ハイドラ王国建国記念祭⑧
海竜行進を見学し終えて、俺たちはすぐにセレモニーの行われる議院前広場へと向かった。正直時間にあまり余裕はない。
海竜行進は建国記念祭にいくつもあるイベントのひとつであり、特にセレモニーと連動している国主導のイベントというわけでもないので、間の時間がそれほど空いているわけではない。
というか、なんなら海竜行進を一番最後の竜の飾りを奉納するところまで見た場合は、セレモニー開始には間に合わないと言っていい。
まぁ、俺たちも含め海竜行進からセレモニーへという間の詰まったスケジュールで行動する人の主目的は、セレモニー自体ではなく初代勇者のメッセージだと思うので、そこだけに絞るならある程度時間的余裕はあるかもしれない。
「……いや、というか人が凄いですね。マジで大移動というべきか……」
「そうですね。こ、ここまでとは……これは流石に難しいのでは? 数メートル進むだけでも大変ですよ」
正直当人であるノインさんもそうだが、俺も少々初代勇者というネームバリューを甘く見ていたのかもしれない。大通りには俺たちと同じくセレモニーに向かおうとする人がひしめいており、とても開始時間までに議院広場に辿り着ける気がしなかった。
メッセージの内容自体は、建国祭のあとで各雑誌などでも紹介されるだろうが、現地で発表の瞬間を見たいと考えている人が凄まじく多い感じだった。
「皆さん、こっちですよ」
「うん? アリス、その通りは違うんじゃ……」
「いや、こっちでいいんすよ」
アリスの声に導かれて視線を動かすと、アリスは大通りから外れた道を示す。その道は大通りと比べて一目瞭然というレベルで人が少なく、明らかにその道の先は広場へは通じてない。というか、道の続いている方向的にむしろ遠ざかる様な感じだった。
首を傾げつつもアリスに続いて移動して、人通りの少ない道を歩き……辿り着いた場所は壁があるだけの行き止まりだった。
そりゃ行きつく先が行き止まりなら人通りも少ないよなとそう思っていると、アリスは壁に向かって歩いて行く。アリスが壁に近付くと壁には縦に光る線が走り、入り口のようなものが開かれた。
「……うん? これってもしかしてグラトニーさんの?」
「ええ、いや別に私がやってもいいんですけど、この手の場面で仕事任すとめっちゃ喜ぶので……」
グラトニーさんって狂信者組だからなぁ……アリスの役に立てるのは、そりゃあ喜びそうである。ともあれ、これを見れば意図は察することができた。あの人混みを抜けるのは困難なので、グラトニーさんの時空間魔法で移動するというわけだ。
本来なら建国記念祭のような場には強力な転移阻害の結界が貼られているが、グラトニーさんクラスの時空間魔法が極めて得意な方は、その転移阻害を無視して転移することもできるらしい。
ただこれは本当にレベルが高く、六王幹部でもグラトニーさんやジュティアさんのような限られた人にしかできない芸当らしい。
そしてさらに余談ではあるが、そんな転移魔法が得意な方々でも唯一神域の転移阻害だけは突破することは不可能とのことだ。
神域はシロさんが許可しない限り到達することはできないという特殊な場所で、クロやエデンさんのようなシロさんと同格以外では、シロさんが許可しない限り辿り着くことすらできない場所らしい。
「……しかし、はて? これを用いて会場近辺に行くとしても、おそらく相当混雑していると思いますが、いまから入れるようなスペースがあるのでしょうか?」
「あ、そうですよね。さっきの通り以上に混雑していますよね」
「まぁ、大丈夫だと思うよ。アリス様がその辺考えてないわけが無いし、気にせず通り抜ければOK」
ノインさんと俺の疑問に対し、ハプティさんが緩い様子で告げながら輝く門のような入り口に入っていき、俺とノインさんも顔を見合わせて中に入る。
眩しさに少し目を細めて門をくぐり辿り着いたのは……どこかの広い室内だった。
「あれ? 室内? ……会議室っぽいところのような?」
「……ア、アリス様? ここ、もしかして議院では?」
「そうですよ。議院広場なら、ここから見れば一望できますしね」
「……建国記念祭期間中の議院は、議員含めて立ち入り禁止だったような気がするのですが……」
「そんなの私がどうにかできないと思います? 心配しなくても、ちゃんと正規の手続きで貸し切ってますよ」
「意味のない質問でした……」
淡々としたアリスの返答にノインさんは遠い目をしながら諦めた表情を浮かべていた。まぁ、確かにアリスなら議院を貸し切れても不思議ではない。
ラグナさん曰く議員の過半数も掌握済みで、その気になればハイドラ王国の法律でも好き勝手に変えられるらしいし……う~ん、凄まじい。
「いいね! さすが、アリス様! これなら椅子に座って見れるね。この椅子を窓際に持っていってと……」
「貴女も少しぐらい動じてください!?」
いや、まぁ……その人は同一人物なので……。
シリアス先輩「テンポが早いな……よくないぞこれ、必須イベントを手早く片付けて、砂糖展開に移行しようという魂胆が透けて見える気がする……」




