予兆②
アメルから届いた手紙を読み終え、クリスはなんと難しそうな表情を浮かべていた。
「どんな商品を扱のか、いまいち難解で分かりかねるのですが、食品ではなさそうですね」
「有翼族は羽根飾りなどをアクセサリーを出店しますし、同様にアクセサリー類ではないでしょうか?」
「……可能性はありますが……あと、この盟友というのはミヤマ様で間違いないでしょうね」
「ええ、我々が集めた情報でも、アメル様がミヤマカイト様を盟友と呼んでいることは確実です。しかし、少々驚きましたね。アメル様はともかくとして、他の有翼族がよくこれを許しましたね」
「確かに、有翼族の性質上、長が他種族と親しくすることを歓迎するとは思えませんが……」
側近の言葉にクリスも静かに頷く、有翼族は極めて閉鎖的な種族であり、他種族との交流は最小限にすべしという考えが主流である。
長であるアメルは立場上ある程度祭りなどにも招待を受けて参加することはあるが、それでもやはり他種族と積極的に関わることは少ない。
「……実際、当初我々が集めた情報でも、アメル様はそれなりに気を使ってミヤマカイト様と交流している様子でしたよね? 有翼族の集落などに招くことはなく、あくまで個人的な付き合いのみに留めていましたし、他の有翼族の目に留まらないように注意している印象でしたね」
「確かに、そう考えると建国記念祭という場に堂々と出店するのは意外……いえ……そうか……」
「陛下?」
快人を盟友とは呼びつつも、有翼族の長としての立場は守って線引きをしている様子だったアメルにしては、他の有翼族の目にも触れる可能性が高い場に快人と共に出店というのは少々疑問の残る行動だったが、クリスは途中でなにかに気付いたような表情を浮かべた。
「……必要なくなったのでしょう。おそらく、アメル殿がミヤマ様のあることを知ったためでしょうね」
「あること、ですか?」
「……ミヤマ様が、創造神シャローヴァナル様の本祝福を受けているという情報ですよ」
「創造神様の本祝福――あっ、そっ、そうか、有翼族は!?」
「ええ、有翼族は極めて信仰心の強い種族です。彼らは空や大地といった自然を含めた命の神たる。生命の女神様を強く進行しており、その信仰心は神族の頂点たるシャローヴァナル様に関しても同様です。つまり、有翼族にとってミヤマ様は神に選ばれた偉大な存在であり、他種族であろうが交流を持つことは大賛成なのでしょう」
クリスの語る通り、有翼族は極めて信仰心の強い種族であり、必ず月に1度は生命神ライフの部下である豊穣神の神殿に参拝を行うことを種族の義務としているほどであり、朝の起床時と夜の就寝時にもライフやシャローヴァナルに対して必ず祈りを捧げるほど信心深い。
通常であれば快人がいかに権力者たちと繋がりがある世界の特異点とはいえ、他種族であるため長であるアメルが交流することには反対するはずだが、その快人がシャローヴァナルの祝福を受けているとなると話はまるで変ってくる。
種族全体が信仰を捧げる偉大なる神の祝福を受けた快人は、有翼族にとっては神に等しい存在であり、むしろ長であるアメルが親しくしているのは誇らしく栄誉なことだと考える。故に快人がシャローヴァナルの祝福を受けていると知った時点で、アメルにとって快人との交流の上でのしがらみは全て消えたに等しく、思いのままに友好を深めることができるようになったというわけだ。
「あ、相変わらずとんでもない方ですね。狙ったわけでは無いのでしょうが、気難しい有翼族と完璧に近い形で交流が可能なわけですね」
「……ええ、本当に、流石はミヤマ様というべきか、おそらくミヤマ様であれば有翼族の里を訪れても歓迎されるでしょうし、既に長であるアメル殿が盟友と呼ぶほど気に入っていることも考えると、神族以外で唯一有翼族と自由に交流できる他種族と言えるかもしれません」
人界の中でも親しくなることはおろか、交流を持つことさえ極めて難しい有翼族に歓迎される存在となっている。相変わらずの特異点ぶりに思わず苦笑を浮かべていたクリスだったが……直後にハッとした表情を浮かべた。
「……しかし、待ってください。もし仮に、仮にですよ……このアメル殿の出店で取り扱うのがアクセサリー類だったとして、製作にミヤマ様が関わっていたとしたら……」
「……ヤバいですよ陛下。恐れながら、いま、背筋が凍りついた思いです」
「え、ええ、私も手が震えています。不味いですよこれ、仮に手作りのアクセサリーだとしたら、数はそこまで用意できるものでもないでしょうし……最悪争奪戦に……」
そう、シンフォニア王国の時とは違う。あの時はベビーカステラの屋台、食品だった……だが、今回は手紙を見る限り食品とは思えない。
他の有翼族と同じようにアクセサリーを販売するとなれば、それを欲しがるものは極めて多いだろう。
「そうなったら、首都が消し飛びませんか?」
「……と、とりあえず、早急に商品の詳細を確認しなくては……もう背に腹は代えられません。気難しいアメル殿に尋ねるより、ミヤマ様に直接尋ねましょう。手紙の用意を!」
「かしこまりました!」
とてつもない事態が起ころうとしている可能性を感じ、クリスは胃の痛みを感じていた。
マキナ「……愛しい我が子の……手作り?」
???「ステイ! ステイ!!」