迷子のハイエルフ①
ハイドラ王国の建国記念祭に関しては、俺は出店側ではないのであまりこれといった準備が必要なわけではない。
必ずこの時間にというのも決まっていないし、気楽なものではある。通常であれば転移門などがかなり混むので時間を考えて行動しなければならないのだが、俺はアリスの転移魔法で移動する予定なのでまったく問題は無い。
なので数日後に建国記念祭がせまった今日も、特になにかをするわけでもなくブラブラとウィンドゥショッピングを楽しんでいた。
恋人とデートをするのも楽しいが、こうやってひとりでこれといった目的も無く街を歩くのもなかなかどうして楽しいものだ。
そう思っていたのだが……不意に道の端に見覚えのある方の姿を見つけた。
その人は優雅に腕を組んで街灯の柱にもたれ掛かり、余裕を感じる表情で待ちゆく人たちを見ていた。
一見すると人間観察をしているかのような雰囲気であり、独特の風貌も相まって声をかけ辛いのだが……その人のことを知る俺から見ると、おそらく困ってるであろうことは理解できたので声をかけることにした。
「……いちおう確認しますけど、道に迷ってますか、フォルスさん?」
「お、おぉ……君はいつも私の窮地に現れてくれるね。タイミングがいいというか……こうも困っている時に現れてくれると、私の遠い昔に忘れたはずの乙女な心が大きく脈打つ心持ちだよ。いやはや、タイミングがよすぎるなどと言う気はないさ、むしろ私が頻繁に道に迷って困っているのを恥ずべきだからね。ただ、よくないことであるのは重々承知しているが、こうして君に巡り会えることを思えば、迷うのもそう悪くないのではないかと思えてしまうね。いや、改善すべきなのだがね……」
道に佇んでいた一見余裕ある雰囲気で……実際は道に迷って打つ手なく立ち尽くしていた迷子ことフォルスさんに声をかけると、フォルスさんは目を輝かせていつものように軽快なトークを披露する。
いっそ、その軽快なトーク力で道を尋ねればいいと思うのだが、軽快すぎてかえって変な人と思われて避けられる可能性も高い。
「……えっと、それでなんでここに?」
「ああ、それなんだが説明すると長くなる。どうだろう、こうしてせっかく巡り合ったのだし、天下の往来で立ち話というのも趣が無い。君の都合さえよければ、どこかでお茶でも飲みながら話さないか? おっと、安心してくれたまえ、これから間違いなく世話になるだろう相手にお金を出させたりはしないさ。救援の報酬として是非好きなだけ飲み食いしてほしいね」
「まぁ、特に予定は無いですし大丈夫ですよ。じゃあ、近くにカフェがあったと思うのでそこに行きましょうか?」
「ああ、シンフォニア王都は君のホームだしね。私などよりよほど店には詳しいだろうし、選定は一任するよ。これが森の中であれば、あるいはリグフォレシアの周辺であれば案内もできただろうね。まぁ、案内する側の私がちゃんとその場所に導けるかどうかは、疑問だろうし、私自身も同じことを思っている」
とりあえず、道に迷ってはいるがなんか余裕そうな感じである。しかし、騙されてはいけない最初に六王祭であった時もこんな感じだったが、それこそ数日単位でラグナさんを待たせていた。
「……念のために確認しますけど、誰かと待ち合わせしてたりはしないですか?」
「していることはしているが、今日では無いよ。おっと、誤解しないでくれ、以前の六王祭の時のように既に待ち合わせの時間を大きく過ぎてしまっているという意味合いではなく、本当にまだ数日先なんだよ。なので、この時点で誰かを待たせていたりということにはならないので、安心してほしい」
「なるほど、まぁ、後は移動しながら話しますか……」
とりあえず、待ち合わせの時間をすでに過ぎているというパターンではないようなので、安心してフォルスさんと一緒に移動しながら話を続ける。
「もしかして今回迷っているのも、その待ち合わせに関係してるんですか?」
「おお、さすがの慧眼だね。その通りだよ……なんなら、待ち合わせをしている相手は前回と同じくラグナだよ。まぁ、待ち合わせというよりは数日後に行われる建国記念祭に参列しろと要求されてね。私も長い付き合いの友の頼みは無下にもできずに参列を決めたというわけだよ」
「ああ、なるほど……」
「ラグナは迎えをよこすから家に居ろと言ってきたのだがね。丁度少し出かける用事もあったので、先んじでハイドラ王国に行っておこうかと考えた訳さ。いや、いかに私が方向音痴であっても十日ほどの猶予があれば余裕だろうとね……ははは、結果この様さ」
「……いや、あの……ここシンフォニア王都なんですけど?」
「……不思議なものだね」
家に居ろといったラグナさんの言葉は本当に正しい、たぶんこの人はひとりでは出歩かせてはいけない人である。
シリアス先輩「……ひとりで出歩かせてはいけないやつ(イベント発生的な意味で)が、ひとりで出歩かせてはいけないやつ(迷子になる的な意味で)と出会ってる」




