月明かりの差し込むコテージで⑤
のんびりと会話をしながら砂浜を歩き、目的地となるコテージに到着した。コテージは少し高い位置にあり、大きく広がる海がよく見えそうな位置だ。
中に入ってみると内装はシンプルながらもセンスのいいものが多く、圧倒的な広さとかはないものの高級感が漂う雰囲気だった。
「結構いい感じの室内だな」
「ですね。高級感って意味では足らないかもですけど……」
「いやいや、俺としてはこのぐらいの高級感の方が落ち着く。豪華すぎても逆になんか気を張ってしまうというか……」
「あ~その感覚はなんとなく分かりますねぇ。いいものはいいんでしょうけど、なんか王族的な高級感よりは庶民が背伸びするような高級感の方が落ち着くってのはありますね」
「そうそう」
それにこのコテージも決して質素だったりするわけではなく、普通に高級感漂うしふたりで使うのには広すぎるぐらいには大きい。ただ貴族が利用するというイメージで考えると、少々簡素な感じが強い。その辺りも含めてお忍び用って感じなのだろう。
「さ、ささささ、さて、つつ、次はなにをしましょうか?」
「だから、もう少し落ち着けって……」
コテージに入ったことで動揺が再び顔を出し始めたアリスにツッコミを入れる。一瞬「別に無理をする必要はないし、次の機会でも……」と口にしかけたが、その言葉は呑み込んだ。
アリスは本当に渾身の勇気を振り絞っているし、なんだかんだで覚悟も決めているのだろう。ただ気恥ずかしさからたびたびヘタレているだけ、そういう提案はアリスを気遣ったつもりで逆に傷つけてしまう結果にしかならないだろう。
「まぁ、そう焦る必要も無いから、さっき話してたみたいにお茶でもしながら一休みしよう。なんだかんだで、一日歩き回ってたわけだしな」
「あっ、そうっすね。了解です」
アリスがテンパりやすい状態だからこそ、俺の方は無理してでも冷静で余裕があるように努めておくべきだろうし、可能な限りこちらがリードすべきだ。
特にこういう状況でテンパりやすいのは「なにをどうすればいいか」みたいな思考だろうから、その辺りの導線を示してやるべきだろう。
「それでお茶を飲んで景色を楽しみながら、せっかくふたりっきりなんだからいちゃいちゃでもして、段階を踏んでいけばいいさ」
「な、なるほど、つまり……月明かりに照らされる海とか星を、コーヒーの入ったマグカップを片手にベランダから見て雑談しつつ、空いた手を触れ合わせたり、ば、バードキスとかの軽いキスなんかで雰囲気を高めて、その後に、いい、一緒にお風呂とかに入って適度に触れ合って、そそ、それからベッドに向かう感じの……」
「そこまで言ってな……いや、まぁ、お前がそうしたいなら、その方向でいいけど……」
捲し立てるように言う辺り、緊張で妄想力は非常に高まっているらしい。ただそれでもマグカップ片手にベランダから景色を眺めるとか、恋愛映画っぽいシチュエーションを望む辺りは非常にアリスっぽい。
俺自身はそこまで具体的に考えていたわけではないが、アリスが口にした通りに進めていくのがいいのかな?
「……とりあえず、コーヒー用意するか、いやでも夜と考えるとココアとかの方がそれっぽくないか?」
「あ、ココアいいっすね。甘い味と甘い雰囲気……そういうのいいですよね」
「コーヒーはあるけど、ココアはあったかなぁ?」
「私が持ってますよ。用意しますね」
「……あと、仮面外したら?」
「………………あ、あと、3時間ぐらい心の準備してからとか、駄目っすか?」
「駄目」
「あぅ……」
俺の言葉を聞いて、アリスは観念したように恥ずかしそうに仮面を外す。そもそも俺とふたりきりと時は時折仮面を外しているのだが、気恥ずかしい時は付けていたがる感じがするので、あまり顔が隠れているとは言えないがあの仮面でも精神的には安心感があるみたいだ。
だがまぁ、なんだかんだで素直に外すことに応じる辺り、アリス自身もこのシチュエーションでは仮面は邪魔だと感じているのかもしれない。
それはそうと、ベランダで星と海を見ながらいちゃいちゃか……ある程度定番のシチュエーションは頭に思い浮かべておいた方がリードはしやすいだろう。
あとはバードキスを所望……所望したのではないかもしれないが、ある程度はそういった行動も勢いに応じて行わないと、まったく話が進まないというのはあるので、多少の強引さも必要だ。
まぁ、なんにせよ。できるだけ、アリスが幸せを感じつつ緊張を解いて行けるような感じになればいいなぁと、そう思っている。
マキナ「やっぱこういう状況になると、愛しい我が子とアリスの経験値の差が出てくるよね。まぁ、アリスが奥手すぎるってのもあるんだけどね」
シリアス先輩「……逃げていいっすか?」
マキナ「駄目」
シリアス先輩「ふぐぅ……」




