シャローヴァナルとの建国祭⑪
本当にギリギリのタイミングだった。シロさんと一緒にオリビアさんの居る場所に移動していて、幸いにもなにかしらのイベントがあった影響か道が空いていてスムーズに辿り着くことができた。
そうすると、ついてすぐ目についたのは人の流れに押し流されようとしているオリビアさんであり、慌てて救出した。本当に危なかった。あの流れに呑み込まれていたら、合流は相当難しくなっただろう。
「オリビアさん、大丈夫ですか?」
「……………………………………」
「あ、あの?」
咄嗟に救出して胸に抱きかかえる形になったオリビアさんは、目を大きく見開いて硬直しており、本当に微動だにしない。まるで時間でも止まったのではないかというほど綺麗に固まっているので、心配になって声をかけると直後にオリビアさんの肩がビクッと跳ねた。
「はっ!? あ、あわわわわ、もも、申し訳、あ、いえ、助けていただいて感謝、い、いや、不敬の謝罪が、ああ、あの、とても逞しくて、ではなく……」
「と、とりあえず落ち着いてください!」
再起動したかと思うと今度はバグったかのようにアタフタと、大慌てという言葉がここまでピッタリ当てはまるのも珍しいほどの慌てっぷりだ。
とりあえず発言も支離滅裂でまったく落ち着いていない様子だったので、落ち着くように呼び掛ける。
「……あ、は、はい……大変お見苦しいところ……を?」
「うん?」
それが功を奏してオリビアさんは少しの落ち着きを取り戻し、視線を動かして俺の隣に居るシロさんを見て、再び硬直した。
「……あ、シャ、シャローヴァナル様……」
「久しぶりですね」
震える声で呟くオリビアさんに対し、シロさんは普段通りの様子で声をかけるが、オリビアさんの顔は青を通り越して真っ白になり……スッと、俺の手から離れたあとで額を地面に叩きつけるような勢いで土下座した。
「も、もももも、申し訳ございません! わ、私はシャローヴァナル様とミヤマカイト様がいらっしゃっていると聞いて一言ご挨拶をと伺った次第でして、誓ってシャローヴァナル様の邪魔をするつもりなど無く、一言挨拶だけしたら即座に帰るつもりでした! そそ、それが私の不徳によってミヤマカイト様の手を煩わせてしまっただけでなく、シャローヴァナル様への挨拶が遅れるなどという信じがたい不敬を……」
「??」
どうやら、硬直したりテンパったりで、シロさんに気付くことが遅れたのを気にしているらしく、過去一番ぐらいの勢いで喋っているオリビアさんは、なんとなく彼女らしいとは感じた。
まぁ、当のシロさんは不思議そうにしているので「なんでそれが不敬になるのか?」とか考えてるようなので、別にオリビアさんの行動を不敬とは思っていない感じだ。
まぁ、それはそれとして……真ん中は外れているとはいえ大通りなんですけど!? そんなことしたら注目の的に……なってない? あれ?
う~ん、なんか不自然なほどにこっちが注目されてない。これ、フェイトさんの権能かなにかが働いてるな。いや、この状況が周りに気付かれないのはむしろありがたいが……。
「とりあえず、オリビアさん。落ち着いてください」
「無理です。こ、このような不敬……四肢をもぎ取って市中引き回しにしたとしても、とても足りないであろう大罪を……」
「犯してないです。シロさんも気にしてないですし……ね?」
「気にするもなにも、なぜ先ほどのやり取りが不敬になるのかよく分からないのですが?」
「大丈夫です。俺もよく分かってないです……ただ、オリビアさんは気にしているみたいなので、できれば気にしないように言ってあげてくれますか?」
とにかくオリビアさんは真面目過ぎるところがある上、シロさんへの信仰心が半端ではないので、とにかくシロさんに失礼をしてしまったというのを気にしまくっており、いまも土下座したままガタガタと見ているこっちが居たたまれなくなるほど恐縮しまくっている。
なのでシロさんの口から気にしてないことを伝えてくれるかとお願いすると、シロさんは一度頷いてオリビアさんに声をかけた。
「顔を上げなさい、オリビア」
「はっ!」
「先の件ですが、私は特に気にしていません。『貴女と快人さんの交際も自由』です。ただ、今日は私の番なので、快人さんとお祭りデートがしたいなら次の機会にするように」
「……はぇ?」
なんかとんでもないこと言い出したんだけど、この天然神。そして、突如宇宙に放り出された猫のような表情で硬直するオリビアさんがなんとも印象的だった。
天然神(不敬……なるほど、私と快人さんのラブラブデートを邪魔してしまったことを恥じているのですね。そういえば、オリビアにはスーパーWINシステムに関しては通知していませんでした。詳細はいま説明して……彼女の記憶は『元の時空にも引き継がせますか』)




