迷子のハイエルフ⑩
ラグナさんの案内でハイドラ王国の王城に移動することになったのだが、そこでふとハイドラ王国の王城に行くのは初めてであることを思い出した。
「そういえば、ハイドラ王国の王城に行くのって初めてですね。というか、この位置からだと見えませんね」
「ああ、君の言わんとすることは分かるよ。シンフォニアやアルクレシア帝国のように遠目から城が確認できないというころだろう? 理由は単純さ、ハイドラ王国の王城は建物自体が巨大というよりは、敷地が広いというイメージの建物だからね。まぁ、とはいえ、王城は王城。普通の家に比べれば大きいから、ほら、そろそろ見えて来たよ」
俺の疑問を察して説明しつつフォルスさんが示してくれた方向を見ると、建物の屋根らしきものが見えてきた。
あの形状……城というよりは、アラブとか中東系の宮殿のような雰囲気っぽい。なるほど、ほぼ1階建てでフォルスさんの言うように敷地が広いタイプか……。
「ハイドラ王国の首都の中心はあくまで議院であって、城ではないからな。所詮は一種の象徴や建前と……国の騎士団などのいわゆる軍部が活動する施設という認識で問題は無いぞ。ワシとしては別に王城などと呼称する必要も無いと思うし、王もいらんと思うのじゃが……断固拒否されるからのぅ」
「それだけ、ラグナさんが多くの国民に慕われてるってことじゃないですか」
「それは、まぁ、光栄なことではあるが……本当、ワシはいつになったら国王を辞められるんじゃ?」
「無理じゃないかい? 君、自分の支持率とか計算したことはあるのかい? 圧倒的だよ。君が国王を辞めればハイドラ王国は大混乱となることは間違いなく。後任は君と比較されて早々に精神を病むことも容易に推察できる。さらに言えば、仮に国王という職を無くしたとしても、国という形式をとる以上なんらかの形で代表は必要になってくるし、そうなれば君がその席に座るだけで、実質国王と変わらない立場になると思うよ。まぁ、よほどの不祥事でも起こせば話は変わるが、無理やり悪事を起こして退任などというのは君の性格上不可能……どう考えても、国王を辞する未来は無いね」
ラグナさんの淡い希望を全て叩き潰すかのような淡々とした台詞である。実際話す内容は的確であり、ラグナさんもぐうの音も出ないのか、なんとも言えない苦虫を噛み潰したような表情を浮かべていた。
「……い、いやな、しかしな……国王投票とか、やったりしてるし……」
「それも、君の圧勝だろう? というか、国民としては一種のお祭りというか、君の思い付きで始めた行事にワイワイ参加している感覚なんだろう。実際出来レースだし、前回やった国王投票の際にも盛大に出店なんかを開いて、ほぼ祭りのような雰囲気でやったんだろ? まず間違いなく、君の人気を再確認するお祭りぐらいにしか思われてない。投票とは名ばかりの出来レースさ」
「ふぐぅ……そりゃな、ワシもな……現実的なとこ難しいとは思うておるが……夢くらい見ても、ええじゃろ……」
キッチリと止めも刺されて、ラグナさんは哀愁漂う表情で虚空を見つめながら呟いていた。まぁ、正直俺もフォルスさんに同意見というか、こんな風に言いつつもラグナさんは国王としていつも素早く的確に動く。
自身のフットワークの軽さも活かして、国のためになる一手を即座にうったりできるあたり国王としては文句なく優秀だと思う。
実際今回の建国記念祭も、初代勇者にまつわる品というラグナさんだからこそ出せる一手によって、開始前からかなり盛り上がっているので、なんだかんだでやっぱりその手腕は確かなものなのだろう。
「というか、国王を辞めてどうするんだい? 自堕落に過ごすなんてできる性格じゃないだろし、すぐに時間を持て余すのがオチだと思うのだがね。丸一日訓練ばかりしているか、暇そうに海辺で釣りをしながらセンベイを食べているかのイメージしか湧いてこない。結局君は国王をやっているのが日々の時間配分なども含めて丁度いいんじゃないかい? 結局生活にもメリハリというものは必要だよ。引きこもりで研究ばかりの私も、こうして度々外に出る機会があるからこそそれを維持できているという部分はあるしね」
「むぅ……そう言われると、確かに……時間は持て余しそうじゃな」
というかラグナさんは国王という立場から降りたいだけで、辞めたとしても議会とかには参加しそうだし、なんだかんだで国の運営には関わりそうな気がする。
そうなると、フォルスさんの言うように仮に国王と辞めても別の名称の代表に収まるだけで、結果やることは変わらない気がする。
シリアス先輩「実際、いまも初代勇者パーティのメンバーのひとりと、世界の特異点を王城に招いて持て成すという、国益にも繋がりそうな仕事を自然とこなしてるし……まぁ、辞められる未来は無いだろう」




