もうひとつの建国記念祭④
世界の神たるシャローヴァナルが建国記念祭に来る。ラグナからその言葉を聞いたリリアは一瞬意識を飛ばしそうになった。
先ほどまでは嫌な予感がするのですぐにでも帰りたいと言っていたリリアではあったが、ラグナからシャローヴァナルの名前を聞いた以上はもう帰るという選択肢は取れなくなった。ここで帰ってしまえば、シャローヴァナルの名前を聞いて逃げ帰ったと取られかねず、それはいかに神界の評価が高いリリアでも見逃されないであろう不敬だ。
故に帰宅という選択肢は消え去った。そのことに胃の痛みを感じながら、リリアはラグナに問い返す。
「シャ、シャローヴァナル様が? さ、参列なさるのですか?」
「いや、参列はせんらしい……建国記念祭を見て回るという話じゃ」
「……それ、絶対にひとりでというわけではないですよね?」
「ああ、もちろんカイトと一緒にという話じゃ」
「…………やっぱり」
シャローヴァナルはそもそも本来勇者祭以外では人界を訪れることなど無い。故に当たり前ではあるが過去の建国記念祭に参列したという事実もない。
そんなシャローヴァナルが建国記念祭に来るという事態の裏に、世界の特異点たる快人の存在が無いわけがなく、リリアはなんとも言えない表情を浮かべていた。
「昨日の夜に急に申し訳なさそうな顔をした時の女神さまがいらっしゃってな、その事を伝えてきた。それからはもう大忙しじゃ。なんなら既にこの首都には上級神様と下級神様の殆どが姿などを変えて来ておる。運命の女神さまの力によって、どこに誰が居るかは気付けぬようになっておるがのぅ」
「ラグナ陛下があれだけ疲れた顔をしていた理由がよく分かりました」
リリアの頭に思い浮かぶのは、かつてのシャローヴァナルと快人のデートの光景だ。あの時も殺気立った神族たちが大挙してシンフォニア王国の首都に来て、鉄壁の布陣を敷いていたというのもしっかりと覚えている。
ともかく神族はシャローヴァナル絶対主義であり、シャローヴァナルへの不敬を許さない。なにがあっても即応できるように、一夜で建国記念祭の各地に布陣を敷き、最高神の三人が指揮を執っている。
「いや、本当に胃が痛いというリリア嬢の気持ちがよく分かる。なにせ、この件に関してはこちらからはほぼ動けん。迂闊に動いてカイトとのデートを邪魔する形になれば、シャローヴァナル様に不快な思いをさせてしまう可能性もある」
「そうですね。その上、カイトさんと一緒にいる時のシャローヴァナル様の行動は本当に読めないというか……ああ、本当になんでこんなことに……」
「それにしても、その反応を見る限りリリア嬢も知らんかったのか……やけに急な話だとは思ったのじゃが、カイトの性格上リリア嬢には事前に伝えているかと思っておったのじゃが……いや、確かにカイトを誘ったのはワシじゃ。来てくれと言ったし、誰かを誘えとも言った。言ったが……まさかシャローヴァナル様を連れてくるとは思わんじゃろ……」
キリキリと胃の痛い思いはしているが、それでもそもそもを辿れば快人に建国記念祭に来るように促したのは己なので文句も言えないと頭を抱えるラグナを見て、リリアはふと疑問を思い浮かべた。
リリアも事前に快人から建国記念祭を誰かと周るという話は聞いていた。だが、誰と周るかに関してはド忘れしてしまっていた。
(……シャローヴァナル様と周ることを聞いておきながら忘れる? いや、そんなことは流石に……もしかして、あまりにも衝撃的過ぎて、胃の痛みから己を守るために忘れていたとか?)
リリアとしても今回に関しては事前に快人に話を聞いたという記憶はしっかりある。そしてその際に己も納得したという覚えもあるので、快人に文句を言うわけにもいかない。
ここが別次元であるとは当然気付かぬまま、リリアもラグナもそっとお腹に手を当てた。
そんな風にリリアやラグナが胃の痛みを混じているころ、当の快人はというと……。
「……えっと、シロさん?」
「なんでしょうか?」
「なんで神域スタート?」
「今日は『パターンB』なので」
「……んん?」
なぜか建国記念祭前に、神域でシャローヴァナルと共に朝食を食べていた。
シリアス先輩「別次元でも胃痛戦士は胃痛戦士。しかも、快人に事前に話を聞いて納得しているという記憶はしっかり引き継いでるから、文句も言いにくいのが……まぁ、そもそも建国記念祭終われば正規の次元に戻るから、ふたりとも胃痛は無かったことになるから大丈夫……?」




