胃痛の祭典の終わり②
アルクレシア帝国皇城の中にある大広間。建国記念祭の式典の後に行われるパーティの会場であるその場には、最高神や六王を始めとした名だたる者たちが勢ぞろいしていた。
ただし、式典の途中で姿を消したリリアはまだ戻ってきていない。そのことにクリスは心配そうな表情を浮かべていたが、パーティの開催時間を遅らせるわけにもいかないので、最初のスピーチを行う準備を行う。
するとそのタイミングで宙に浮かぶクッションに寝転がっていたフェイトがピクリと眉を動かして体を起こした。
「……リリたんって、なんか呪われてるのかな?」
「うん? 運命神、いったいなにを――ッ!?」
フェイトの呟きにクロノアが首を傾げた直後、魔力などの前兆もまったく無く唐突にリリアはパーティ会場に現れた……『間もなく開始のスピーチを行うであろう皇帝クリスの真横に』……。
パーティ開始のスピーチを行う直前のクリスには、もちろん注目が集まっておりその真横にいきなりリアが現れたら、会場の注目を集めるのは言うまでもないことである。
そして悲しいかなクリスもリリアも頭の回転は速い。クリスはリリアが現れた直後に、リリアは周囲の人の注目を感じて即座に、それぞれ状況を理解した。
しかし、理解したからと言ってどうできるものでもなく、ふたりはなんとも言えない絶望した表情で顔を見合わせ、ほぼ同時に天を仰いだ。
だが、その直後、リリアの姿が再び消え……フェイトの真横に現れた。
「あ~ごめんごめん。私の横に転移させるつもりが、座標ちょっと間違えちゃったよ~」
「……いえ、どうぞお気になさらず」
繰り返しになるがクリスは聡明である。緩い口調で謝罪するフェイトの言葉を聞いた直後には、即座にフェイトの意図を理解した。
リリアが式典の最中に消えたのは、自分が転移させたからだと暗に周囲に伝えるつもりだと……そして、クリスの返答の後、フェイトがチラリとクロノアに視線を向けると、クロノアは軽く頷いたあと口を開く。
「リリア、我の都合で伝令のような役割を頼んで悪かったな。式典の場から最高神である我が離れるのはいろいろと問題で、本祝福を与えているお前に代役を務めてもらったが、急で驚いたであろう? すまなかったな」
「ッ!? い、いえ、時の女神さまのお役に立てたのであれば、身に余る光栄です」
実はフェイトとクロノアは事前にこの展開をある程度予想していた。というよりは、式典の最中に戻ってきても対応できるように、リリアをフォローするための打ち合わせをしていたのだ。
パーティ会場に居る者たちにはフェイトの運命の権能によって、いまのクロノアの発言が耳にしっかり届くように確定させておいた。
リリアが式典の最中に消えたのは、クロノアが代役を頼んだからであり、転移阻害などをすり抜けたのは最高神であるフェイトが転移を行ったからと、リリアに質問攻めが始まる前に異論が出にくい答えを用意した。
リリアもそんなふたりの意図は瞬時に察したようで、心の中で深く感謝しつつ会話を合わせる。
「すまんな、アルクレシア皇帝。少し騒がせた」
「いえ、重ねてどうかお気になさらず。これで、参加者は皆揃ったようですので、パーティを始めましょう」
クリスもどこかホッとした様子で頷き、パーティ開始のスピーチを行い始める。そんな中で、フェイトはリリアに対して周囲には聞こえないように調整した声で話しかける。
「ま、リリたんも災難だったね。とりあえず、パーティ始まってしばらくは私たちの傍にいるといいよ。私たちと一緒に居れば、他の貴族は声をかけてこれないでしょ? まぁ、いつまで持ってわけにはいかないから、ある程度会場の空気が落ち着いたら別れる感じかな?」
「そうだな。それならば開始直後にリリアの元に大勢が群がるということも防げよう。歓談が始まって少し経ったタイミングであれば、散発的な質問に対処すればいい。それでも大変ではあろうが……」
「いえ、本当に、心から感謝します。フェイト様、クロノア様……おかげでかなり気が楽です」
パーティ開始直後のタイミングさえ対策すれば、一斉にリリアの元に人が集まるという状況は防げる。そうなれば散発的に声をかけられて質問される程度であれば、リリアであれば問題なく捌くことができる。
最悪の事態にはならなかったことに安堵しつつ、それでも大変であろう今後を考えて、リリアは自分のお腹を撫でた。
シリアス先輩「あ~なるほど、一般の貴族から見れば力の差があり過ぎてエデンが転移させたなんて気付かないから、最高神がやったと聞けば納得できるか。リリアはクロノアの本祝福を受けてるから、神界と交流が深いってのも知られてそうだし……フェイトの成長が凄い」