夜が更けるまでの間に④
いつまでも亜空間にいるわけにはいかないので、ドリンクを飲み終えたらすぐにハイドラ王国に戻ってきた。なおアリスは、やはり気恥ずかしさが強いのか顔を真っ赤にした状態で俺の手を握っていた。
いや、誓って何か変なことをしたわけではなく、普通にドリンクを飲んだだけである。
「アリス、いちおう聞くけど大丈夫か?」
「……ふっ、舐めないでくださいよ。致命傷です」
「弱すぎるだろ……」
「言ってるじゃないっすか、恋愛クソ雑魚なんだって……まぁ、そんなわけで次は精神的な負荷の少ないものがいいですね」
「……とくに精神的負荷を強いるものはこれまでも無かったんだが……まぁ、いいか」
アリスの言う精神的負荷というのはいわゆる恥ずかしい関連は勘弁してくれということみたいだ。しかし、なんだかんだでアリスもドリンクを一緒に飲むのは喜んでいた。
コテコテのシチュエーションが好きなアリスだからこそ、最初こそガチガチだったが、ドリンクを飲んでいる最中は嬉しそうにニコニコとしていた。終わったあとに思い返して再ダメージを受けるまでがワンセットなので、現在も顔を赤くしてはいるが手はしっかりと握っており、表情もどことなく楽しげである。
「そういえば、話は変わるけど、なんだかんだで今回の建国記念祭は平和だよな? いや、初代勇者のメッセージ公開って大きなイベントはあったけど、あんまり俺たちに関わるものは無いよな」
「そうっすね。基本的に常識の外にいる神ふたり辺りが動かなければ、ある程度はどうとでもなるんすよ。六王が全員揃おうが、最高神が全員揃おうが、事前の取り決め通りに進行するならそう混乱することでもないすよ。元々そういう立場の人を招く予定で準備してるんですし、想定外が無い限りはね」
「なるほど……」
たしかに言われてみれば、シンフォニア王国の時も六王全員が参列というのが初めての事態だっただけで、元々リリウッドさんとかは来る予定だったわけだし、アルクレシア帝国も同じような感じだった。
実際セレモニーがそんなにバタバタした印象は……アルクレシアのメギドさんが乱入した件ぐらいしか思いつかない。
「最大の懸念である神ふたりに関しては、目的は100%カイトさんなので、カイトさんが出店とかしない限り来る可能性は低いですから、そういう意味では大きな騒ぎにはなりにくいですね。ああ、次のデートに関してはご愁傷様です」
「……そっか……次、シロさんと周るんだった……待てよ? 並行世界云々に混乱し過ぎてうっかりしてたけど……シロさんが祭りを周るって状況がすでにヤバくないか?」
「ヤバいですね。あと残念なお知らせもしておきましょう。いまさら気付いても手遅れです……おそらく、建国記念祭の開始日を基準に並行世界を一時的に作り出すでしょうから、いまこの時点でラグナさんとかに言ったところで、カイトさんがシャローヴァナル様と周る際のラグナさんとかには伝わりません」
「……そうか、終わったな……」
平和なのは今だけで、次は地獄の騒ぎが確定したようなものである。なんなら初代勇者のメッセージどころではないかもしれない。
「……い、いや、でも、シロさんもさすがにその辺りは考えて対策をしてるんじゃないかな?」
「う~ん。可能性はありますね。最近のシャローヴァナル様なら、自分が祭りを周ることでの周囲の混乱が分からないわけがないですし、周囲が混乱すればカイトさんと楽しく祭りを周るのも難しいでしょうから、シャローヴァナル様としても望む展開ではないでしょうね」
たしかに、シロさんの目的は俺と建国記念祭を楽しむことなわけだ。となれば、大混乱を招くような事態は避ける筈……実際に、そうなったら祭りを周るどころではないし……。
(あっ……ふむ……安心してください。もちろんしっかりと対策はします)
おっと、いま完全に「すっかり忘れてた」みたいな反応してたぞ……まぁ、シロさんに関しては並行世界云々は関係ないので、明日……もとい、シロさんと周る時にはちゃんと対策がされていそうである。
シリアス先輩「ふぅぅ、そ、そうだ。落ち着くんだ。ゆっくり、ゆっくりと糖度を下げるんだ。急激に糖度を上げるのは危険だ……まずは落ち着いて……」
マキナ「ふむ……シリアス先輩がそう言ってるってことは次回は……」




