シャローヴァナルとの建国祭⑩
ハイドラ王国上空にて神族の指揮を執っていた三人の最高神……そのうちのフェイトがピクッと反応するように顔を動かし、なんとも言えない困った表情を浮かべた。
「ヤバいよ、時空神。トラブル発生かも……しかも、私たちが対処しにくいやつだ」
「なに? いったい――ッ!? まさか、オリビアが来たのか!?」
フェイトの呟きに怪訝そうな表情を浮かべたクロノアだったが、彼女もすぐにフェイトが困った表情を浮かべていた理由を察することができた。
ハイドラ王国首都に転移してきた魔力は、間違いなくオリビアのものである。そして、オリビアは彼女たち最高神にとって最も対応に困る相手でもあった。
「これは、まいりましたね。オリビアには、私たちが迂闊に接触するわけには……」
同様にオリビアの魔力を察知したライフが、困惑したような表情を浮かべて呟く。
そう、オリビアは基本的に人界、神界、魔界の三界のいずれにも属さず、あくまで世界の神たるシャローヴァナルにのみ仕えているという特殊な立ち位置の存在だ。
彼女の中立性を保つ意味でも、神界の最高神、人界の三国王、魔界の六王などといった各界の権力者は、基本的にオリビアとは迂闊にかかわらないという暗黙の了解があるため、中々に扱いが難しい存在だった。
ある意味ではいずれの勢力にも属さない特殊な存在……世界の特異点たる快人に近いと言える性質であり、気付いたとしても即座に最高神が動くわけにはいかない。
もちろん放置はできないので、誰かしらを向かわせる必要があるのだが、どの程度の立場の者までであれば暗黙の了解に触れないか悩みどころである。
同様の理由で、現在ハイドラ国王たるラグナも頭を抱えている。オリビアを迂闊に保護したり、王城に招いたりすれば、暗黙の了解を破ってしまいかねない。
「……というかさ、オリびんってさ……たぶんこの首都に転移してこれたのは、友好都市て転移魔法を発動させたからだよね? でも、一旦こっちに来ちゃうと一般人ぐらいの力しかないんじゃ……」
「ああ、そうだな。しかも、奴は基本的に友好都市から出ないが故、世間知らずな面がある。行動が読めないという意味では、かなり恐ろ……むっ、これは?」
「シャローヴァナル様とミヤマカイトさんが移動……方向的に間違いなく、オリビアの元に向かっていますね。コレは助かりますね」
そう、シャローヴァナルは元々オリビアの主であり、快人はオリビアと同じくどこの勢力にも属さない特異点であるため、その両者がオリビアの対応をしてくれるのは手を出しにくい彼女たちとしては非常に助かる展開だ。
「これは、少々申し訳ないが、シャローヴァナル様とミヤマに任せた方がよさそうだな」
「だね。オリびん的にもあのふたりの言うことならよく聞くだろうし……とりあえず私の権能でサポートするだら、周囲にオリびんのことが気付かれないようにはできると思うけど……オリびんが自分から誰かに声をかけたりしたら分からないね。思念神、近場の誰か動かしてケース73の応用で、下級神によるイベントの手配をよろしく。それで人はある程度動かせるから、できればオリびん周りの人を減らしてシャローヴァナル様たちが合流しやすいようにして」
シャローヴァナル用に用意していたプランから応用できるものを利用して、対処することに決め、いくつかの細かな部分を打ち合わせしていった。
そして、その頃、当のオリビアは困惑した様子で視線を動かしていた。
「……これは、まいりました。到着してからシャローヴァナル様とミヤマカイト様を探して挨拶に向かえばいいと思っていましたが……そういえば、私は友好都市外では探知魔法が使えなかったんでした。とりあえず、どなたかに道を尋ねましょう」
友好都市の外では一般人以下の能力しか持たないオリビアには、この広い首都内でシャローヴァナルや快人がどこにいるかを探す方法を持ち合わせていなかった。
友好都市ヒカリ内ではほぼ万能に近く、様々なことを行える上、ほぼ友好都市の外に出ることは無いため半ば無自覚に近かったが、こうして別の場所にくると能力の低下を如実に感じていた。
ただ、彼女の場合は即座に友好都市に帰還することもできるので、シャローヴァナルと快人への挨拶さえ終わればすぐに友好都市に戻るため問題ないと、そう考えていた。
そう、例によって人混みなど初めての彼女は知らない。こういった場には流れというものがあることを。
「おい、向こうで神様がサプライズでイベントをするらしいぞ」
「え? 本当!? 行ってみましょう!」
「早くいかないと、枠があったら即埋まっちまうぞ!」
奇しくも、オリビアが妙なトラブルに巻き込まれないようにと神族が打った手が裏目に出た。親族による出し物と聞いて、一斉に人が移動し始めその流れに抗う術をオリビアは持ち合わせていなかった。
「え? あっ、もしっ、お待ちを……あっ、これはいったいどこへ……あの、ちょっ……」
人の流れに呑み込まれ、文字通りそのまま流されつつあることにオリビアは焦ったような表情を浮かべていた。コレは不味い、このままでは本当によく分からない場所に移動して、最悪迷子になってしまう可能性すらあると……しかし悲しいかな、理解していても脱出する術はなく、焦燥感だけが大きくなっていく。
だが、そのタイミングで伸びてきた手がオリビアの手首を掴んで強く引き寄せる。
「オリビアさん!」
「あっ……はぇ? ――!?!??!?!?!?!?!」
何とか間に合った快人によって人の流れから手を引かれて脱出できたまではよかった。だがその過程で、快人がオリビアを引き寄せて抱きしめるような形となり。オリビアの思考は――真っ白に塗りつぶされた。
シリアス先輩「な、なにぃぃぃ!? ばっ、馬鹿な!? こ、こんなことが……こんなっ……不意打ちがっ!?」




