胃痛の祭典の終わり⑤
なんだかんだでロゼさんもしばらく店番を一緒にしてくれて、1時間ぐらいたった辺りで帰っていった。その後はアメルさんと一緒にのんびり出店をしていたのだが、特に変わったことが起きるわけではなく非常に順調だった。
忙しすぎず暇すぎず、適度に客が来る感じで店の売れ行きも上々だ。物珍しさで中二グッズも売れているし、意外なことに陶磁器の売れ行きも良かった。祭りの出店としては高すぎる値段設定だと思っていたのだが……分からないものである。
「というか、陶磁器を買う人たちはなんで律儀に皆、ひとつだけ買って行くんでしょうね?」
「確かにそれはボクも疑問だった。集うことでひとつとなる品は纏めて購入していたが、複数の煌めきを手にしようとはしていなかった。不可解だ。もしや、この祭りには謎に包まれた協定が?」
「陶磁器をひとつずつしか買ってはいけない協定ですか? あはは、それはまた変わった協定ですね」
「さすがに飛躍し過ぎか。だが、好調なのは良いことだ、祭典の幕引きもそう遠くはない。闇の遺物に関しては限界は無いが、それ以外の品は原初へと帰ることができるかもしれないね」
確かにアメルさんのいう通り、中二グッズはそもそも在庫がいっぱいあるので売り切るのは無理だが、陶磁器やアクセサリーなんかは残り個数も少なくなってきたので売り切れまでいけそうである。
ただ、陶磁器やアクセサリーが減ってくると少し店先が寂しくなるというのもある。
「ちょっと隙間が目立って、見栄えはよくないですね」
「確かに、空白は時として空虚さになり得る」
「あっ、じゃあ、余ってる武器でも並べます? アオイさんやヒナさんが買わないタイプの武器類は余ってるんで……」
「……まぁ、それでいいか。あんまり大きくないのにしよう」
正直、パーティグッズに陶磁器にアクセサリーに武器が置いてある店というのも奇妙な感じがしたが、一度隙間が気になると埋めたくなってしまうので、アリスの提案に従って武器を並べることにした。
とはいっても少量だ。ナイフ類を中心に、剣をいくつかって感じである。
とりあえず武器を並べてしばらくすると、ふたり組の客がやってきて武器を見始めた。やや小柄な魔導士風の女性と赤髪の剣士っぽい男性……冒険者って感じの雰囲気である。
「……パッと見た感じ凄くいい剣に見えるが……」
「え~でも、怪しくない? 祭りの出店に置いてあるような剣だよ」
「いや、でも本当に雰囲気がいいんだ……すみません、ちょっと鞘から抜いてみてもいいですか?」
「あ、はい。大丈夫ですが、周囲には気を付けてくださいね」
赤髪の男性に尋ねられたので、構わないと返答する。すると赤髪の男性はスッと慣れた感じで剣を抜いて、刃をジッと見つめる。
「ほら、ニコル。やっぱりすげぇいい剣だって!」
「……う、う~ん。確かに見た感じ、作りも丁寧だしよさそうに見えるね。なんなら、レオがいま使ってる剣よりよっぽど質が良さそう」
「だろ? これは掘り出し物だって!!」
「……でも、そうなるとますますそんな高品質の剣が祭りの出店に置いてある理由が謎なんだけど……」
男女はなにやら小声で話しているようだが、内容までは聞き取れない。感応魔法の印象だと、女性の方が訝し気な感情を出している。
う~ん、やっぱりこのラインナップに武器を並べるのは怪しすぎたか?
「……あの、これっていくらですか?」
「銅貨5枚ですね」
女性が価格を答える。値段設定はアリスであり、基本的に俺の家の地下にある武器屋で売ってる時の値段だ。いま赤髪の男性が持っている剣は、アリスの武器名の中でも一番低品質なものであり、本人曰く「他の剣作った余りの素材で作ったナマクラ」とのことなので、日本円で50000円ほどである。
「……ほらっ、怪しいって! こんな高品質の剣が銅貨5枚なんてありえないよ、絶対なんか曰く付きの剣だって!」
「いやいや、たまたま売れ残りとかかもしれないだろ? それに見たところ、変な魔法とかはかかってないんだろ?」
「私が見て分かる範囲ではね」
「なら大丈夫だ。お前は俺が一番信頼する魔導師だからな」
「……馬鹿」
またも小声でなにかを話していたふたりだったが、話はまとまったのか最終的に男性は剣を購入していった。去っていく二人組の背中を見ていると、不意にアメルさんがポツリと呟いた。
「……う~ん、剣士の方はどこかで見たことがあるのような? どこだったかな?」
「うん? 有名な冒険者なんですか?」
「う~ん、いや、ボクの気のせいかもしれない。見覚えがある気がしたんだけど、ボク冒険者とは全然交流ないし、たぶん勘違い――んんっ!? 少し一時の幻惑に惑っていたようだ。気にしないでくれ」
シリアス先輩「アメルと同じく、なんかどっかで見たような……」
???「没ネタ3で出演してた、王位継承権14位の皇子と相棒っすよ」
シリアス先輩「ああっ! そういえばあったなそんなの……」