ハイドラ王国建国記念祭⑩
アレコレ話をしている間に建国記念セレモニーが開催となった。最初は国王であるラグナさんの話から始まり、貴賓の紹介や簡単な挨拶といった式典っぽい手順で話は進んでいく。
とはいえ、集まった観客たちの意識はやはりというべきか……広場の中央のステージ上に置かれ、厳重な警備の上で布を被せられている大きな物体に向いている気がする。
「……ノインさん、メッセージって滅茶苦茶大きいですね?」
「ええ、フュンフ様が錬成魔法で作り出した強度の鉱石の板に文字を彫った……石碑のようなものですからね。材質などは違いますが、勇者の丘に置いたものと似た雰囲気で作ってほしいとラグナに言われたので……」
「たぶん今回の建国記念祭が終わった後は、どっかに飾って観光地にするつもりなんじゃない? 辞めたいとか言ってる割には、相変わらずキッチリ国益出すんだからねぇ~」
勇者の丘も観光地として有名であり、石碑の元には毎年多くの人が訪れるという話だ。それだけ初代勇者のネームバリューが凄いのだろう。
政治的な話では、シンフォニア王国には神族が作った天空城が、アルクレシア帝国にはフェイトさんの加護を受けたパワースポットがと、昨今観光地として強いところが出てきているので、それに対抗した形かもしれない。
『さて、例年であればこの後は国家の斉唱などを含めた定番の行事があるのじゃが、集まった者たちも貴賓の方々も、興味はそこではあるまい。なので、例年通りの催しは後に回して本題に移ろう!』
拡声魔法を用いて告げられたラグナさんの言葉に、会場のボルテージがかなり上がったのが分かった。石碑のあるステージに上ったラグナさんは、観客たちの様子に満足気に頷いたあとで話し始める。
『皆も初代勇者……ヒカリに関しては気になる部分も多いじゃろう。本人の意向もある故ワシもすべてを話せるわけではない。じゃが、皆が気になっている一点に関しては、本人に許可を得ているのでこの場で語っておこう。この世界に大いなる変革をもたらした英雄……初代勇者、クジョウヒカリは……現在も生きている!!』
その宣言に会場に大きな衝撃が走ったのを、すぐに理解することができた。そう、集まった人たちが一番気になっていた部分はそこだろう。友好条約締結以降姿を消し、六王や最高神も語ることは無い初代勇者のその後……今回のメッセージの公開により、生存説が裏付けられるのではという内容の雑誌や号外もいくつも見たほど、世間の注目度は高かった。
そして、その期待に応えるようにラグナさんは初代勇者の生存を断言した。
『ヒカリが異世界に帰ったか、この世界に残っているかに関しては語るつもりはない。ただ、ヒカリが生存していることだけは事実であり、公開するメッセージもワシが無理を言ってヒカリに用意してもらったものであり、ごく最近作られたものであることはここに宣言しておく』
この世界、トリニィアと俺たちの居た世界の時間の流れが違うことは広く知られているが、具体的にどのぐらい違うかは明かされていない。
ふたつの世界を行き来できる俺は、おおよそ10倍ほどの差があるとは分かっているが……ただその時間のズレも、シロさんやエデンさんのような全能級の神様には好きに調整できるレベルっぽいので、あんまりアテにならない感じではある。
ラグナさんの言葉によって、初代勇者の生存は確定したが……初代勇者が元の世界に帰って、なんらかの方法でラグナさんと連絡を取っているか、この世界に残りなんらかの方法で人間という種の寿命を超えて生存しているかはハッキリしていないので、またいろいろな説の議論で盛り上がったりするかもしれない。
『さて、これ以上もったいぶっても仕方がない。それでは、初代勇者クジョウヒカリからのメッセージを公開する!』
ラグナさんの宣言と共に石碑にかけられていた布が外され、日本語……観客にとっては異世界の文字で書かれた石碑が現れた。
そして、ラグナさんから拡声魔法具を受け取った読み上げ担当らしき女性が、やや緊張した面持ちで内容を読み上げる。
『トリニィアに住む皆さん。九条光です。私がこの世界に召喚されて旅に出て、友好条約が結ばれて旅が終ってから、既に千年以上も経過したのですね。ラグナに頼まれてこうして筆を手に取っている際にも、当時の思い出がいろいろと蘇り、懐かしい気持ちになりました。私の戦いは、友好条約の締結をもって終わりを迎えました。再び私が表舞台に上がることは無いでしょう。ただ、かつて紡いだものをいまを生きる皆さんが受け継ぎ、私が見たいと願った平和で温かい世界を築いてくださっていることを、本当に嬉しく思います』
そんな出だしから始まり、間違いなくノインさんの本心であろうメッセージが続いていく。この世界に生きて前を向いてあるひとりひとりが平和な世界を作る勇者であると、そんな優しいメッセージが綴られており、読み上げられるメッセージに……会場に集まった多くの人たちは、静かに耳を傾けていた。
チラリと横を見てみると、そんな光景を……かつて願い奮闘して目指した世界が実現している様子を、ノインさんが幸せそうな微笑みを浮かべて見つめていた。
シリアス先輩「⑩……これ、アレだろ⑫ぐらいまでいったあと、新しいサブタイトル……イチャラブ重視のサブタイトルが生えてくるパターンだろ? 知ってるぞ……やめてくれ……」




