迷子のハイエルフ⑤
フォルスさんをハイドラ王国に連れていくためには、転移ゲートに辿り着く必要がある。本来なら何のことのない距離ではあるが、フォルスさん相手に目を離してはいけないというのはさっきしっかり学んだので油断ならない距離である。
「……フォルスさん、流石に首輪は無かったので、手を繋いでいきましょうか?」
「おっと、優しい笑顔でなかなかバイオレンスな発言をするじゃないか……いやはや、この短時間で君の私に対する理解力が極めて高くなったことを喜ぶべきか、嘆くべきか……少し昔のことを思い出したよ。時の流れというのは残酷なものでね。あの優しかったヒカリでさえ、後半は『いっそ紐を括って拠点前に杭でも刺して固定しましょう』と言い出すぐらいには、私の扱いが雑になっていたからね」
たぶん俺の予想だけど、最初はノインさんも優しくフォルスさんが迷子になってもフォローしていたんだろう。だが、最終的にぞんざいな扱いになったということは、それだけ迷いまくっていたということだろう。
そんな風に考えているとフォルスさんはなにやら珍しく困ったような様子で、視線を彷徨わせる。
「……ああ、しかし、君が警戒する気持ちも分かるが、安心してくれこれ以上迷うつもりもないから、手を繋いだりはしなくて大丈夫だよ」
「なるほど……じゃあ、手を繋いでいきましょうか」
「……なんて、迷いのない目をしてるんだ……まるで私のような困ったやつの対応はこれが初めてではないと言わんばかりの目じゃないか。そして、そういう相手に対して譲歩すること自体が握手であると言わんばかりの絶対に譲らないという覚悟を感じるよ……」
迷子というのであればトーレさんもそうだし、他にも困った方……いろいろ癖の強い相手とは接してきたつもりだ。
そういう相手に対しては、譲歩したりすると失敗する。本当に断固としてこっちの意見を押し通すぐらいの気概が必要である。そうでなければコントロールはできない。
「……い、いや、だがね。ちょっと、それは私には不都合があるというか……遠慮したい理由があるというか……いや、もちろん私も己の方向音痴は自覚しているさ。君の提案が最善であることも理解している。だが、世の中には必ずしも理屈だけではないのだよ。時として非効率であっても選ばざるを得ない選択肢というのも存在するのだ」
「なんか、手を繋ぐのに不都合が?」
フォルスさんにしては珍しく歯切れの悪いというか、なんか若干照れているかのような印象を受けたので、首を傾げながら聞き返すと……フォスルさんは、少し目線を逸らしつつ口を開く。
「……いや、その、だね。ほら、以前も言っただろう? 私はまだ女を捨てたつもりはないんだ。ある程度羞恥という感情も持ち合わせている。それでその、私はだね……いま、その数日迷った状態で、その、入浴などが……い、いや、誤解しないでくれ! ちゃんと魔法を用いて体は清潔にしているし、匂いも問題ない! だ、だが、精神的に少し躊躇する部分があるというか……」
「なるほど……まったく問題は無くても、気になる部分はあるってわけですね」
「ああ、分かってくれるかい? そうなんだ……理解が得られて嬉しいよ」
「では、とりあえず手を繋いでいきましょう」
「……おかしいな? 話が通じたはずなのに、望んだ結果を得られていない。私の些細な悩みより、逸れないことの方が重要だと言わんばかりの躊躇なさ……まるで、手を繋いでいないと私が逸れると確信しているかのようではないか……」
事実その通りである。フォルスさんが手を繋ぐことをためらっている理由は分かった。女性であるフォルスさんにそういった面で配慮したいという気持ちはもちろんある。あるのだが……俺の直感が告げている。ここで引いたらこの人は絶対にはぐれると……そうなれば、待つのは首都を必死に探し回るという展開だ。
「フォルスさん、俺は気にしませんので手を繋いでいきましょう。いや、行きます」
「……押しの男というのは嫌いではないのだがね……うぐ、うぅぅ……わ、分かった。元はと言えば原因は私にある。その条件を飲もう……」
そう言って頬を微かに染めて了承するフォルスさんを見ると、悪いことをしているような気持ちになるが……残念ながら過去の経験から譲ることはできないので、押し通させてもらうしかない。
シリアス先輩「これは、アレだ。快人の中ではともかく、フォルスの中では『責任を取ってもらう案件』にカウントされたやつだ! 私は詳しいんだ!!」




