ハイドラ王国建国記念祭②
いくつかの食べ物を買って、食べ歩きしつつアリスと祭りを周る。小さめの魚の串焼きを購入したが、鮎っぽい感じの魚で、塩味が丁度良くて非常に美味しい。難点としてはそこそこ大きいので、ひとつで結構お腹が膨れることだろうか……まぁ、アリスは何本も飲み屋の焼き鳥みたいな感じで食べてるが……。
「そういえば、アリス。さっき首都の入り口辺りで当日券がどうとかって言ってる人が居たけど、あれは?」
「ああ、昼からの海竜行進の観覧チケットのことですね。人気の行事なので普通はもっとずっと前にチケットは売り切れるんすけど、キャンセルとかが出た場合は当日にああして入り口で当日券が売られることもあるんですよ」
「海竜行進?」
「物凄くザックリ説明すると、神輿とか獅子舞みたいなもんですかね。竜を模した大きな模型を大勢で担いで街を歩くんですよ。ハイドラ王国は元々は複数の小国だったのが合わさってひとつの国になったって歴史がありまして、ハイドラ王国建国の日には元々海竜を称える祭りがあったらしく、その関係で建国記念祭の日に海竜行進もやるようになりました」
「……ふむ。なんで海竜?」
そういえば、ハイドラ王国は魔王が侵略してきた際にボロボロになった複数の国が手を取り合って連合軍を作ったのが成り立ちだと前に呼んだ本に書かれていた覚えがある。
初代勇者によって魔王が討たれたあとも、再び複数の小国としてやっていくにはダメージが大きく、何度かの話し合いの後でラグナさんを国王として一つの国に纏まることが決まって、ハイドラ王国となったという話だ。
……ちなみに、ラグナさんは当初勇者パーティの一員である知名度もあって、混乱の多い状況での知名度や求心力を求められて即位しており、最初の予定では国が安定したら辞するという話だったとか……ラグナさん本人が、不満そうに愚痴っていた。
しかし、悲しいかなラグナさんは国王として非常に優秀であり、国民の強い支持を得て現在まで国王であり続けている。
「これも昔の話っすけど、海に面した小国のひとつでは、海にはその海を支配する巨大な竜が居て、その竜の機嫌を損ねれば嵐が起きると信じられたんですよ。だから、漁に適した天気が続きますようにとか、海で事故が起こらないようにって海竜を称えて祭りをしていたって感じですね」
「海を支配する巨大な竜……エインガナさんでは?」
「というか、おそらくその話の根底はエインガナさんだと思いますよ。昔はいまみたいにあちこちに転移ゲートがあったりはしませんでしたが、魔界と人界を行き来する方法自体はあったんですよ。んで、本当にごくごく稀ですけど、時空の歪みとかによって人族が魔界に迷い込んだり、魔族が人界に迷い込んだりってことがありました。その時は私……というか、幻王陣営が対象者を保護して送り返してたんですけど、たぶんその時にエインガナさんを見て、海には竜の神が居るって感じになったんじゃないかと……人界にあんなサイズの竜種は存在しませんからね」
「ああ、なるほど、確かにエインガナさんのサイズはインパクトあるよな……」
なにせ全長1kmの巨大な海竜なので、海から現れればそれはもう大迫力だろう。そんなものを見たら、海に神がいると考えても不思議では無い。
俺が納得したように頷いていると、アリスは苦笑を浮かべながら口を開いた。
「ハイドラ王国ではその海竜が有名になってたりってのもあって、本物の海の神……大海神に関しては影が薄いっすけどね。まぁ、あの人は元々影薄めな方ですが……」
「大海神? そういえば、天空の神であるスカイさんや、大地の神であるガイアさんとは会ったけど、海の神には会ってないな」
勝手なイメージではあるが、陸海空は三つひとセットみたいな印象があったので、思い返してみればあれ? という感じではある。
いや、まぁ、案内についてくれたスカイさんはともかくガイアさんとは本当にたまたま会っただけなので、別に大海神と会ってなくてもおかしいというわけではないのだが……。
「例に挙げると、最高神って側近となる上級神がそれぞれふたり居るんすけど、スカイさんとガイアさんは生命神であるライフさんの側近です。それに対して大海神……マリンさんっていうんですけど、彼女はライフさんの直属の部下の中では三番目……スカイさんとガイアさんの次の序列なので、側近にもギリギリカウントされないですし、なんというかあまり尖った個性も無い方なので目立たないんですよね。いや、堅実で常識人って感じではあるんですけどね」
アリスの話を聞いていて、ふと頭に思い浮かんだのはカミリアさんだった。いや、カミリアさんは界王配下最強だったりスーパーメイドだったり、結構尖った個性もあるのだが……目立ちにくいという点では共通するのかもしれない。
大海神マリンさんか……どんな方か興味はあるので、いつかあってみたいものである。
マキナ「大海神マリンは、優秀だけど目立たないタイプらしいね。まぁ、全知の私には全部わかるんだけど、我が子じゃないので興味なしだね」
シリアス先輩「没個性タイプながら堅実に仕事はこなす有能タイプって感じか……私と被る気がするな」
マキナ「……シリアス先輩には個性しかない気がするんだけど……まさか、自分が見えてない? 大丈夫? 愛しい我が子の話する?」




