夜が更けるまでの間に①
アリスの奇妙な態度は気になったものの、その後は特に疑問を抱くような行動は無く普通に建国記念祭を楽しんだ感じだった。
「これ、結構いい感じじゃないか?」
「カイトさんって意外と手先は器用っすよね。ルービックキューブが得意だったりするのも、その辺が関係してるんですかね?」
「確かに、細かい作業はちょっと得意かも……よっと」
出店で見つけた板の上に書かれた複雑な形を魔法具のペンでなぞりながら遊び、どの位置まで進められたかによってもらえる景品が変わってくるみたいで、同じ線をなぞることが出来なかったり、一定以上の時間ペンを止めると失格になるので結構難しい。
だが、アリスの言う通り俺は結構手先が器用な方なので、割といい感じに進んでおり半分を超えることができていた。
ちなみにこの遊具自体が魔法具なので失敗した時の誤魔化しは効かない。
「……お嬢ちゃんの方はやらないのかい? スタート前にいつまでも悩んでたら、上手くいくものも行かないぜ?」
一定時間ペンを止めると失格というのはスタートしてからの話であり、スタート前に関してはいつまで待っていても問題はない。
しかし、それなりに時間のかかる遊びであり、かつお金を払っておきながら未だにスタートしていないアリスに店主が不思議そうに首を傾げながら尋ねると、アリスは思い出したような表情を浮かべた。
「ああ、そうですね……はい、終わりました」
「…………え?」
一言呟いたあと、アリスはまるで軽く直線でも引くような感じでペンを動かして一息でゴールまで到達してしまった。
正直この遊びに関しては、動体視力だとか身体能力は関係なく手先の器用さが重要である。そして、その手の分野に関してアリスは圧倒的だ。
たとえなぞる線がペン先ピッタリの太さしかなかったとしても、コイツなら少しもズレることなくなぞってしまいそうである。
「さぁ、カイトさん。そこからが難しいっすよ~果たしてカイトさんにクリアできますかね」
「ぐっ、確かに結構ウネウネしてきたというか……」
なぞり終えた板を渡し、戸惑う店主にまったく関心はない様子でアリスは苦戦する俺を見て楽し気な表情を浮かべていた。
いくつかの出店を周っていると、軽快な音楽が聞こえてきたのでそちらに移動する。そこは広場のようになっており、民族衣装のような服を着た人たちが軽快な踊りを披露していた。
なんというか、独特の踊りでありなめらかでキレがある感じで、あまり詳しくない俺でも見事な踊りだと理解することはできた。
「……ベリーダンスってやつかな?」
「雰囲気は似てますね。ハイドラ王国の一部の地域に伝わる伝統のダンスですね」
「確かになんとなくそんな雰囲気の音楽と踊りって感じがする。歴史を感じるというか……」
「ハイドラ王国は革新的な国なので新しいものばかりと誤解されがちですが、結構こういった昔から伝わる伝統的なものも多いんですよ。そもそもが、複数の小国が集まってできた国ですから珍しい文化も多いですし……新しいものに積極的に挑戦しつつも、古いものにも敬意を払うって感じで、こういう大きな祭りだと結構伝統芸能系も多いっすね」
「へぇ……」
そういえば、ノインさんが旅をした時代にはハイドラ王国の辺境に米が栽培されていたり、フライングボードとかって変わった催しも会あったり、新しいものだけじゃなくて珍しいものも多い印象を受ける。
なんというか面白い国というか……個人的な印象だけど、ラグナさんを中心とした国の方針として、国民が生み出すものをすごく尊重している感じがする。その結果が革新的で挑戦気質な国風でありつつも、様々な伝統も残っているという国になっているのだろう。
「そう聞くとハイドラ王国ってやっぱ凄いなぁって思うけど、欠点とかないの?」
「そりゃありますよ。例えばその国風が合わないって人もそれなりに居ますよ。確かにいい伝統は残りますが、流行の移り変わりが激しいので、中途半端な流行程度はすぐに廃れてしまいますしね。この国で成功を掴むには、目まぐるしい変化に適応しなければいけません。それが出来ずにハイドラ王国からは手を引いた商会とかも多いですしね」
「そう考えると、結構実力主義的な部分もあるのか……」
「そうっすね。全部がそうってわけじゃないですけど、実力や運でふるい落としにかけられやすい国ではありますね。まぁ、だからこそゴリラさんはこの国が好きなんですが……」
あぁ、確かに競争が激しい国風というのはメギドさんが好みそうである。そして、平然とメギドさんをゴリラ呼びするアリスもアレだが、それを当たり前のようにメギドさんと認識して頷いている俺も、微妙に失礼ではあるかもしれない。
シリアス先輩「なんて不吉なサブタイトル。夜にイベントありますって言ってるようなもんじゃないか……」




