月明かりの差し込むコテージで②
アリスが予約したレストランは首都内でも少し地形が高くなっている場所にあり、そのレストランの周辺というか、レストランがあるエリアには出店が全く見当たらずに、建国記念祭の日とは思えないほど静かで落ち着いた雰囲気が流れていた。
「なんか、落ち着いた感じだな」
「この辺りは、高級店の多いエリアで富裕層が利用する場所ですからね。出店なんかは禁止なんです。ハイドラ王国は市民の力が強いので、平等ってイメージを持たれやすいですが、むしろ貧富の差は大きいです。まぁ、その辺りを救済する制度もあるのでスラムだのなんだのみたいなところがあるわけではないですけどね」
「へぇ、まぁ、確かに革新的な国風で個人や中小の商売が活発だと、必然的にそういう成功した人と失敗した人の差みたいなのは生まれるか……」
当たり前ではあるが、全員が全員成功者になれるわけではない。貧富の差は生まれて然るべきだろう。なので、こういう高級エリアみたいなのがあるのも不思議ではない。
ハイドラ王国は観光で訪れる人も多そうだし、ラグナさんもビーチを作ったり観光にも力を入れていた覚えもある。
そう考えてみてみると、この高級店エリアも綺麗に舗装された道やお洒落な街灯も含めて、高級感のある区画としてデザインされているように見える。
周囲を軽く見つつレストランの中に入ると、窓際の景色がよく見えるテーブルに案内された。既にメニューはアリスが予約済みなので、飲み物に関してだけ聞かれたのでレストランの雰囲気に合った赤ワインを頼むことにした。
ふふ、俺もお洒落な店に数々行った経験があるから、ワインに関してもそれなりに通……というわけでもない。正直、良し悪しなんてシャロ―グランデとかああいう異次元のレベルにならないとよく分からない。
「でもなんか、こういうレストランで向かい合ってワインで乾杯って大人のデートって感じがしないっすか?」
「ドラマとかでよく見る形だよな。まぁ、定番といえば定番な感じもするけど、それだけいいシチュエーションってことだよな」
「夜景の見える高層レストランで、優雅にディナーを楽しんだあとでサプライズプレゼントですね!」
「お前本当にそういうの好きだよなぁ」
「いやいや、カイトさん。舐めないでくださいよ、私が何年処女拗らせてると思うんですか、娯楽とかでそういう知識だけ増えていくので、定番中の定番ってやつに憧れるんですよ」
アリスはロマンチックで定番の恋愛というか、そういうシチュエーションが好きだ。いざ自分がやるとなると照れまくって冷静にこなせないのは置いておいて、今回のレストランもそうだが積極的にそういった憧れていたシチュエーションを体験しようとして行動を起こすことも多い。
「……ああ、でも、今回はなんかいつもより余裕そうな感じがするな」
「ふふふ、まぁ、アレっすね。この後のことを思えば、全然……いや、この後のことについては必死に考えないようにしてますが、そこに全力使ってるせいで逆に落ち着いてるってのはありますね」
「……」
ドヤ顔でそんなことを言うアリスにツッコミを入れようかとも思ったが、割と切実に意識するとまともに行動できなくなりそうな感じがしたので、余計なことは言わないことにする。
なにせ物理的に穴掘って埋まろうという奇行を始めるぐらいにはテンパってたし、いまも本当に全力で目を逸らしている結果の涙ぐましい虚勢である。
ただ、うん。本当にアリスには申し訳ないが、そうやってアリスが意識して緊張しまくっているせいで、俺の方は落ち着けているというのはある。
自分以上にテンパったり緊張したりしている人を見ると、冷静になるアレだ。
「まぁ、残念ながらサプライズプレゼントはないけどな」
「あはは、むしろ、これでなにか用意してたらビックリですよ」
最初からこういうシチュエーションになると分かっていたら何か用意したかもしれないが、生憎と事前情報はゼロの状態なのでなにも用意していない。
もちろんアリスもそんなことは分かっており、楽し気に苦笑していた。
そして、タイミングを見計らったかのように料理が運ばれてきて、夕食がスタートする。高級レストランらしく、フレンチっぽい感じで順にコース料理が出てくる形だった。
アリスは普段のように大量に食べるのではなく、上品にナイフとフォークを使って食事をしており、その洗練された所作は美しく、どこか普段より大人っぽく感じた。
そうして、美味しいコース料理を食べ終え、食後のワインでも楽しみながら花火を鑑賞というタイミングで、店員がパチパチと料理用の花火が刺さった、可愛らしいケーキが運ばれてきた。
「……こちらは、アリス様に宮間快人様からのサプライズケーキです」
「……はい?」
キョトンとしているアリスだが、俺もポカンとしていた。なにせ、俺の知らないサプライズが、俺の名前で唐突に発生したからだ。え? なにこれ? どういう状況!?
シリアス先輩「快人の名前をカタカナじゃなく漢字で呼んでる。その上で、アリスをサポートするような行動をとるのは……」
マキナ「ふっ、世話の焼ける親友だよ……」
シリアス先輩「やっぱお前か!?」




