アルクレシア帝国建国記念祭⑩
アルクレシア帝国の城にある応接室には、やって来たばかりのリリウッドの姿があった。リリウッドは城に到着するなり、出迎えてくれたクリスから、クロノアたちが呼んでいるという話を聞き、最高神が居る応接室に来ており、状況が分からないのか首を傾げていた。
『それで、私になんの用でしょうか?』
「ああ、急にすまんな。この世界樹の果実のドリンクなのだが、我らの能力がおおよそ倍にまで高まった。そのような効果は初めて聞いたのだが、これは世界樹の果実が持つ能力のひとつなのか、それとも……」
『ああ、それはネピュラさんの世界樹の果実ですね。カイトさんの家にある世界樹はどうにも奇妙な変異をしたようで、通常とは果実の効果が異なるのですよ。食べたものの能力を一時的に増加させる力があります……しかし、以前調べた際は1.5倍ほどでしたが、効果が増したのでしょうか? それとも神族が食べるとまた効果が違う? まぁ、それに関してはまた後日確認してみます』
「ほら、やっぱりネピュリンの世界樹の果実が特別だったんでしょ?」
「そのようだが……しかし、なぜミヤマの周りには、こうも奇妙なものばかり集まるのだ」
リリウッドの説明を聞いて、世界樹の果実のドリンクに関する謎は解けたのか、クロノアたちもホッとした表情を浮かべていた。クロノアたちの能力であっても倍加させる効果はすさまじいが、一般に流通するような品でもない上、リリウッドが把握しているのであれば問題ないだろうと判断したからだ。
「手間をかけて悪かったな、界王」
『いえいえ、それでは私は割り振られた部屋に向かいます。マグナウェルもそろそろ来る頃でしょうしね』
「私も竜王様の出迎えがありますので……」
問題は解決したためリリウッドは別室に移動し、クリスもマグナウェルを出迎えるために退室した。
別室に向かって移動していたリリウッドの元に、眷属のひとりが少々慌てた様子で駆け寄ってきた。
「……リリウッド様、至急お耳に入れたいことが……」
『どうしました?』
「それが、首都内にて人化した戦王様の姿を見たという情報が……」
『メギドが? なぜ……』
眷属からの情報を聞きリリウッドは驚いた表情を浮かべたあとで、思考を巡らせる。今回の記念式典に参加するのは、リリウッドとマグナウェルだけでありメギドが参加する予定は無い。
そもそも街中で見かけたという話なので、式典への参加ではなくなんらかの目的があって建国記念祭の場に来たのだろうと察することはできた。
『……そうか、ドワーフ族の酒を買いに来たのですね。まぁ、それなら問題はないでしょう。確かにメギドはトラブルメーカーですが、建国記念祭自体に興味はないでしょうし、酒を買ったらすぐに帰るでしょう』
「そうですね。今年はドワーフ族の酒造関連の店は中心部から離れた位置にあるみたいですし、騒ぎになる可能性も低いですね」
『ええ、確かに地図を見る限り中央広場からは距離があるので、かなり安心…………安……心……』
「リ、リリウッド様?」
メギドが人化した際の姿はそれなりに有名であり、メギドは隠し事好まないため認識阻害や情報隠蔽の魔法を使わず堂々と街を歩き回るので、騒ぎになりやすい存在ではあったが、酒を買うだけなら大丈夫だろうとそう結論付けたリリウッドだが、直後に地図を見て青ざめた表情に変わった。
『……カ、カイトさんの店が近くにあります』
「え、えぇ!?」
そう、メギドの目的であろうドワーフの酒造関連の店は今回快人の店の近くにあり、このままであればメギドが快人の出店に立ち寄る可能性は高かった。
『い、いえ、だからといって別にトラブルが起きると決まったわけでは無いのですが……なっ、なんでしょう、この胸騒ぎは……』
なんとも言えない嫌な予感を覚え、リリウッドは不安げな表情で窓から見えるアルクレシア帝国の首都の景色を見た。
願わくは、何事もなくメギドが帰ってくれますようにと……そう願いながら……。
シリアス先輩「い、胃痛が更なる胃痛を呼び起こして連鎖している。で、でも、ここからリリウッドの胃痛に繋がるパターンとかあるのか?」
???「メギドさんカイトさんの店に行く→カイトさんからリリウッドさんとマグナウェルさんが式典に参加している話を聞く→よし、なら俺も顔出すかと馬鹿なゴリラが単純思考→クリスさんともども胃痛コース」
シリアス先輩「……まだ追撃があるのか、クリスに……」