ネピュラの新作⑦
なんだかんだで普段からメイドメイドと言いまくってるだけはあるアインさんの凄さを見て、感心すればいいのか筋鐘入りと呆れればいいのか迷っていると、アインさんは紅茶の缶を手に持ちながら告げる。
「それでは、さっそくこの茶葉を用いてロイヤルミルクティーを淹れてみようと思うのですが、カイト様もいかがでしょうか?」
「あ、それじゃあ、ご馳走になります」
「では、私の部屋に移動しましょう」
「はい……うん? アインさんの部屋?」
ごくごく普通に告げられたその言葉に、少しだけ反応が遅れてしまった。いや、考えてみればそりゃクロの居城にアインさんの部屋があるのは当たり前なのだが……。
「ええ、幸いにしてここからほど近い場所ですので丁度いいかと……都合が悪いようでしたら、食堂にしますが?」
「あ、いえ、アインさんの部屋で大丈夫です」
「では、こちらへどうぞ」
しかし、アインさんの部屋か……正直想像もつかない。クロの居城には何度か来ているし、知り合いの部屋に遊びに行ったこともある。
小さな庭付きの家があるノインさんの部屋、家具もなにもかも小さくファンシーなラズさんの部屋、部屋じゃなくて格闘ジムみたいなアハトとエヴァの部屋……それぞれ特徴的な部屋だった。
そうなるとアインさんの部屋は、一面メイドグッズだらけとか? いや、でも、アインさんはメイドという言葉に拘りああるけど、メイドに関する品を取集するとかそういう類の拘りではない。なんなら、ジュティアさんの家みたいに紅茶の用品がずらっと並んでたりする方がらしい気がする。
そんな風に考えながらアインさんに続いて移動すると、ほどなくしてアインさんの部屋に辿り着いた。
「どうぞ、なにも無い部屋ですが……」
「失礼します……おぉ……」
部屋の中に入ってみると、そこは極めてシンプルながらお洒落な雰囲気の部屋だった。なにかを飾ったりしているわけではなく、家具などは必要最低限と思われるほど少なめではあったが、その分部屋全体の空間が広く見えるように美しく配置されていて、飾り気など無くともお洒落な感じだった。
なんというか、仕事ができる人のお洒落な私室という雰囲気である。
「綺麗ですね。シンプルな内装ですけど、そこが逆にお洒落というか……」
「ありがとうございます。基本的には必要最低限のものだけを並べています。もちろんここにある以外に多くの品を所有はしていますが、ほとんどは時空間魔法で収納しています。部屋に様々な品を飾り立てる行為を否定するわけではありませんが、私個人としては無駄は好みませんので機能性を重視しています」
「なるほど、そう言われるとすごくアインさんらしい部屋ですね……なんか一瞬失礼ですけど、メイドとして働くのに熱心なあまり、あんまり自室を使わないので必要最低限の家具だけ置いてるとか想像しちゃいましたよ。ははは……」
「……………………」
本当にそう思っていたわけではなく、それはあくまで冗談の一環として笑いながら告げた言葉だった。しかし、俺の少し前を歩いていたアインさんの足がピタッと止まった。そして、気のせいかアインさんにしては珍しく頬がヒクヒクと動いている。まるで『図星を突かれてしまった』という感じで……。
「……えっと、アインさん?」
「…………いえ、使っています……その……月に30分……あ、いえ、1時間ぐらいは……」
それは果たしてアインさんの部屋と呼んでいいのだろうか? そういえば、クロがアインさんは全然休まないので、時々強制的に休ませてるとかそんなことを言っていたような覚えが……これ、マジで自室まったく使ってないパターンだな。
「わ、私は常駐メイド状態を維持しています。メイドたるものは常にメイドであるべきであって、メイドであるべきなら職務に従事するべきなのです」
「……クロが、アインさんが全然休まないって愚痴ってましたよ」
「……さて、それではロイヤルミルクティーを淹れてまいりますので、カイト様はこちらの席でお待ちください」
逃げた!? 気まずそうな顔して逃げた!? よっぽど休む……メイドとして仕事をしていない状態が嫌いらしい。なんというか、アインさんらしいといえばらしいのだが、クロが愚痴る気持ちも分かる気がした。
シリアス先輩「おかしい、なんでアインルートみたいなやり取りしてんだコイツら、さっさとロイヤルミルクティー淹れて次に行け……」




