番外編・エピソード・オブ・アイシス~現在①~
今回より現在(第一部)に入ります。区切る箇所の都合で今回はやや短めです。
時間軸はアイシスと快人が恋人になった直後ぐらいで、次回はまた時間が飛んで六王祭~神界決戦の間の本編であまり描写が無い時間軸のお話の予定で、その後は神界決戦時の話になります。
アイシスが待ち続けた存在。決して自分に抗うことができるほど強くはなく、それでも己を受け入れてくれる存在……宮間快人と出会ったことで、彼女には大きな変化が訪れた。
恋とは落ちるもの……ずっと孤独と絶望に打ちのめされ続けてきた彼女が、己を受け入れてくれた快人に恋をするのは必然だったのだろう。
快人と出会ったことで、アイシスの表情には笑顔が増えた。毎日が本当に楽しく、煌めいているようにさえ感じられるようになった。
そんな快人が、己の想いを受け止めてくれ、恋人になってほしいと言ってきたときは……言葉で言い表すのが難しいほどの幸福だった。
恋人となった快人と一緒に過ごし、心からの笑顔を浮かべるたび、凍えていたはずの心には温もりだけが満ちてきた。
そして、そんな人生の絶頂ともいえる幸福の中で、アイシスは久しぶりに夢を見た。
『……』
こちらを見つめてくるのは、いままで何度も会ったもうひとりのアイシス。
「……もう……貴女がなにを言っても……関係ない……カイトは……私の運命の人……カイトと一緒なら……幸せになれ……ううん……幸せに……なってみせる」
そう語るアイシスの瞳には、孤独に震え涙を流していたときとは大きく異なり、強く確かな光が宿っていた。
「……私だけが……カイトに与えてもらうんじゃない……私も……カイトを幸せにする……してみせる……カイトが……私を好きになってくれたこと……後悔なんてさせない……私は……カイトと一緒に……幸せになる……カイトと一緒なら……それができる」
思えばずっと、アイシスの心は弱いままだったのかもしれない。力がどれほど強大でも、その心は孤独に震える幼子のそれだった。しかし、いまのアイシスは宮間快人の存在により、確たる心の柱を得た。
だからこそ、強く揺るがない意思を込めて、いままで己を否定し続けてきたもうひとりのアイシスに立ち向かう。
『……うん。ワタシもそう思う』
「……え?」
しかし、否定ではなく肯定の言葉だった。
『ふふ、なんで驚くの? 前にも言ったでしょ、ワタシは別に貴女を不幸にしたいわけじゃない。ワタシと貴女は、どちらもアイシス……貴女が幸せなら、ワタシも幸せって……』
穏やかに透き通るような声で告げながら、もうひとりのアイシスが被っていたローブのフードを取ると……そこには、心の底から幸せそうに笑う、アイシスとまったく同じ顔があった。
『……見て、雲晴れたよ』
「……あっ……ほんとだ」
もうひとりのアイシスに言われて空を見上げると、いままで暗く分厚い雲に覆われていた空は、眩しいほどの青空に変わっており……温かな光が雪原へと差し込んでいた。
『カイトが、ワタシたちを照らしてくれた。ワタシたちの心の奥に、温もりを届けてくれた』
「……うん……カイトは……すごい」
『うん。もう貴女がワタシを拒絶する必要もない……ワタシとこうして会う必要もない』
「……消えちゃうの?」
『消えないよ。ワタシは貴女、貴女はワタシ……混ざり合い、アイシス・レムナントとして、同じものを見ながら、同じ想いを抱きながら……これから先、カイトと共に生きていくだけ』
もうひとりのアイシスは語る。己の役割は終わりだと、これからは本来の形に戻り、共に生きていくのだと……。
「……ありがとう」
『なにが?』
「……ずっと……憎まれ役……引き受けてくれて」
『自分にお礼なんて変なの』
「……ふふ……そう……だね」
かつてとは違い心に余裕を持てるようになったアイシスは、気付いていた。目の前のもうひとりのアイシスが、ずっと己の願いを否定し続けていたのは……いざそうなったときに、少しでもアイシスの心の傷を軽くしようと、先回りして憎まれ口をたたいていたのだと……。
温かな日差しに照らされながら、ふたりのアイシスは明るい笑顔を浮かべ合った。
シリアス先輩「……うん? 神界決戦時の話? 六王祭~神界決戦まではともかく、神界決戦でなにを?」
???「どうやって私たちがカイトさんの試練の一部を手助けすることができたかって話ですね。どこかの誰かが、唯一完全な形で残していた権能級の力があるわけなんですよ」
シリアス先輩「あっ……ああ、あの時のは、そういうことなのか!」