月明かりの差し込むコテージで③
俺の知らない俺からのサプライズケーキが登場して困惑していると、アリスは去っていく店員を訝し気な目で見たあとで、軽くため息を吐いて小さく呟く。
「……まったく、変な気を使うもんすね」
「うん?」
「ああ、いや、別にへんなものが入ってたりはしないので……カイトさんからのサプライズケーキ、ありがたくいただきますよ」
俺からのサプライズではないのだが、とりあえずアリスが問題なしと判断したのなら大丈夫だろう。ケーキは本当に可愛らしい感じで、カップル向けという感じだった。
そしてアリスがケーキを食べようとして、ふとなにかを探すように視線を動かす。
「あれ? フォークとかが無いっすね?」
たしかにケーキはあっても食べる食器が無いなぁと思っていると、先ほどの店員が俺に近付いて来てフォークを手渡してくる。
「こちらのケーキは、彼氏様が彼女様に食べさせてあげるのが正式となっておりますので、フォークは彼氏様にだけお渡ししますね」
「え? あ、はい」
「……は? い、いや、ちょっとこら、マ――店員!!」
俺がアリスに食べさせる。いわゆるあーんの形で食べさせるのが正式だと告げる店員にアリスがなにか文句を言いかけたが、それよりも早く店員は俺にフォークを渡してスッと奥に引っ込んでいった。
するとそれを見てスッと目を細めたアリスが、椅子から立ち上がったので慌てて声をかける。
「おい、アリス?」
「ちょっと、あの店員ぶっ飛ばしてきます」
「やめろっ、というか落ち着け……別にあの店員に悪気があったわけじゃなくて、そういうものなんだろうし……六王に襲われるとか、店員さんが可哀そう過ぎるだろ」
「いや、別に本気でやっても死にはしな……はぁ、まぁ、そうっすね」
なにやら怒りをあらわにしている感じだったアリスだが、途中でなにか諦めたような表情でため息を吐いた。
とりあえず店員に怒りを向けるのはやめたみたいなのでホッと胸を撫で下ろしつつ、手に持ったフォークに視線を落とす。
「まぁ、とりあえずそういう方法で食べるべきって言うなら、そうしようか……アリスの要望通り、イチャイチャもできるわけだし」
「よ、よよよ、要望なんてしてねぇっすけど!? あ、あくまで、少しだけ、ちょっと、そういうのもいいかなぁって……」
「とりあえず向かい合った状態じゃ食べさせにくいし、移動するか」
「全然聞いてない!?」
レストランが貸し切り状態なので、多少マナー的に問題がある行動もできるのはよかった。椅子を軽く持ち上げてアリスと隣り合うように座り、ケーキの花火を外して手元に移動させる。
そしてケーキを一口分とって赤い顔で騒いでいるアリスに差し出す。
「ほら、あ~ん」
「なんでそんな余裕そうなんすか!? うぐぐ、もぅ……いただきます」
余裕そうもなにも、前にもやったことがあるし……なんなら、手が腱鞘炎になるんじゃないかと思うぐらいの量を食べさせたこともあるわけだ。
苦笑する俺の前で差し出されたケーキを一口食べたアリスは、気恥ずかしそうに視線を動かしつつもどこか嬉しそうな感じで、口の中身を呑み込んだあとはすぐに口を開けた。
その仕草を可愛らしいと感じつつ、またケーキを一口分とって口に運ぶ。するとそのタイミングで、ドンという音と主に窓の外に綺麗な光が見えた。
「……おっ、花火始まったみたいだな」
「ですね。ハイドラ王国の花火は結構規模が凄いので、シンフォニア王国やアルクレシア帝国よりも派手ですよ」
「俺そのふたつに関しては、ほぼ見てないからあまり差は分からないけどな」
シンフォニア王国とアルクレシア帝国の建国記念祭では出店をやっていたし、出店の場所も大通りを避けた端の方だったので、花火はあまり見えなかった。建物の隙間からチラッと見えたりはしたが、いまほど綺麗に見えた覚えはない。
こうして特等席ともいえる場所で見えるのは贅沢な気分だし、見ていて楽しい……アリスに感謝だな。
そんな風に思ったタイミングで、ふとフォークを持っているのとは逆の手の指をアリスが摘まむように持ってきた。
チラリと視線を向けても、アリスの目は窓の外に向いており恥ずかしがっているのかそれとも無意識なのかは分からなかったが、その控えめな要望に応じるように手を握ると、ギュッと手を握り返してくれた。
瞳に映る美しい光景と、手に感じる小さく柔らかな温もりを感じながら……なんとも言えない胸の温かさと共に花火を見続けた。
シリアス先輩「……ヤバいなこれ、次回にでもコテージに移動してそうな雰囲気がしてきたぞ……」




