迷子のハイエルフ⑥
フォルスさんは躊躇っている様子だったが、俺が譲らないことを察したのか最終的に手を繋ぐことに同意して、手を繋いで歩くことになった。
フォルスさんは実験の影響とはいえ、かなり小柄になっているので手を繋いで歩くと結構慎重さを感じるものだ。
「……ううむ。君の手は大きいね。ああいや、そうか、私の体が縮んでいるからか……いやはや、異性と手を繋ぐ機会自体がほぼ無いので、どうにも変に意識してしまうね。いや、これだけ長く生きてきて情けない話ではあるが、そもそも根本的に外出の機会が少なくて、他者と接すること自体が限られているのだけどね」
「昔から、いまみたいな研究三昧の生活を?」
「まぁ、私は筋金入りの引きこもりだからね。そもそもの発端と言えば、引きこもりになった要因は方向音痴が原因だった気がするね。もう遠い昔の話ではあるが両親が存命だった頃には、ひとりで出かけると遭難するのであまり外に出してもらえなかったね。いや、こういうとまるで私が虐待を受けていたかのようだが、単純に迷い過ぎていて、純粋に心配してくれた結果なのだが……もしかすると、私が森の賢者と呼ばれたのも、よく迷い込んで森に入りまくっていたからかもしれないね」
あんまり笑い事ではない気がするが、フォルスさんは結構楽しそうに話している。いや、むしろ、意外と手を繋いでいることにマジで緊張しているっぽくて、その緊張を誤魔化すために饒舌に語っている気もする。
まぁ、それはともかくとしてフォスルさんが遠い昔というぐらいなので、本当に数千年は昔の話だろう。通常のエルフの寿命はおおよそ二千年ぐらいとのことだが、ハイエルフには寿命は無いのでどれぐらい前かまではハッキリとはわからないが、アリスが人界は少なくとも2万年以内に作られた世界と言っていたので、2万年以内であることは確実である。
「ちなみにフォルスさんが、いままで研究してきた中でコレはってものはあるんですか?」
「おいおい、正気かい? 研究者にその手の話題を振るのは自殺行為に等しいよ。だが、その質問をされてしまうと血が騒いでしまうよ。そうだね。私が過去に研究したもので、最も世間的に影響を与えたのはハイエルフの生態と進化の条件に関してだね。私は、エルフ族の歴史上はじめてハイエルフに進化した個体で、名称についても私が決めたんだよ。君もハイエルフを見たことがあるから理解できるとは思うが、ハイエルフは特殊個体ではあるが見た目的な変化はほぼ存在しない。まず私が通常のエルフとは違う存在であることが、特殊個体であるからかどうかという部分を証明するのに苦労したよ」
「ああ、そっか……例えば、人間でいうところのリリアさんみたいに、個人的に飛び抜けた才能を持っているってパターンもあるんですね」
「その通り……まぁ、あの公爵殿はさらに特殊過ぎる例ではあるけどね。なにせ、特殊個体でもなんでもなく単純に才能が異常なレベルという存在だからね。おっと、話を戻すが君が察した通り、外見的変化のほぼ無いハイエルフという特殊な存在が、私が単純に特別自然に愛される才能を持ってたが故に到達した単一での存在なのか、後々第二第三の存在が現れうる種族的なものなのか、それを証明するのが難しかった」
たしかに、それはかなりの難題というか……ほぼ、次のハイエルフが誕生してくれないと証明の方法がない気もする。だが、過去に行った研究の話であり、最も世間に影響を与えたと語るぐらいなので、なんらかの方法で証明したのだろう。
「話の途中ですが、フォルスさんとジークさん以外にハイエルフって存在するんですか?」
「過去に3例ほどあるね。ジークリンデは私をひとり目と語るなら、五人目のハイエルフといえる存在だね。ただ、彼女の場合は進化の過程が極めて稀だ。世界樹の果実を食したことによる進化……確かに世界樹の果実は自然の魔力に満ちているが、本来はエルフをハイエルフに進化させるほどの力は無い。彼女の類まれなる才能があってこその進化だろうね」
「なるほど……」
「本来のハイエルフに進化する条件は内臓の変化だ。そしてこれが、ハイエルフとエルフを決定的に分ける部分でもある。ハイエルフは長い年月をかけて自然の魔力を体内に取り込んだ結果、内臓が自然の魔力によって変化し、体質的に精霊に近い存在へと変わる。細かい説明は少々長くなるが、大丈夫かい? 私が話し過ぎていたりはしないだろうか?」
「ああ、大丈夫ですよ。もっと遥かに比べ物にならないぐらい酷い方を知ってるので、全然です」
「……自分で言うのもなんだが、私以上というと相当にヤバい相手に思えるが……」
「相当にヤバい相手です」
うん。フォルスさんはむしろこちらが受け答えする余裕も与えてくれるので、全然問題ない。スイッチ入った時のエデンさんとはまったく比べ物にならないぐらい優しいレベルである。
マキナ「まったく愛しい我が子があそこまで言うなんて相当の――私っ!?」
シリアス先輩「いや、むしろなんで驚いてる。読者の大半は名前出る前に即気付いてると思うんだけど……」
マキナ「え? あんなに話す内容を絞って控えめに話してるのに……」
シリアス先輩「…………なに言ってんだコイツ」




