ネピュラの新作③
精霊樹の森は宝樹祭で入ったのが最後であり、かなり久しぶりではある。とはいえ、エルフ族の精霊魔導士なども度々立ち入るし、収穫祭の会場でもあるので道は比較的整備されていて歩きやすい。
そして、森に入るとすぐに周囲にいくつかの小さな光が現れ、精霊たちが姿を現した。
「……!」
「こんにちは――って、うぉぉぉ!?」
どことなく見覚えのある精霊たちなので、もしかすると収穫祭の時に手伝ってくれた精霊なのかもしれないと、そんな風に思っていると……精霊たちは俺を見てハッとした表情を浮かべたあと、一斉に近づいて来て俺を取り囲んだ。
そして頭や肩などをペタペタと触りつつ楽しそうにしており、感応魔法で伝わってくる感情から俺の来訪を歓迎してくれているのを感じた。
「歓迎してもらえて嬉しいよ。あっ、前の時と同じでクッキー持って来たからよかったら皆で食べて」
楽しげな精霊の姿には和むのだが、いかんせん数が凄くて前が見えない。なのでとりあえずお土産でクッキーを持ってきたことを告げて、大き目のバスケットを取り出して地面に置く。
すると半数ほどの精霊の興味がそちらに移り、ある程度前が見えるようになってきた。そのタイミングで俺は近くに居た精霊に声をかけた。
「ジュティアさんに会いに来たんだけど、どこにいるか分かるかな?」
「……!? ……!」
「あ、案内してくれるんだ。ありがとう」
声をかけた精霊は俺の問いかけに頷いたあと、自分の胸を軽く叩いて俺の前を飛び始める。案内してくれるようなので他の精霊たちに軽く手を振って、その精霊に付いて森の奥へと入っていった。
10分ほど森を進むと、少し開けた広場のような場所に辿り着く。そこの中心には非常に巨大な木……リグフォレシアの街の中央にある木にも劣らないほどの大樹があり、精霊はそちらを指差す。
「ここに、ジュティアさんが?」
『おやおや、おやおや、もう来たんだね。いらっしゃいカイト、歓迎するぜぃ!』
「うぉっ……ジュティアさん?」
『おっと、ごめんよ、ごめんよ、驚かせちゃったね。ちょっと待ってね』
いきなり大樹から響くような声が聞こえてきて驚いたが、どうやら広場の中央にある大樹がジュティアさん……なんだと思う。
その考えを肯定するように、目の前の大樹が枝分かれするかのように中心から二つに裂け、その間からジュティアさんが出てくる。
二つに裂けた大樹は、ウネウネと動いてジュティアさんの竜のような木の角へと変化する。リリウッドさんの木が杖に変わるのと同じような感じかな?
「これでよしっと」
「こんにちは、ジュティアさん」
「こんにちは、カイト。よく来たね、よく来たね。改めて、友の来訪を歓迎するぜぃ」
明るく優しい笑顔で告げるジュティアさんは、相変わらず人のよさが伝わってくるような温かいどこかホッとする雰囲気を纏っている。
「それにしても、それにしても、カイトってば精霊に好かれてるね。精霊樹の森の木々も、カイトを快く受け入れてる。いいね、いいね、自然を愛し愛されているのはどっても素敵だぜぃ」
「確かに精霊たちも歓迎してくれて嬉しかったです。前に宝樹祭で一緒に精霊樹の果実を収穫した時のことを思い出しましたよ」
「聞いたよ、聞いたよ、カイトってば歴代最高記録で優勝したんでしょ? うんうん、偉いねぇ、偉いねぇ」
惜しみない賞賛を口にしたジュティアさんは少しして、軽く首を傾げながら口を開く。
「それで、それで? なんかボクに用事があるって話だったけど、どうしたんだい? なにか困りごとなら、ボクは喜んで力を貸すぜぃ?」
「ああ、いえ、困りごととかではなくて……ジュティアさん、ネピュラの作った紅茶の茶葉のことは覚えていますか?」
「もちろんだよ。あの茶葉は本当に素晴らしいねぇ。いろいろな組み合わせを考えるのが、とってもとっても面白くてさ、時折アイン様や他の紅茶仲間と意見交換したりして楽しませてもらってるよ」
「気に入ってもらえたならよかったです。それで、今日はそのネピュラが新しい茶葉を作ったので――」
「なんだって!?」
「――うぉ!?」
楽し気に話していたジュティアさんだったが、俺の言葉を聞いた瞬間にものすごい勢いで食い付いてきた。具体的にはいつの間にか浮遊しており、それこそキスでもしてしまいそうなほどの至近距離まで一瞬で近寄ってきていた。
森林のようないい匂いがするのだが、それはそれとして目力が凄い……。
「あ、新しい茶葉? あの革命的な茶葉の生産者の新作? どんな、どんな? 気になる、気になるよ!」
「ちょっ、ジュティアさん!? 落ち着いてください。ちゃんと説明しますから! 一度離れて……」
「おっと、ごめんよ、ごめんよ。ついつい……」
う~ん。どうも、俺が思っていた以上に前の茶葉の衝撃は大きかったみたいだ。あのジュティアさんんがここまで必死になって食い付くほど……アインさんに渡すときは、もうちょっと言葉を選ぼう。あの勢いで来られたら恐ろしすぎる。
シリアス先輩「思うんだ。紅茶界隈で有名になってるってことは、必然的にメイド界でも注目の的なんじゃないかって……幻の茶葉とか呼ばれてそう」




