予兆⑪
アメルさんとのオリジナルアクセサリー作りはアリスの作成キットのおかげもあってかなり順調に行え、数点ではあるが店頭に並べることも決まった。
「結構いい感じにできましたね。これで商品の準備もバッチリですし、あとは建国記念祭本番を待つばかりですね」
「ああ、盟友のおかげで煌めく混沌の逸品たちも、現世に集い並んだ。あとは約束の時を待つばかりだ」
「そういえば、申請はアメルさんの方にお願いしましたけど、場所とかってどうなりました?」
「問題はないよ。星々の集う祭典、決してステージに上がるばかりが極光というわけでは無い。木漏れ日の如き差し込む一筋の光の先にもまた、真理は存在している」
「なるほど、俺としてもあまり大きな通りに接していたりするより、静かな場所がいいですね。隠れた名店みたいですし」
「……隠れた名店……いい」
アメルさんの話では、賑わう広場のような場所ではなく、あまり人通りが多くない場所を選んで申請してくれたみたいだ。イメージとしてはシンフォニアの建国記念祭と似たような感じかもしれない。
実際、俺もアメルさんもお金儲けが目的ではないので、その方がありがたい。シンフォニア王国の建国記念祭と比べて、店員も俺とアメルさんだけなので忙しいのは勘弁してほしい。
まぁ、シンフォニア王国の時とは違って、食品ではなく雑貨なのでそこまで混み合うことは無いだろうけど……。
「じゃあ、後は軽く当日の予定でも打合せしておきましょうか」
「ああ、異論は無いよ。祭典に備えるために互いの刻む時の波長は合わせておく必要がある。約束の地を選定するか、あるいはこの場を約束の地とするか……」
「ああ、それは悩むところですね。前日かどこかに一度現地を下見しておきたいですね。出店じたいはマジックボックスで運べるので前日に設置したりする必要はないですけど、場所は事前に足を運んでおけば転移魔法具に登録できるので、現地集合もできますからね」
「なるほど、確かに備えは重要だ。約束の地を一度見定めるか……ではその方向で考えていこう」
その後、アメルさんといろいろと相談した結果……記念祭の前に一度出店を出す場所を一緒に下見して転移魔法具に座標を登録、当日は現地集合という形で話は纏まった。
セレモニーが行われる中央広場の付近は転移阻害結界が貼られるらしいが、俺やアメルさんが出店を行う場所は問題ないようなので転移魔法で移動できる。
とりあえず、これで準備は万端なので……いちおうクリスさんに手紙で伝えておこう。オリジナルアクセサリーも作ったことをも含めて……。
アルクレシア帝国の王城にある執務室では、クリスが快人から届いた手紙を前に緊張した表情を浮かべていた。彼女にしては珍しく躊躇しているというか、恐れている様子で、なかなか手紙の封を切ることができない。
ただでさえ、最高神三人が参列を表明ということになっているので、盛り上がることにありがたさを感じつつも胃薬を飲む状態になったクリスにとって、この快人の手紙の内容はあまりにも重要だ。
しばらく悩んだあとで意を決して封を開け、手紙にじっくりと目を通したクリスは……スッと、燃え尽きたかのような表情で虚空を見つめた。
そのすべてを諦めたかのような表情を見て、傍に控えていた側近が慌てて声をかける。
「へ、陛下? 大丈夫ですか?」
「……終わりました……地獄のカーニバルが始まってしまいます」
「……ま、まさか……」
「作ったらしいです、オリジナルアクセサリー……しかも、店に並べるのは数点……」
快人の手紙にはオリジナルアクセサリーを作った旨と、数点しか店には並べないことが書かれていた。それから導きだされるのは血で血を洗う争奪戦の開始である。
絶望の表情を浮かべるクリスに、側近も青ざめた表情を浮かべ……ることはなく、小さく笑みを浮かべて口を開いた。
「ああ、安心してください」
「ッ!?!?」
そして直後に側近の姿がブレたかと思うと、アリスの姿に変わった。
「あ、アリス様!? い、いつの間に……いえ、そうですか……手紙を持って来た時にはすでに入れ替わっていたんですね?」
「ええ、側近の方には、クリスさんの名前で別の仕事を与えていますので、あと15分ほどで戻ってきますよ。それで私が来た用件ですが……まぁ、安心してください。カイトさんの自作アクセサリーに関しては、現状他にはほぼ情報は漏れていません。アメルさんとカイトさんには事前に口止めしてますし、クロさんのネックレスとかは私が誤魔化しましたので、カイトさん作成のアクセサリーについて知っているのは、カイトさん、アメルさん、私、クリスさん……あと、世界創造の神共ぐらいです」
「……そ、それは、安心していいんでしょうか?」
「とりあえず、世界創造の神共に関しては、互いに牽制し合った結果どちらも建国祭には参加しないということで纏まったみたいですし、シャローヴァナル様に関してはカイトさんがなんとかするでしょう」
アリスの言葉を聞いて、クリスはしばし考えたあとでホッと胸を撫で下ろした。最大の懸念であるシャローヴァナルやエデンが動かず、他の六王に関してもアリスが情報を遮断している。
それならば恐れていた争奪戦は怒らない可能性が高く、快人目当てに六王の参加が増えるという事態も避けられる可能性が高かった。
「……まぁ、絶対にバレないとは言いませんので警戒はしておいた方がいいとは思いますけどね。ある程度は安心でしょ?」
「…‥あ、ありがとうございます。ほ、本当に胃が痛くて絶望していたところでした」
「いえいえ、まぁ、このぐらいのフォローはしないと……では、私はこれで……」
そう言ってアリスは姿を消して、残ったクリスはホッと胸を撫でおろした……が、快人のアクセサリーを除外しても、最高神三人に六王ふたりの参加が確定している建国祭は凄まじいものであり、どちらにせよ胃の痛い日々が続くことを思い出して、机の引き出しから胃薬を取り出した。
シリアス先輩「これはナイスフォロー、なんだかんだでアリスは……待て? そもそも、オリジナルアクセサリーが完成したのは、アイツが変なキット渡したせいでは? じゃあ、マッチポンプじゃねぇか!」