まさかの誘い②
気が付くと俺は見覚えのある花畑に居た。というか、完全に神域である……本当に唐突な呼び出しだが、何回も経験していると、流石に慣れてきて驚きよりも先に「あ、またシロさんか」という感想が湧いてくる。
ただ、急に景色が切り替わることに関しては慣れたが、現在の俺が平静かと言われれば……そんなことはない。むしろ、冷や汗が流れるんじゃないかといいぐらいには緊迫した精神状況だ。
なぜかと言われれば、この形で急遽の呼び出しとなる場合……割と無茶目というか、突拍子もない要求をされることが多いからだ。
「……まぁ、とりあえずこんにちは、シロさん」
「いらっしゃい、快人さん。よくきましたね」
「来たというか、来てたというか……それで、今回はどうしたんですか?」
強制的に召喚しといてよく来たも無いだろうと思ったが、その辺りはシロさんという理由で納得できるので問題ない。
気になるのはシロさんの状況だ……自称ではあるが、この世界の誰よりもシロさんの感情の機微には鋭いという自負のある俺の見立てでは、シロさんの機嫌は悪くない。いや、むしろかなり上機嫌といっていい。
少なくともなんらかの不満があってだとか、拗ねたことによって呼び出しをされたわけではなさそうだ。
「私のことは世界中の誰よりも己が知っている、むしろ私の全てを知っていると……ふふ、流石私の恋人です。なかなか豪胆なことを考えますね」
「いや、そこまで言って……考えてはないんですが……まぁ、シロさんが楽しそうならそれでいいです」
よくはわからないがシロさんは上機嫌である。そしてこれは、危険信号で言えば黄色ぐらいだ。単純に上機嫌という場合もあるが、そこそこの確率で妙な提案をしてくることがある。
「さて、本題に移りますが……快人さん、私と一緒にハイドラ王国の建国記念祭を周りましょう」
「……え? い、いや、あの……アリスと周る予定なんですけど?」
自信満々に告げられた言葉に、俺は若干戸惑いながら聞き返す。シロさんが建国記念祭に来るのは大騒ぎだとか、その辺りの問題は一旦スルーするとして、なにより重要なのは俺は既にアリスと周ることを約束している点だ。
シロさんは少なくそもそういう部分にはちゃんと配慮してくれる。既に決まっている予定を無理やり変えさせようとしたりすることは無いだろう。
ではこの誘いは、アリスとシロさんと三人で周るということなのかといえば、おそらくそうではないと思う。というか、そうなった場合はアリスが滅茶苦茶嫌がりそうである。なんだかんだで常識人というか、まともな思考してるから、そうなるとアリスがシロさんのフォローをすることになりそうだし……。
そしてシロさん側もその展開を望むかと言われれば、おそらくないだろう。仮にこれが、クロとふたりで周る約束をしていたとかなら「クロだけズルい」という話になってくる可能性はあるのだが、アリス相手だとそのパターンもまずない。
だからこそ俺は戸惑っていたわけだが、そんな俺に対しシロさんは至極当たり前のように告げる。
「ええ、アリスとのデートを邪魔するつもりはりません。私は『建国記念祭二日目』で大丈夫です」
「……なに……言ってるんですか?」
おっと、更におかしいというか、場合によっては複数人の胃を死滅させかねないような発言を始めたぞ? 建国記念祭二日目? いやいや……仮にシロさんが無理やり押し通せば、実際に開催されるだろうが、それは無茶苦茶すぎる。
だが、そんな俺の反応は予想済みだと言いたげにシロさんは微笑みを浮かべる。
「問題ありません。建国記念祭を二日間かけて行うというわけではありません」
「……じゃ、じゃあ、どういうわけで?」
「快人さんは並行世界というものを知っていますね。それを応用したものです……つまり、同じ建国記念祭に関して、快人さんが『アリスと共に行った時間軸』と『私と共に行った時間軸』を作り出し、快人さんのみ意識を継続して共有することにより、実際に世界において建国記念祭は一日だけでありつつも、快人さんはふたつのパターンで建国記念祭を周ることができるのです」
「…………」
とんでもねぇことしてきたぞこの神。全能パワーフル活用してきやがった。つまり、世界的には一日だけだけど、俺はアリスと周った建国記念祭が終わった後、もう一度シロさんと周るパターンの建国記念祭を経験するわけだ。
たぶん世界的な時間軸には、最初のアリスと周ったものが適応されつつも、シロさんと俺には建国記念祭を周った経験も記憶も残ると……たぶんそんな感じだ。
「このスーパーWINシステムを使えば、快人さんの世界のクリスマス等の一日の行事も、恋人の数だけ増やすことが可能となる画期的なシステムです」
「……そ……そうですか……」
さすがほぼ全能の神、やることのスケールがとんでもなさ過ぎて突っ込みが追い付かない。あと困ったことに、このスーパーWINシステムとやら……クロを始めとした他の恋人たちも賛同しそうな気がする上に、俺としても季節系のイベントを誰と過ごすか頭を悩ませる必要は無くなるというメリットもある。
デメリットとしては、俺だけ同じイベントを恋人の数だけ繰り返すことになるので、できれば滅多に使ってほしくないシステムであるという点かな……。
シリアス先輩「悪夢のようなシステム生み出すんじゃねぇよ!?」
???「はっ!? まさか、過去のクリスマス番外編やバレンタイン番外編がキャラごとにあったのは、このシステムの伏線!?」
シリアス先輩「いや……作者の人……そこまで考えてないよ……」




