もうひとつの建国記念祭⑨
ハイドラ王国の王城の一室では、国王であるラグナが普段の彼女からは想像もできない唖然とした表情で、顎が外れそうなほど口を大きく開いて窓の外を見ていた。
もちろん原因は先ほど発生した海中から出現した超巨大文字が天に昇っていった件である。とはいえ、彼女も歴戦の猛者。少ししてハッとした様子で思考を巡らせ始め……頭を抱えた。
「……ど、どど、どうすればいいんじゃこれ!? あんなド派手にやられたら、誤魔化しようが……というかそもそもなんじゃいまの!? なんか、ヒカリの世界の文字っぽいような気もしたが……」
「間違いなくシャローヴァナル様によるものでしょうね。カイトさんの話では、あの巨大な文字を出現させる表現はシャローヴァナル様が気に入っており、たびたび行っているみたいですし、私も数度見た覚えがあります」
動揺するラグナに対して、結局逃げきれず……ラグナの強い要請もあって執務室に一緒にいたリリアが呟く。彼女の表情は突発的な事態に驚きこそしつつも、ある程度は慣れがあるのかラグナよりは冷静だった。
「シャローヴァナル様が上機嫌なのは良いことではあるが……しかし、国民に説明せんわけにもいかんしのぅ。テロなどと勘違いされてもことじゃし……じゃが、シャローヴァナル様は実質お忍び……忍ぶ気があるかどうかはさておいてお忍びじゃし、名を出すわけにも……」
「大丈夫だと思いますよ。先ほども言った通りあの表現はシャローヴァナル様がよく使うものです。となればクロノア様とはじめとした神族の方々が想定していないわけもないので、すぐに対応に動いてくれるかと……建国記念祭の演出のひとつとして押し切るのが得策ですかね」
「おぉ! さすがリリア嬢、落ち着いておるな」
「……悲しい話ですが踏んできた場数が違います。あと、経験者として言わせてもらいますが……まだ全然序の口だと思いますよ」
「恐ろしいことを言わんでくれ……」
リリアはこれまでも様々な胃の痛い出来事を乗り越えてきた存在であり、ある程度は耐性もある。まぁ、今回に限って言えば主に胃を痛めているのはラグナであり、あくまで来賓という立場のリリアには直接的な被害が少ないのも余裕がある要因ともいえる。
尤も、本来であればほぼ完璧に他人事のはずなのに、こうしてラグナの相談役のようなポジションをやらされるという形でしっかり被害を受けているのは流石という他ない。
時を同じくして、上空で待機していた三人の最高神は巨大な文字を見て即座に行動を開始していた。
「思ったより早いですね。どうやら演出だけのようで、あの文字には実体はありません。海などに影響も無し……幻影魔法で再現可能かと」
「物体を創造してたりするんじゃなくて助かったね。それだと再現するのが少し手間だし……時空神!」
「ああ、これならケース47で対応できる。運命神、権能によるサポートを頼むぞ」
リリアが予想した通り、シャローヴァナルが立体文字による表現を行うのは神族たちもしっかりと予測を立てており、パターン別に対応の用意も行っていた。
三人で素早く確認を終えたあと、クロノアが後方に待機していた上級神の方を向く。目を大きな布で覆い隠した長髪の女性はクロノアの直属でもある思念神オモイカネであり、上級神や下級神への伝達役としてこの場にいた。
「思念神、ケース47だ!」
「畏まりました」
クロノアの言葉を聞いてオモイカネは即座に祈るように手を組む。彼女の権能により現在上級神と下級神は思念を同調させており、リアルタイムで情報の共有が可能となっている。
(皆さん、ケース47で対応です)
(了解。場所は海だから、私が行く)
(空も関わってるし、私と大海神で対応するから、私たちの持ち場へ交代要員を……)
(既に向かわせています。両名はそのまま現地へ)
素早く必要なやり取りを終えると、直後に先ほど巨大文字が現れた海から「ハイドラ王国建国記念祭開催」とこの世界の言葉で立体文字が現れて同じように天に昇っていく。それと同時に海いくつもの水柱が上がり、美しい水のアーチなどを含めて、いくつかの演出が行われる。
『海で行われているのは、最新型魔法具による演出です。実際の波等は発生しませんのでご安心ください』
続けて首都全体に拡声魔法によって放送が行われたことで、先ほどの文字も含めて最新魔法具によるサプライズ演出だったというに話をまとめ上げた。すでに下級神の一部が王城に移動してラグナへの説明も行っている。
「……とりあえず、初撃は凌いだ……といったところか」
「このまま無事にいけばいいのですが……」
「シャローヴァナル様次第だよね。こっちは後手に回るしかないから、とにかく即応できるように注意しておかないとね」
シャローヴァナルがどんな行動を行ってくるかは全く予想できない。ある程度コントロール可能な快人が傍にいるとはいえ、それでも突発的な事態は確実に起こる。
最高神三人は真剣な様子で、再び首都へと視線を戻した。
シリアス先輩「……おそらく胃痛の地獄を何度も経験してきた公爵だ……面構えが違う」
???「本来まったく無関係なはずが、速攻巻き込まれて関係者みたいな立ち位置にいる辺りも、本当に流石っすね」




