挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
勇者召喚に巻き込まれたけど、異世界は平和でした 作者:灯台
しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

159/523

奇妙な縁への感謝だった

本日は二話更新です。これは二話目なのでご注意を。

 茫然とした様子で呟く楠さんの言葉を聞き、俺もまるで時が止まったかのように硬直してしまう。

「……なんで、楠さんが、その名前を……」
「……」

 楠さんはなにも言わない。目を大きく見開いたまま固まり、しばらくして……目に涙を浮かべる。
 その涙にも驚いたが、続けて告げられた言葉にはそれ以上に驚愕した。

「……私が……『ハイビス』……です」
「……え? えぇぇ!?」

 く、楠さんがハイビス君!? そんな……い、いやでも、確かに年齢的には丁度そのぐらいだ。
 正直俺はずっとハイビス君の事を、本人が最初に男の子だと言ったので、そうだと思い込んでいたが……ネットゲームでネカマやネナベといった、性別を偽ってプレイしている人は少なくない。

「楠さんが……ハイビス君?」
「……はぃ」

 いまだ半信半疑で尋ねる俺の言葉に、楠さんは涙を堪えながら頷く。
 ……偶然というのは、本当に奇妙なものだ。まさか、ここで、こんなタイミングでハイビス君と再会するなんて予想すらしていなかった。

 いや、そもそも、4つも下の女の子……こうして異世界に召喚されていなければ、話をする事すらなかったんじゃないかと思う。
 たまたま勇者召喚に巻き込まれ、そこに年下の女の子がいて、それが偶然にも何万人とプレイしているMMOで知り合った相手で、俺の事を覚えていてくれた……それはもう奇跡と言って良いほどの事だと思う。

 け、けど、コレなんて言ったらいいんだろう? ずっと男の子だと思っていたハイビス君が、実は女の子で、今は立派に成長して俺の前に居る。
 俺がどう話しかけていいのか分からず茫然としていると、楠さんは一度目を閉じ……勢いよく俺に飛びついて来た。

「シェルさんっ!?」
「なっ!? ちょ、く。楠さん!?」
「シェルさん……シェルさんなんですね……」
「……うん。えっと……久しぶり、かな?」
「ッ!?」

 俺の胸にしがみ付くように飛び込んできた楠さんの方は、小さく震えていた。
 そして涙交じりの声で、何度も……俺が以前MMOで使っていたキャラクターネームを呼ぶ。うん、その名前で呼ばれるのは、何ていうか恥ずかしい……

「……どうして……居なく……なっちゃったんですか……」
「え?」
「……私……ずっと……ずっと……寂しくて……」
「……楠さん」

 俺とハイビス君……いや、楠さんはMMOではいつも一緒に居たと言っても過言ではない。
 たまたま初心者だった時に俺が声をかけたと言うだけだったが、楠さんはとても俺に懐いてくれ、いつも短いログイン時間の大半を俺と一緒に過ごしていた。
 3年前に俺が引退すると告げた時は、普段とは違って何時間も接続して、別れを惜しんでくれた。

 正直俺も弟が出来たみたいに感じてたし、引退する上での一番の心残りでもあった。

「……ごめん、俺丁度その時に受験で……俺は昔、両親を亡くして、親戚にお世話になってたから……浪人とかして迷惑かける訳にはいかなくて……」
「……いいんです。ごめんなさい……子供みたいな事言ってるのは、私の方なんです」

 俺がネットゲームから引退した最大の理由は、大学受験だった。
 浪人してしまえばそれだけおじさんやおばさんに迷惑をかけてしまうと思って、勉強に集中する為にネットゲームからは足を洗った。
 そして一度離れてしまうと、中々戻るきっかけというのも無いもので……結局今まで一度もあのゲームには戻っていなかった。

 楠さんは、今もあのゲームを続けていると言っていた。
 それは自惚れなのかもしれないけど……もしかしたら、楠さんは……ずっと、俺が戻ってくるのを待っていてくれたのかもしれない。

「……そっか、楠さんがハイビス君だったんだ」
「……はい」
「……いや、以前の姿見た事がある訳じゃないし、ずっと男の子って勘違いしてたけど……大きくなったんだね。また会えて、嬉しいよ」
「……シェル……さん……私……私……」

 震える楠さんの頭に手を置いて、できるだけ優しく撫でる。
 楠さんは感極まったような表情を浮かべ、ついに目から大粒の涙を溢して、強く俺にしがみ付く。

 可愛らしい女子高校生に抱きつかれていると言うのは、素晴らしいシチュエーションではあるが……ここで重要な問題がある。
 ここは別に俺の部屋という訳でもなく、大通り……そう、大通りだ。
 その大通りのど真ん中で男女が抱き合い、女性の方は泣いている……俺が通行人でも足を止めて見物する。

「く、楠さん!? とりあえず、場所変えよう!」
「え? ぁっ……」

 四方八方から奇異の視線に晒され、何とも気まずくなった俺は、慌てて楠さんの手を掴みその場から早足で離れることにした。
 楠さんは少し驚いた様子だったが、抵抗したりはせず恥ずかしそうに俯いて付いてきてくれた。














 人通りの少ない小さめの広場に辿り着き、備え付けられていた木造りのベンチに並んで腰掛けた……までは良かったのだが、なんだろう? 物凄く気まずい。
 楠さんはずっと俯いたままで、胸の前で小さく両手を重ね、何やらもじもじとしている。

 その姿は大変可愛らしいものだったが、なにも喋ってくれないので沈黙が非常に重たい。

「え、えっと、楠さん?」
「ッ!? は、はは、はい!?」
「……大丈夫?」
「だ、だだ、大丈夫です!?」

 意を決して声をかけると、楠さんは非常に慌てた様子でこちらを向き……俺と目が合うと、真っ赤になって顔を逸らしてしまった。

「……さっき、やっぱりって言ってたけど……もしかして、俺がシェルだって気付いてたの?」
「……いえ、確信してた訳じゃないです。でも、宮間さんがネットゲームを引退した時期とか、私との年齢差を考えて、もしかしたらって……」
「そうなんだ。ごめん俺の方は全然気付かなくって……」
「いえ、私も自信は無かったんです。名前が快人なので、同じ読みの貝からとってシェルってキャラクターネームなのかなぁとも思ったんですけど、流石に単純すぎるかなぁって……」
「……単純でごめんなさい」
「え? あ、いえ、ち、違います! 宮間さんを馬鹿にしたりした訳では!?」

 楠さんが告げたキャラクターネームの由来は、そのものズバリであった。
 本名が快人なので、その内の快を貝に置き換えただけ……うん。大変恥ずかしい。黒歴史暴かれてるみたいな感覚になってくる。

「……私も、自分の名前……葵から、アオイ科の花であるハイビスカスから取りました。ネットの自分はリアルの自分とは違うって……」
「そっか……いや、それにしても偶然ってあるものなんだね。まさか、こんな形で再会するなんて」
「はい。私もびっくりしました……でも、それ以上に、嬉しいです」
「……嬉しい?」

 楠さんは再び恥ずかしそうに顔を伏せ、小さな声で呟く。
 その言葉に首を傾げた俺に、頬を染めたまま視線を向けて、はにかむような笑顔を浮かべた。

「……宮間さんが……シェルさんだったらいいなって……思ってましたから……」
「ッ!?」

 楠さんは迷うことなく美少女と言って良い容姿をしている。
 サラサラと艶のある黒髪ロング、何か習い事をしているのか姿勢良く伸びた背筋も相まって、大和撫子という言葉がしっくりくる。
 そんな楠さんが照れながらはにかむ姿は、大変可愛らしく意識せずとも顔に熱が集まってしまう。

「あ、え~と、楠さ――「葵」――え?」
「お願いします。葵って……名前で呼んで下さい。出来れば、さんとかも付けずに……」
「え、ええと、じゃあ……葵ちゃん、とか?」
「はい!」

 俺がそう呼ぶと、楠さん……葵ちゃんは、とても嬉しそうな笑顔を浮かべた。
 真っ直ぐな信頼が感じられるその笑顔を見ていると、改めて葵ちゃんがハイビス君だったんだと言う事を実感した。
 何となくくすぐったい感覚を覚えつつ、俺は少し慌てながら葵ちゃんに声をかける。

「ベルも退屈してるだろうし、散歩の続きに行こうか」
「はい」

 ベンチから立ち上がる俺に続いて、葵ちゃんも立ち上がる。
 そしてそのまま少し離れた場所で待っているベルの元に行こうとして……服の裾を小さく摘まれた。
 それは決して強く引っ張るような強さではなく、そっと触れるような控えめな制止……それを受けて俺は立ち止まり、葵ちゃんの方を向く。

「……あの」
「うん?」
「……また、こうして、一緒に散歩とかに付いてきても、良いですか?」
「う、うん。勿論構わないよ」
「……ありがとうございます。改めて、これからもよろしくお願いします。『快人さん』!」

 まるで迷いが晴れたみたいに、満面の笑顔を浮かべる葵ちゃんを見て、俺も微笑みを浮かべた。

 拝啓、母さん、父さん――葵ちゃんは、実は昔俺と良くMMOで遊んでいて、俺を慕っていてくれた子だった。物凄い偶然に驚きつつも、心に沸き上がったのは――奇妙な縁への感謝だった。


葵ちゃんは、実はかなりの正統派ヒロインだと思う。
黒髪ロングだし、年下だし、高校生だし……
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ