迷子のハイエルフ⑫
少しして運ばれてきた料理は、スパイスがふんだんに使われた香りのいい料理で、雰囲気的にはエスニック料理とかタンドリーとかそんな雰囲気のものだった。
王城が南国風なこともあって、結構雰囲気のイメージには合っている気がする。
「美味しそうですね。ハイドラ王国って結構スパイスが有名なんですか?」
「うん? カイトは知らんのか……ああ、そういえば、首都にしか来たことが無いんじゃったな。首都は港町という性質上、出店なども新鮮な魚介類を使ったものが多い。じゃが、ハイドラ王国と言えばスパイス料理よ」
「ハイドラ王国は人界に流通しているスパイスの7割以上を生産している国だからね。料理もスパイスをふんだんに使ったものが発展している傾向にあるのさ。衣のハイドラ、食のシンフォニア、住のアルクレシアなんて呼ばれ方はしているが、もちろんそれぞれ呼ばれている以外のものが疎かなわけではないさ。例えば、アルクレシア帝国であれば寒い地方ということもあって、スープやシチューが有名だったりと、各国にいろいろと特徴があるから、興味があれば調べてみるのも面白いと思うよ」
「なるほど……」
たしかにフォルスさんの言う通り、各国でいろいろな食文化が発展しているのは当然と言えば当然だ。地球でも例えば、日本とアメリカのように国が違えばそれぞれ食文化に違いはあるし、人界の三国にもそれぞれ独自の文化があって然るべきだ。
どうもトリニィアは、魔界、人界、神界という三つの世界があるためか、世界単位で区別しがちだが人界だって広大で、三つの国を有するのだからそれぞれに独自の文化はあるのだろう。
そういう違いを知るのは、なんか新鮮で少し楽しい気分である。転移魔法があるおかげで手軽に来れてはいるが、ハイドラ王国も本来はシンフォニア王国の首都からはかなり離れた場所にある他国であり、違う国に来ているのだと実感できるのは旅行しているみたいでちょっと楽しい。
「なんというか、そういう文化の違いに触れられるのは驚きもありますけど、楽しいですね。実際知った気でいますけど、まだシンフォニアも含めて首都以外にはあまり行ったことが無いんですよね」
「まぁ、首都はその名の通り様々なものが集まっているからね。生活するのに不自由なことは無いだろうし、意識しなければ地方を訪れるというのは難しいかもしれないね。だが、君のその考えは素晴らしいものだ。私の住むリグフォレシアもそうだが、同じ国の中でもいろいろな独自文化はあるもんだからね。そういったものに関心を抱くのはとても素晴らしいことだ。知的好奇心というのは大切にしなければね」
「お主は、もう少し抑えろといいたいがな……じゃが、フォルスの言う通りカイトの目の付け所は非常にいいぞ。人界の観光地などを旅行してみるのも面白いじゃろうな。ハイドラ王国に関しては、ワシがいくらでも紹介できるし、遠慮せずに聞いて来ればいいぞ。なんなら、宿も手配するが? ワシのオススメとしては――むぐっ!?」
「……自国の宣伝活動はそこまでにしたまえよ国王陛下殿。周りが急かすのは褒められた行為とはいえないね。そういったものは調べる過程も楽しいものさ、詳しい相手がアレコレと一から十まで解説してしまっては、面白味も薄れる。彼が質問してきた時にだけ答える形にするのが無難だね」
なんだかんだでやはり国王というべきか、これ幸いという感じで宣伝をしようとしたラグナさんの口にパンを突っ込んで黙らせつつ、フォルスさんは穏やかな表情で微笑む。
う~ん。フォルスさんってマシンガントークしたり、方向音痴だったり、マッドサイエンティストっぽい部分もあったりと癖の強さはあるけど、結構常識もちゃんと持ち合わせているというか……落ち着いた大人の雰囲気もある方だと思う。
「ちなみに、フォルスさんのオススメの場所とかってありますか?」
「おいおい、ここで私に尋ねるのかい? 私が筋金入りの引きこもりと知っていながらその質問とは、なんとも意地の悪い子だ。そうだね。リグフォレシアには何度も足を運んでいるだろうから除外するとして、シンフォニア王国の首都とリグフォレシアの間に交易都市があるのは知っているかい?」
「ああ、聞いたことぐらいは……行ったことは無いですけど」
「そうだね。基本的に飛竜便のコースからは外れているから、転移か飛竜便で移動していては訪れる機会は無いだろうね。交易都市というだけあって、様々な品の流通で賑わう都市て、首都ではなかなか見ないような品も多い。様々な地方の物に触れられるから、興味があるなら一度訪れてみるのもいいかもしれないね」
「なるほど、参考にさせてもらいますね」
そう考えてみると、本当に行ったことのない場所って多いな。機会があればもっとそういう……いままで行ったことがない場所に足を運んで見るのも楽しそうだ。
シリアス先輩「快人の活動範囲が広がることに、どこかの公爵が胃を押さえていそうな気がする……」




