迷子のハイエルフ⑧
転移ゲートに辿り着いてしまえばすぐにハイドラ王国である。今日はイベントのシーズンでもないのでゲートはそんなに混んでおらず、対して待ち時間も無く転移できた。
ハイドラ王国に付くとすぐに独特な海辺の匂いと喧騒が伝わってくる。
「やっぱりハイドラ王国は何度きても賑やかですね」
「巨大な港町と表現するのが正しいかもしれないね。実際海にほど近い市場は連日かなり賑やかなものさ。ハイドラ王国はいろいろ制度が革新的で、特に税金の比率が他に比べて低く個人で店を気軽に出しやすい条件が整っており、商売を始めやすいのが大きいね。ただ、その性質上個人から中小レベルの規模の店が多くなりがちで、大商会という規模のものは少ない傾向にあるね」
「なるほど、確かにそんな雰囲気ですね」
ハイドラ王国は市民の力が強く、逆に貴族はほぼ名ばかりであまり権力を持っていないという状態らしい。いずれは貴族自体が無くなるのではないかとも言われており、やはり人界の中でも一番時代の先端を行く国のようだった。
異世界出身の俺にとっては、比較的馴染みやすい気風かもしれない。
そんなことを考えながら道を歩いていると、向こうから見覚えのあるおじいさんが歩いてきた。最初に会った時の変装しているラグナさんである。
「フォルスさん、迎えが来たみたいですよ」
「ああ、そのようだね。相変わらず変身魔法は下手だね……それなりに魔法に詳しいものが見ればすぐに違和感に気付くよ。まぁ、彼女はゴリッゴリの前衛タイプだから仕方ないと言えば仕方ないが……」
「ノインさんも認識阻害とかは苦手って言ってましたね」
「まぁ、魔法というものは得手不得手があるからね。私も賢者などという呼び名で呼ばれてはいるが、あらゆる魔法が使えたりというわけでもないさ。自然魔法や大地の魔法に特化していると言っていい。逆に火などの魔法は苦手だね」
フォルスさんもラグナさんにはすぐ気付いたようで苦笑を浮かべていた。すると、ラグナさんの方も俺たちが気付いたことが分かったみたいで、軽く指で俺たちに合図を送ってきた。
たぶんあの指の先の人気のない場所に行こうという合図だと思う。ラグナさんはとんでもない支持率を誇る国王であり、ハイドラ王国内では相当人気のある存在だ。
実際俺と初めて会った時も変身魔法を使っていたし、素の格好で外を出歩くと大変なんだろう。
変装したラグナさんについて移動して、いくつかの路地を通って人気のない海辺にやってくると、ラグナさんは変装を解いた。
「ふぅ……カイト、すまんな。迷惑をかけた……フォルス!! 貴様、出歩くなと言うたじゃろうが!!」
「お、落ち着きたまえラグナ……と、とりあえず、振り上げた拳を降ろすんだ。いいか、すぐに暴力に訴えるのは野蛮な獣の行いだ。我々は理性ある生物だ……怒りに流されてはいけない」
「アレだけ前もって釘を刺したのに迷子になっておっては、怒りもしよう。そもそも……うん? ほぅ……ふむ……」
「なんだい? ラグナ、嫌な目をしているね……その目は主に、揶揄ったりする際の目だろう? いまなぜそのような目を私に対して向けているのか、説明を求めたいところではあるが……悲しいかな若干の心当たりがあるので、あまり触れてほしくないという気持ちもある。触れるのであれば、ある程度の覚悟はしていただきたいね」
なにやらよく分からないやり取りがあって、怒っていたラグナさんはどこかニヤニヤと意地の悪そうな笑みを浮かべる。
そして、なんとか話題を戻そうとするフォルスさんの抵抗をあざ笑うかのように口を開いた。
「……フォルス、お主珍しく照れておるようじゃの? 微妙に頬に赤みが見える。ほほぅ、まさかお主のそんな顔が見られるとは……原因は、カイトというわけか。ははは、流石と褒めるべきじゃな! あのフォルスが、そんな顔――うぉっ!? ちょっ、待てっ!?」
「警告はしたよ……」
楽し気にフォルスさんを揶揄っていたラグナさんだったが、突如地面がまるで沼のように変化して体が沈み、抵抗しようとするも地面に引きずり込まれていった。
そして、いつの間にか木でできた杖を持っていたフォルスさんが、魔力を込めてトンと地面を叩く。
「……アースシェイカー」
すると、大きな揺れ……地震が発生して、慌てて周囲を見るが、海は波立ったりしておらず……俺たちがいる場所だけ揺れているような感じだった。
不思議な状態だが、たぶん周辺に被害が出ないように対抗術式で調整して超局地的な地震を起こしているのだろう。
そして少しして、揺れが収まると……ラグナさんが沈んだ地面が鋼鉄のようにガッチガチに固まっていた。
「……さて、せっかくハイドラ王国に来たのだし、王城に向かう前に軽く昼食でも食べようか。今回の礼ということで、是非奢らせてくれ」
「……あ、いや、ラグナさんは?」
「……この程度で死ぬようなら、千年前の旅で死んでいるよ。本気で固めたが、数分で出てくるだろうね。まぁ、放っておいていいさ、行こう」
「あ、はい」
シリアス先輩「これは珍しいというか、不安になるフラグはやめていただきたい……主に砂糖的な意味で」




