夜が更けるまでの間に②
引き続きアリスと一緒に建国記念祭を見て回っていると、何とも奇妙な光景を目にした。というのも、頭に大きな球体状の……ヘルメットというには大きすぎる被り物を被った人たちが、横長の木造りの容器に向かって木の棒を構えているという光景があったからだ。
パッと見では、気が狂っているとしか思えない構図なのだが……アレもなんらかの遊戯なのだろうか?
「……とんでもない光景だけど、アレなんだろ?」
「アレは、釣りをしてるんすよ」
「釣り? 釣り……あ~、もしかしてアレかVR的な感じの!」
アリスに尋ねてみると釣りをしているという言葉が返ってきた。他の人が言うなら、なにを馬鹿なと思うところだが、アリスの情報なら正確だろうし、アレがなにかの正解を知らない状態の俺に嘘を教える理由も無い。
そしてアリスの言葉が正しいという前提で考えると、あのヘルメットのような被り物と棒は、VRゴーグルとコントローラーと考えることができた。
「そうです。ほら、最初の六王祭で私が新技術をいくつか公開したでしょ? あの中のVRを研究して作ったものですね。まぁ、私が六王祭で出したのは空間隔離結界に近く、いまあそこで釣りしているのは幻影魔法の応用なので、厳密に言えば別物ですけど……着想は例のVRからですね」
「へぇ、流石革新的なハイドラ王国。さっそく新技術を取り入れてきたわけか……」
「まぁ、まだまだ発展途上なので内容はシンプルですし、見てくれもあんなのですが……カイトさんの世界で言うところのゲームの先駆けみたいなものですかね。こっちでは魔法を用いて作るので、いろいろ違ってきますが、十年ぐらいすれば結構本格的なものが出てくるんじゃないですか?」
「それは楽しみだな。そうなったらぜひプレイしたいもんだ」
たぶんまだ本当にただ幻影魔法で疑似的な釣り場に見立てた木の箱で釣りをするだけなのだろうが、アリスの言う通り今後発展していけばこの世界ならではのゲームとかが登場してくるかもしれない。そうなると非常に楽しみだし、是非遊んでみたいものだ。
やはり革新的なハイドラ王国の祭りだけあって珍しいものが沢山で回っていて楽しい。分からないものに関してもアリスに聞けばすぐに教えてもらえるので困ることもない。
ただ、せっかくデートでもあるわけだし、恋人っぽいようなこともしたいものではあるが……。
そんな風に考えながら視線を動かしていると、やけにピンク色が多く使われた出店を見つけた。看板には『カップル限定スペシャルドリンク』と書かれている。
「……へぇ」
こてこてな感じではあるが、ああいうのもいいかもしれない。クロやシロさんと一緒に飲んだことはあるけど、やっぱりああいうひとつのドリンクをふたりで飲み合うのはカップルっぽい気がする。
そう思って出店に視線を向けると、アリスが驚愕したような表情を浮かべて何度も俺と出店に視線を動かす。たぶんだけど、俺が考えていることをなんとなく察したのではないかと思う。
「……カイトさん、正気っすか? こんな公衆の面前で私を辱めるつもりですか……」
「誤解を招く言い方はやめろ。いや、ああいうのもカップルっぽくていいかなぁって思ったんだけど……」
「はぁぁぁ……やれやれ」
俺の言葉を聞いたアリスは、わざとらしいほどに大きなため息を吐いた。そして、キッと俺の目を見て、力強い口調で告げる。
「カイトさんも、それなりに私と恋人になって長いわけですし、いい加減私の恋愛クソ雑魚っぷりを学習してほしいものですね!」
「それ自信満々に言うことか!?」
「いいですか、アリスちゃんのメンタルはこと恋愛に関してはプレパラートのカバーガラス並みに柔いんですよ。とんでもない雑魚っぷりなんですよ。見くびらないでほしいですね!」
「想定より遥かに下であることを見くびりとは、恐れ入る」
まぁ、アレコレ言ってはいるのだが、アリスの主張はシンプルで「恥ずかしい」というものである。アリスが恥ずかしがり屋なのは当然よく知っているし、こういう提案をすれば間違いなくこういう反応をするというのも分かっていた。
「分かりましたか? 己がいかに迂闊なことを考えていたか……分かったら……」
「でもお前、ああいうの好きだろ?」
「………‥…………」
俺の言葉を聞いたアリスは、なんとも言えない気まずそうな表情で視線を逸らして沈黙した。珍しく返答に詰まっているというか、ぐぅの音も出ないとはこういう顔だという表情である。
そう、確かにアリスは恥ずかしがり屋だが……こういう、いかにも恋人っぽいというか、恋愛漫画とかに出て来そうなシチュエーションに憧れがあるというか、ロマンチストな面がある。
「要するに人の目があることが懸念って言うなら、買った後で別のところに移動して飲めばいいわけだし、それこそアリスなら亜空間作ったりとかもできるんだろ?」
「……そ、それは……まぁ、そ、そうですが……」
「まぁ、それでもアリスが嫌って言うならやめとくけど……どうする?」
「うぐっ、あっ、うっ……ま、まま、まぁ、わっ、私もカイトさんの恋人なわけですし……カイトさんがどうしてもって言うなら、要望を叶えてあげることもやぶさかではないというか……ま、まぁ、仕方なくっすけど!?」
顔を真っ赤にしつつも、やはりそういうこと自体には憧れがあるというか、やりたそうな感じだった。なんとも可愛らしい反応に思わず苦笑しつつ、俺はアリスに対して「どうしても」と口にして、スペシャルドリンクを飲むことを提案した。
シリアス先輩「ひぇ……と、糖度が上がり始めた……たっ、たすけ……」




