ネピュラの新作⑤
ジュティアさんの元を訪れたあとは、いよいよというべきかアインさんの元へやってきた。世界メイド協会とやらの意見交換会は既に終わっているようで、クロの居城を訪れると快く出迎えてくれた。
「いらっしゃいませ、カイト様」
「こんにちは、今日は急にすみません」
「いえ、カイト様でしたらいつでも歓迎いたします。ただ、申し訳ありません。クロム様は現在商会の定例会に出席しておりまして、不在です」
「ああ、いえ、今回はクロじゃなくてアインさんに用事があって訪ねてきたんです」
アインさんはどうやら俺がクロを訪ねて来たと思っていた様子だった。確かに、一度状況を伺った後用件は伝えずに頑張ってくださいとだけ言って、そのあとで改めて訪ねて来たのでアインさんではなく別の人に用事と考えても不思議ではない。
最初にハミングバードで伺いを立てた際に用件を言わなかったのは、メイド界の謎の儀式に巻き込まれたくないという気持ちが強かったのだが……。
「私に用事ですか?」
「ええ、実はネピュラが新しい紅茶の茶葉を作ったのでお裾分け――」
「ありがとうございます!!」
「――ちょっ、アインさん!?」
まだすべての用件を伝えたわけではなかったのだが、いつの間にか俺の眼前に瞬間移動したアインさんは俺の手を両手で包み込むように握りつつ、キラキラと輝くような目で俺を見ていた。
ジュティアさんと同じく……いや、それ以上に食い付きが凄すぎる。そして、顔が近い……それこそ、ちょっと動いたらキスしてしまいそうなほどに近い。
「あ、あの、アインさん?」
「ネピュラ様の新作! 素晴らしいですね。あの茶葉を作り出したネピュラ様の新作となると、お恥ずかしながら私も気分が高揚します!」
「そ、そうですね。十分すぎるほど伝わってきています……ただ、あの、かなり近いので、一度落ち着いて……」
「……おや? これは失礼しました」
アインさんの熱狂ぶりは伝わってきたが、とりあえず顔が近すぎる。いまさらではあるが、アインさんは凄い美人なわけだし、吐息がかかるほど顔を近づけられれば緊張もする。
メイドに関してこだわりが強すぎるところを除けば、クロの家族の長女的な立場なのも相まって冷静で落ち着いた出来る大人の女性という雰囲気なのだ……いや、本当にメイド関連の話題にさえならなければ、比較的マトモな性格だと思う……もう一度言うけど、メイド関連の話題にさえならなければ……。
「……えっと、アインさん?」
「顔が僅かに赤く、体温も上がっている状態……ふむ、カイト様は私が顔を近づけることで、緊張……いえ、この場合は意識している状態……そう認識して、相違ありませんか?」
顔が近いことをしてきたのだが、失礼しましたと言いつつもアインさんは一向に顔を離す気配が無く、むしろなんか興味深そうに俺の様子を観察していた。
「そ、そうですね。突然のことだったので、驚きましたし緊張しています」
「なるほど……質問を重ねて恐縮ですが、この場合の緊張というのは驚きによるものでしょうか? それとも多少なりとも私を異性として意識した結果によるものでしょうか?」
「……ど、どちらかと言えば、後者……ですかね?」
「なるほど、なるほど……」
え? なにこの羞恥プレイ? なぜ俺は、そんな恥ずかしい質問に回答させられているのだろうか? 紅茶を渡しに来ただけだったはずなのだが……後なんか、心なしかアインさんが楽しそうな気がする。
そう思っていると、アインさんは普段のクールな表情を微笑みに変えて告げた。
「……では、このままキスのひとつでもしてみますか? 私にとってカイト様は世界で2番目に愛するお方ですし、異性としては1番なので、一向に構わないのですか?」
「はぁ!? ちょっ、あ、アインさん!? い、いい、いきなりなにを……」
「……ふふ、失礼。少しカイト様を揶揄いたくなってしまいました」
そう言っていたずらっぽく微笑むアインさん……アインさんはクールっぽく見えて割とノリのいいところがある方なので、たまにこういった揶揄うような言動をすることもある。
六王祭の際の混浴でもそうだったが、どこまで本気か分からないところがなんだか妖艶である。
そう思っているとアインさんは、俺から顔を離し己の唇を軽く指で撫でた。先ほどの発言もあるせいか、目線がそちらに向いてしまう。
「……ところでカイト様。単純な好奇心からの質問なのですが……」
「はい?」
「時間が停止している中でキスをした場合は、回数としてカウントされるのでしょうか? それとも、相手が認識していなければノーカウントでしょうか?」
「……え? な、なんで、そんなことを……え? ま、まさか……」
「さぁ、どうでしょうね? ふふふ」
そう言って楽し気に笑うアインさんを見て、先ほどまでより頬が熱くなったような気がした。
シリアス先輩「ふぁっ――ッ!?」
???「あ、予想外の不意打ちで吹き飛びましたね」




