恋人への贈り物⑦
一夜明けた翌日、俺が最初にやってきたのは神界だった。目的はフェイトさんへアクセサリーを贈ること……なぜフェイトさんが最初なのかというと、単純に昨日シロさんに渡したあとで寄るべきだったと、後になって思ったからだ。
神界上層に転移してフェイトさんの神殿にやってくると、いつも通り宙に浮かぶクッションに寝転んだフェイトさんが笑顔で出迎えてくれた。
「やっほ~カイちゃん。いらっしゃい。来てくれて嬉しいよ~」
「お邪魔します。朝からいきなりすみません」
「ううん。カイちゃんなら、いつでも歓迎だよ。というか、そもそも神界はシャローヴァナル様がそうしない限り、夜とかも無いけどね~」
「そういえばそうでしたね」
フェイトさんが指を軽く振ると、どこからともなくソファーとテーブルが出現した。そしてフェイトさんに促されてソファーに座ると、紅茶やお菓子がテーブルの上に出現する。
フェイトさんは神としての力が以前よりかなり強くなっていることで、シロさんのようなこともできるようになっているみたいだ。
「それで、今日はどうしたの?」
「ああ、アルクレシア帝国の建国記念祭に出店する予定じゃないですか?」
「そうだっけ?」
「……あれ? 言いませんでしたっけ?」
「聞いたような、聞いてないような。聞いたけど、私と大して関係なさそうだから忘れてたような……」
「絶対最後のやつじゃないですか」
なんというかフェイトさんらしいと言えば本当にフェイトさんらしい。むしろ、俺が出店をやるという理由だけで出張ってこようとしたりしない分、実はこの手の話題に関してかなり安牌なのかもしれない。わざわざ店に行くのは面倒という結論に達しそうな、ある意味貴重な方である。
「あ~でもそっか、カイちゃんが出店……だから、シャローヴァナル様があんな許可出したんだ」
「うん? シロさんがなにか言ったんですか?」
「いやね、今回のアルクレシア帝国の建国記念祭には、私も含めた最高神に参列の許可が出たんだよ。参列しろって命令じゃなくて、参列してもいいよ~って感じだね。てっきり、最近私がアルクレシアに加護した兼ね合いかと思ってたけど……カイちゃんが出店するから、前に出店した時のシンフォニア王国の建国記念祭を考えて、国家間のパワーバランスに配慮した感じかな?」
「……ふむ、というと?」
「ほら、シンフォニアのは六王全員参加で話題性が凄かったからね。シンフォニア王国が独走状態になって、軋轢が生まれたりしないようにって感じかな~ハイドラどうするかは知らないけどさ……」
「なるほど」
言われてみれば、六王全員参列のシンフォニア王国の建国記念祭は話題性が凄いだろう。それに対抗してアルクレシア帝国には最高神全員参列という風にしてバランスをとる感じかな? まぁ、あくまでシロさんは許可を出しただけで参加を強制したりしていないので、そういう思惑はありつつもそれぞれの判断に任せる感じかな……。
「……いろいろ大変ですね。まぁ、話が逸れちゃいましたけど、今日訪ねてきた目的ですが……フェイトさんにこれをプレゼントしようと思って」
「およ? 髪飾り? 飾りに使われてるのはクイーンアメジストかな?」
「ええ、出店の商品の関係でオリジナルアクセサリーを作りまして、せっかくなので恋人にそれぞれ手作りのアクセサリーを作ってプレゼントしようと思って、それはフェイトさん用に作ったものです」
フェイトさんに贈るアクセサリーは正直迷った。そもそもあんまりアクセサリーを付けるイメージの無い方なので、シンプルなものがいいかと思ったが……ネックレスやブローチは、寝転がってる状態だと邪魔になる。
なので、ヘアゴムに付けたりできるタイプの髪飾りにした。フェイトさんはツインテールだし、ワンポイントになって可愛いのではないかと思ったからだ。
「おぉぉ、これカイちゃんが作ったの? 凄いじゃん! 器用なんだね~」
「ああ、いえ、アリスが用意してくれた作成キットのおかげではありますけど……」
「でも、私が作るより絶対上手いよ。私たぶん作ってる途中で飽きるし……ともかく、ありがと~嬉しい!」
「喜んでもらえたならよかったです」
フェイトさんはニコニコと笑顔で俺を賞賛してくれたあとで、さっそく髪に付けてくれた。クイーンアメジストを使った髪飾りは、フェイトさんの髪の色とは少し違う青っぽい紫だが、その分アクセントになっている感じだ。
「どう? 似合う?」
「ええ、凄く似合ってますし、可愛いです」
「あはは、ありがと~けど、不意打ちされちゃったな~これはドキドキしちゃうね。というわけで、カイちゃん、両手を広げるんだ!」
「はい? え? こうですか――」
「うりゃ!」
「――うぉっ!?」
フェイトさんに言われた通り両手を広げると、フェイトさんはフワッと寝転んでいたクッションから浮かび、俺の手に収まるように抱き着いてきた。
「というわけで、カイちゃん、いちゃいちゃしようぜ~」
「なにがというわけなのか……まぁ、そういう唐突さがフェイトさんらしいといえばらしいのかもしれませんね」
フェイトさんは割と猫のように気まぐれな性格をしているが、いまのように甘える時は思いっきり甘えてくるので、なんというか本当に可愛らしい。
思わず頬が緩むのを感じながら、嬉しそうに抱き着いてくるフェイトさんの頭を撫でた。
シリアス先輩「おうふっ……思った以上に糖力が……いや、けど、なんかシロとかクロとかエデンとか、あの辺と比べて快人の状況を把握していないあたり、快人のプライバシーを侵害する気が一切ないというか、滅茶苦茶まともな奴に見える……快人からの報告も含めて楽しんでるっぽいし、快人が言われて嬉しそうな褒め方してるし……フェイトって、想像以上にいい恋人なのでは?」