ネピュラの新作⑧
アインさんの意外な一面……いや、ある意味では納得できるワーカーホリックな面を見て苦笑していると、少ししてロイヤルミルクティーが目の前に置かれる。
「お待たせいたしました。やはり素晴らしい茶葉ですね。今回はシンプルに淹れましたが、今後の研究が楽しみです」
「ありがとうございます……おぉ、凄い。なんか、ここまで3回飲んだんですけど、一番美味しいです」
アインさんが居れたロイヤルミルクティーはなんというか凄かった。イルネスさんが淹れたものや、ジュティアさんが淹れてくれたものも非常に美味しかったのだが、明らかにそれより一つランクが上のように感じるというか、ピッタリ俺の好みにハマる感じだった。
「淹れ方自体はほぼ変わりませんが、ロイヤルミルクティーには温度も重要です。温度によって味の感じ方も変わってきます。もちろん私は、カイト様の味覚の好みは完璧に把握しておりますので、それに合わせた調整を行っただけです」
「へぇ、確かにホッとするというか、ピッタリ好みに合う感じですね」
この辺りは流石アインさんというべきだろう。俺の好みを完全に把握し、それに合わせて調整をする腕は見事である……なんで、俺の好みを完璧に把握しているのかは、まぁ、アインさんだし出来ても不思議ではない。
そこでふと思ったのは、例によってアインさんはロイヤルミルクティーを出したあとは、テーブルの脇に立っている状態であり、なんとなく少し気になったので同席を進めてみることにした。
「アインさん、せっかくですしアインさんも一緒にどうですか?」
「ふむ、しかし、カイト様。私はメイドですので、やはりこういったシチュエーションでは立って待機しているのが自然です」
「それはそうかもしれませんが、無理のない範囲で要望に応えるのもメイドなのでは?」
「……む? なるほど、そう言われてみると客人であるカイト様の要望、状況的に他の目があるわけでもないプライベートな空間となると……確かに……」
アインさんを説得するのに対して、一番有効なのは当たり前だがメイドに関する内容を絡めることだ。メイドがお茶に同席するというのがどうかというのはあるかもしれないが、アインさんは常々メイドとしての在り方はそれぞれであると言っているし、ルナさんのように主人のお茶の席に同席するメイドもいる。
俺は別にアインさんの主人というわけではないが、現状では持て成されている客側と言っていい状態であり、そんな俺の要望とあればアインさんも断る理由は無いというわけだ。
アインさんは少し考えたあとで苦笑し、一度姿を消したあとで己の分のティーカップを持って向かいの席に座った。
「それでは、せっかくのお誘いですので同じ席につかせていただきます」
「あ、はい……なんか、ちょっと新鮮ですね」
「そうですね。私もこうして誰かと同じ席で紅茶を飲む機会は極めて珍しいです……しかし、ふふ」
「うん?」
「私に対して、メイドとしての在り方を説くのは流石カイト様というべきですね。クロム様のお言葉を借りるならコーカンドでしょうか? カイト様への好意がより大きくなった気分です」
「あ、あはは……」
アインさんを説得するのにメイドに絡める言い回しは有効ではある。ただひとつ欠点としては、これを使えば使うだけ……俺はアインさんの心の中で、メイドアドバイザーという謎の地位が確立されていくという点だ。
実際、本当にアインさんの好感度は上がったようで、先らかに先ほど以上に尊敬した目を向けてきている。というか、上がる前でも割と十分すぎるぐらいに好感度は高かった気がするんだけど……まだ上があるのか。
「またメイドに対する見識が深まった思いです。これはまた、カイト様にはお礼をしなければなりませんね」
「え? ああ、いや、気にしなくていいですよ。お礼とかは別に……」
「おや? 本当によろしいのですか?」
「……んん?」
「いえ、ですからお礼です。せめて内容を聞いてからでないと、勿体ないと――思いませんか?」
「ッ!?」
それは一瞬の出来事であった。言葉の途中でアインさんは姿を消し、俺の耳に吐息が触れるような近くで、どこか妖艶に言葉を告げてきた。
耳に当たる吐息と、甘さを感じる声になんとも言えない背筋が痺れるような感覚を味わい驚愕していると、アインさんは既に向かいの席に座って微笑んでいた。
「……ア、アインさん、揶揄ってます?」
「さて? どうでしょうか? カイト様の反応が可愛らしいと感じる部分もありますし、完全に否定するのは難しいですね。ですが……貴方に対する好意に、嘘偽りなどは無いつもりですよ」
そう言っていたずらっぽく微笑むアインさんは非常に楽し気であり、なんというかまたひとつアインさんの新しい面が見えたと嬉しく思う反面、どことなく手玉に取られているような気恥しさも感じた……まぁ、嫌な気分とかでは、無かったが……。
シリアス先輩「ぐっ、ぐあぁぁぁ……き、キツイ。なにがキツイって、年下を揶揄ってるように見えつつも、実際のところアインの好感度はマジで高いから、普通にアプローチしてるのと変わらないところが……甘さを感じる」




