シャローヴァナルとの建国祭⑫
ごくごく当たり前のようにシロさんが告げた言葉を聞いて、オリビアさんは硬直しており、その表情からいまなにを言われたか理解が追い付いていないというような雰囲気を感じた。
少しして、ようやく思考が追い付いたのかオリビアさんは、困惑6恐縮2羞恥2ぐらいの割合の表情で、恐る恐るシロさんに声をかける。
「……あの、シャローヴァナル様。発言の許可を頂いてもよろしいでしょうか?」
「許します」
「感謝を……その、シャローヴァナル様のお言葉に異を唱えるようで大変恐縮ではあるのですが、私とミヤマカイト様は誓って恋仲ではございません。恐れ多くも交友は持たせていただいておりますが、節度をしっかり守った上での交友であり、決してそこに邪な感情などは介入しておりません」
「ふむ。分かりました。『今後アプローチしていく』ということですね」
「……シャローヴァナル様?」
この辺りは流石天然具合に定評のあるシロさんである。分かったように見えてなにもわかってないというか、オリビアさん側としてもシロさんの意見を表立って否定もできないので、どう説明すればいいか迷っている感じで、助けを求めるようにチラチラと俺の方を見ている。
「シロさん、そういうことではなくて、オリビアさんは現時点では俺に対して好意のような感情は無いってことですよ。もちろん友人として、ある程度親しみは感じてくれているとは思いますけど……ですよね?」
「あっ、いえ、その発言に同意するのは大変難しく……シャローヴァナル様の前で虚偽を告げるわけにも参りませんし……ですがその……わ、私にも羞恥という感情がですね……」
あれ? 助け船のつもりで話に加わったのだが、オリビアさんは先ほどよりも困った表情を浮かべている。これは、もしかすると言葉を間違えたかもしれない。
好意という言い方が特に悪かった気がする。恋愛感情とは言えないまでも、オリビアさんが俺に対して好意的な感情があると仮定すると、真面目なオリビアさんは先ほどの俺の言葉に同意することはシロさんに嘘をつく行為だと考えても不思議ではない。
「……わ、私はどうすれば、同意するのも不敬、否定するのも不敬……かといって尊きお二方を前にして沈黙を貫くのもまた不敬……やはりこの身は、いますぐ厳罰に処されるべきでは?」
「オリビア」
「はっ!」
「少しあちらで話しましょう。快人さんは数分ここで待機していてください」
「え? ええ、わかりました」
シロさんはオリビアさんとふたりきりで話すつもりなしく、なんとなくその目には「任せろ」というような感情が見えた。
オリビアさんの直属の上司といえるのはシロさんだし、ここは任せた方が良さそうではある。若干……いや、そこそこ……割と……不安はあるが、シロさんの精神面の成長は著しいので、きっとうまい具合に話してくれ……るといいなぁ。
快人に声が聞こえない位置まで離れたシャローヴァナルは恐縮した様子のオリビアに声をかける。
「この場においては不敬とは言いませんので、素直な発言を許します。確認ですが、貴女は快人さんに少なからず好意を抱いているということで、間違いないですね?」
「も、もちろん人間的には好ましく思っておりますし、個人的に頼りにしている一面があるというのも否定はできません。最近では祈りを行っていない時間には、よくミヤマカイト様のことを考えていますし、不敬にもお会いしたいと考える機会は多いですし、ミヤマカイト様を前にすると少々冷静さを失ってしまいますが、本当にその程度です」
「……それはもう恋では?」
オリビアは極めて真面目な人間であり、シャローヴァナルが素直な発言を許すと言ったため己が感じている通りの思いを言葉にした。
事実として、オリビアが快人に対して好意的な感情を抱いているかと言えば……抱いている。ただ、そもそも対人経験の浅い彼女には、それが敬意による敬愛の感情か、好意が勝る恋愛感情かを判別することはできない。
「なるほど、貴女はこれまで他者と関わる機会が極端に少なかった。まぁ、私が言えることではありませんが、心に関してはまだ未熟ということですね」
「仰る通りです。返す言葉もありません」
「では、オリビア。貴女にひとつ課題を出します」
「はっ、なんなりと!」
「建国記念祭後どのタイミングでも構いません。快人さんをデートに誘いなさい。内容は必ず貴女が考えること、それ以外の制限はありません。貴女自身が感情をより深く理解するためには、必要な工程です」
「……は、はぃ……その、ミヤマカイト様をもてなせば……」
「デートをしなさい」
「……か、畏まりました」
オリビアは困惑していたが、彼女にとってシャローヴァナルの移行は絶対である。気のせいか少し体温が上がったような気もするが、シャローヴァナルに命じられたのならそれを実行するだけだ。
「ああ、それと、スーパーWINシステムと、貴女の記憶の引継ぎに関して伝えておきます」
「……すーぱーうぃん? ふ、不勉強で申し訳ありません。それはいったい……」
「説明しましょう」
そうして、シャローヴァナルから詳細の説明を受け、今回の記憶が本来の次元に引き継がれることを聞いたオリビアは、再び宇宙に放り出された猫のような表情を浮かべていた。
シリアス先輩「よ、読めなかった……まさか、シロとのデート中に、オリビアのデートが確定するとは、このシリアス先輩の目をもってしても……」
 




