番外編・エピソード・オブ・アイシス~現在②~
六王祭~神界決戦の間の話です。
アイシスさんの城にある書庫は本当に巨大である。いちおうシンフォニア王国の王立図書館にも足を運んだことはあるが、それさえも遥かに及ばないほどの本の数があるだろう。
アイシスさんはここにある本をすべて読んでいると考えると、彼女が過ごしてきた時間の長さを痛感するような気分になる。
「……カイト……どうしたの?」
「ああいえ、外観からだと中がこんなに広いなんて想像できないなぁって……」
「……時空間魔法で……空間を拡張してる」
「結構聞きますね。クロの家もそうですし、アリスも工房とかは空間を拡張してるって言ってました」
「……うん……空間隔離結界とか……空間に関する結界魔法は発展してて……安定した術式方式があるから……使いやすい」
「なるほど……」
あくまで、アイシスさんクラスのお話であり、本来空間系の魔法はかなり難しく大規模空間隔離結界などは、魔法の中でも1、2を争うぐらいに高度な魔法らしい。
よくよく考えれば難しい魔法の代名詞たる転移魔法も、時空間魔法に近い性質のような気がするし、その手の魔法は全般的に難しいのだろう。
「……アイシスさん、その本は?」
「……あっ……これ……オススメ……カイトにも……読んでほしい」
「なるほど、ありがとうございます。アイシスさんが勧めてくれる本はどれも面白いので、読むのが楽しみですね」
「……カイトがそう言ってくれると……私も……嬉しい」
何冊かの本を抱えるように持って笑うアイシスさんは幸せそうで、見ているとこっちまで嬉しくなる気分だった。
今日はアイシスさんの家に泊りに来たということもあって、ゆっくり過ごせるし本を読みながら他愛のない雑談というのもいいものではあるが……せっかくアイシスさんと一緒なのに、本を読んで過ごすのは少し勿体ない気もするので、悩ましいところである。
そんなことを考えていると、アイシスさんはどこか懐かしむような表情を浮かべて呟いた。
「……ここで……ひとり本を読んでた時は……寂しかった……本の内容は面白くても……なんだか冷たくて……読み終わった後は……いつも空虚な感じだった」
「……アイシスさん」
「……でも……そういう時間があったおかげで……こうしていま……カイトにお気に入りの本を勧められるから……あの時間も無駄じゃなかったって……そう思えて……嬉しい」
「そうですね。きっと無駄なんかじゃないです。アイシスさんにとっては寂しくて辛い時間だったかもしれませんけど、きっとこれから役に立つ機会も増えるんじゃないですか? ほら、六王祭では3m前後まで近づいても大丈夫だったわけですし、今後もその範囲が狭まって来ればもっと気楽にいろんな人と会話ができるようになるかもしれませんしね」
「……そう……かな? ……そう……なれるかな?」
六王祭で一緒に祭りを周った際には、ある程度遠巻きに見ている分にはアイシスさんに対して多少の威圧感は感じていても死の魔力による恐怖を感じているような感じではなかった。
アイシスさんが幸福であればあるほど、死の魔力が周囲に振りまく恐怖は弱くなるという話なので、今後俺がもっとアイシスさんを幸せにできれば、3mの距離をさらに縮めることも不可能ではないと思う。
「だって、ほら、考えてみてください。俺とアイシスさんが知り合ってほんの半年ぐらいで、周囲の人がある程度近づいても大丈夫になったんです。コレはきっと大きな進歩ですよ。まぁ、俺はあんまり魔法に関しては詳しくないので、死の魔力の制御のコツとかは分かりませんけど……これからもいま以上にアイシスさんを幸せにするつもりなので、副次効果としてきっとその辺りもいい感じになるんじゃないですかね?」
「……カイトっ」
そう、あくまで目的は死の魔力の緩和ではなく、アイシスさんを幸せにすることが一番である。そのおまけとして、アイシスさんが交流できる幅が広がっていけば嬉しいし、そうなって欲しいとも思う。
もしかしたら、いつかアイシスさんに配下とかが出来てこの城にも多くの人が住むようになる日も来るかもしれない。
そんな風に思って告げると、アイシスさんは目を潤ませた後、持っていた本を浮遊させて俺に飛びついてきた。
「……カイト……好き……大好き」
「はい。俺も、アイシスさんが大好きですよ」
「……嬉しい……カイトが居てくれればきっと大丈夫……でも……カイトに幸せにしてもらうだけじゃなくて……私もカイトを幸せにしたい……えと……だから……」
「そうですね。どちらかが与えるだけでは一方通行ですし、一緒に幸せになりましょうね」
「……あっ……うん!」
俺の言葉に満面の笑みを浮かべるアイシスさんの表情は眩しいぐらいに綺麗で、そこには儚さだけではなく強さも芽生えかけているような気がした。
なにかを貰うだけじゃなくて自分も与えたいと、そう思えるのはアイシスさんの心が強くなっている証拠ではないだろうか? なんにせよ、俺は恋人としてしっかりアイシスさんを支えてきたいと、改めてそう思いながら期待するようなアイシスさんの目に導かれて、少し身を屈めてキスをした。
シリアス先輩「ぐわー!? 唐突な、砂糖ぐわぁぁぁぁ……くそっ、せっかくシリアス続いてたのにちょっと快人が出てきた瞬間これかよ……こ、これが主人公の糖力……」