァナル様、ミヤマカイト様、お時間を頂きありがとうございました」
「……え? あっ、待ってくださいオリビアさん。どうやって王城に向かうつもりですか?」
「それはもちろん、歩いてですが?」
考え込んでいた俺だったが、聞こえてきた言葉に反射的に声を上げた。オリビアさんがラグナさんやリリアさんに挨拶に行くというのは、とりあえずいいとする。リリアさんには先んじてハミングバードで連絡でもしておけば、胃の痛い思いも少なくて済むだろう。
だが、それ以前にオリビアさんがどうやって王城に向かうか……オリビアさんは友好都市以外では、ハッキリ言って体力は一般人以下であり、建国祭で混雑する道を歩いて王城に辿り着ける気がしない。
事実として、俺たちが来た時には人の流れに押し流されていたわけだし……。
「その、人が多いですし、さっきみたいなことになるといけないので方法は考えた方が……」
「ミヤマカイト様、なんとお優しい。ですが、どうかご安心ください。流石の私でも友好都市外であっても王城まで歩く程度の体力はあります」
「いや、平時ならそうでしょうけど……いまはこの混雑ですし、王城に向かうってことは議院前広場も通るわけですよね? その辺りはここ以上に混雑していますし、人の流れで上手く進めないと思うんですよ」
オリビアさんは、若干こういう部分を楽観視するところがある。というか、基本的に友好都市を出ないので友好都市内での己の能力基準で考えている節がある。
あとたぶんだけど、オリビアさんの頭の中では自分は友好都市外では一般人と変わらない程度の能力と認識しているのだろうが……一般人の中でもかなり体力がない。なんなら平均的な一般人の体力を大きく下回っているのだが、本人にその自覚がない。
なんとかうまく説得できないかと考えていると、シロさんが軽く頷いて声をかける。
「快人さんの心配も分かります。それに、いまのタイミングから歩いて向かえば到着するころにはセレモニーの開始時間になるでしょうし、挨拶するのは難しくなるでしょう。なので、私が送りましょう」
「そ、そんな、シャローヴァナル様のお手を煩わせるなど、大変な不敬で……」
「構いません。では、送ります」
「心よりの感謝を……」
シロさんがオリビアさんを転移で送るということになり、オリビアさんはシロさんの気遣いに感動した様子で祈りの姿勢になり礼を告げた。
それを見て頷いたあとでシロさんは軽く手を振り、オリビアさんの姿が消える。まぁ、とりあえずこれで、オリビアさんが王城に辿り着けないなんてことはな……あっ、リリアさんへの連絡……。
ハイドラ王国王城の執務室では、突然の教主の来訪という事態に混乱しつつも、それでも神族との連携もあって一先ず事態は収束を見せようとしていた。
「……神族からの連絡で、教主様は無事にカイトと合流されたらしい」
「安心しました。教主様の目的はシャローヴァナル様とカイトさんでしょうし、おふたりとの話が終わればすぐに帰られるでしょうから、一安心ですね」
「ああ、リリア嬢も長々とすまんかった。そろそろセレモニーの開始時間が近くなるし、ひとまず部下に引き継いで、ワシらも会場に向かう準備をするかのぅ」
「そうですね。これで終わりというわけではありませんが、緊急の事態が起きない限りは……ひと段落といっていいですね」
一番の混乱は乗り切ったため、あとはシャローヴァナル関連で緊急事態が発生しない限りは、部下に任せてセレモニーに出ればいい。
今後もなにかが起こる可能性は十分にあり得るが、それでも山場は越えたとそんな弛緩した空気をあざ笑うかのように……部屋の中央が輝き、オリビアが姿を現した。
「「……は?」」
それを目撃したラグナとリリアの表情が困惑一色に染まったのは、無理からぬことだろう。
シリアス先輩「さ、流石シロ、なんて恐ろしい……胃にダイレクトアタックを決める直送便……次回、ふたりの胃がどうなるか……」




