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番外編・エピソード・オブ・アイシス~過去⑩~


アイシス・レムナントは……茨の道を選択した。いまあるもので妥協するのではなく、心から求めるものを探し続けると……見つかるはずがないと告げる己の心に背を向けて。


「え? 城っすか? そりゃ、作れないことは無いですけど……なんでまた?」

「……これから……私も昔のクロムエイナみたいに……魔界を旅する……そして定住する場所を見つけて……そこに城を建てるつもり……シャルティアに作ってもらって……それを時空間魔法で持っていく」


 アイシスは初めに家族であるシャルティアに後に自分が住む居城の作成を依頼した。シャルティアは非常に多芸であり城を制作するのも可能だと考えたからだった。

 実際可能ではあるが、それを依頼されたシャルティアは少々難しい表情を浮かべた。


「……アイシスさん、やっぱりアイシスさんだけでもクロさんのところに残りませんか? クロさんが魔界で最強ってのは周知の事実ですし、クロさんのところに王が2人居ても問題はないと思うんですよ。クロさんの元であれば、実力者も多くなるでしょうし、死の魔力に対抗できるレベルの人も……」

「……ううん……もう決めた……私は……自分で探す……クロムエイナがしたみたいに……」

「そうっすか……分かりました。それで、どんな城にしますか?」


 シャルティアは家族たちに六王という立場になって魔界に秩序をもたらすことを望んだが、アイシスに対してだけはたびたびクロムエイナの元に残ってはどうかと提案していた。

 アイシスの死の魔力はあまりにも特異であり、シャルティアの予想では十中八九アイシスに配下は見つからないと思った。いや、配下だけに絞って探すのなら見つかるかもしれない。死の魔力に耐えうるだけの人材を力で従えればいいのだ。

 だが、アイシスが求めているのはそうではない。彼女が一番求めているのは、死の魔力に対抗する力がなくとも己を受け入れてくれる存在であり、なによりもその存在を探そうとしている。その存在が見つかるまでは、他に目を向けることは無いだろうとも理解していた……だが、それはシャルティアの目から見ても非常に困難……いや、不可能ではないかと感じていた。


「……大きな城がいい……いっぱいの人が住んでも大丈夫なように……大きな食堂で皆で食事をする……あとシャルティアが話してくれた……皆で入るお風呂……温泉? ってやつも……欲しい」

「……アイシスさん。言いたかねぇっすけど、現実から目を背けるように未来に大きな期待を向けすぎると後悔――いえ、私が言えるような事じゃなかったっすね。分かりました。せっかくですしとびっきりの城を作りましょうかね!」

「……うん……よろしく」

「定住する場所が決まったら教えてくださいね。私もたまには遊びに行きますよ」

「……うん」


 未来に期待し過ぎれば現実との差で大きなダメージを受けることになると忠告しようとしたシャルティアだったが、その言葉は途中で止まった。

 なにせ、彼女自身理性では見つからないと思っている存在を探し続けており、ある意味ではアイシスと同じといえる状態だったからだ。

 だからこそ、後にアイシスが感じる絶望を思うと止めたいという気持ちが湧いてくるが……自分も似た道を辿ったからこそ、ここでなんと言ってもアイシスが止まらないということが理解できていたからこそ、止めることはできなかった。

 結局シャルティアはアイシスの要望を聞き、その通りの城を完成させた。それを見るアイシスの目は希望に輝いていた……いや、考えたくないことから目を背けて無理やり未来に期待しようとしているような、そんな風に感じられた。







 彼女は過去にクロムエイナがそうしたように魔界を旅することに決めた。無条件に己を受け入れてくれる存在を探すため……それは一種の戦いだった。


 旅を始めてから千年が経った。シャルティアの提案により生まれた爵位級高位魔族と六王という存在は、魔界に知れ渡り、アイシスもまた死王として広く周知されるようになった。

 そしてその頃には、六王と呼ばれるようになった家族たちは、それぞれクロムエイナの元から独立し、魔界の各地に移り住んでおり、それぞれの勢力を築き始めていた。

 大切な家族と離れ離れになって暮らすのは寂しく辛かったが、いまはまだ見つけられてないものを探すアイシスにとっては、いい機会でもあった。


 旅を始めてから五千年が経った。かつては戦闘力こそがすべてだった魔界も、シャルティアの働きにより平和が訪れ、地域ごとに様々な特色や歴史が現れるようになった。

 このころになると、アイシスはすでに魔界の地を隅々まで回り終えてしまっていた。しかし、彼女の求める存在は見つからないまま。

 あらゆる地域を巡った。あらゆる種族の魔族を見た。しかし、死の魔力に怯え逃げ惑う者たちから感じるのは、いつも明確な拒絶だけだった。


 そんなどこへ行っても拒絶される彼女を見かねて、共に住んでいたころより仲のよかったリリウッドが「定住して腰を落ち着けて探してはどうか」と提案し、それを聞き入れたアイシスが他に生物が住んでいない死の大地と呼ばれる場所に定住することを決めた時には、もう、彼女が感じる孤独はどうしようもないほど大きくなっていた。


 何度涙を流しただろうか、何度孤独に震える己の体を抱きしめただろうか、何度、多くの者に受け入れられる他の六王たちに嫉妬しただろうか……。


『また、駄目だったね』

「……どうして……どうして……私は死の魔力を持って……生まれてきたの?」

『……ごめん』

「……なんで……貴女が……謝るの?」

『貴女が、泣いてたからかな?』


 夢の中で出会うもうひとりのアイシスは、より分厚くなったように感じられる暗い空を見上げながら、いままで幾度も繰り返した言葉を告げる。


『……諦めないの?』

「……まだ……生まれてないだけ……かもしれない」

『そう、私は無理だと思う。誰もワタシたちを受け入れてなんてくれない』

「……うるさい……黙れ」


 諦めること、妥協すること、ソレができたなら楽だったのかもしれない。しかし、アイシスは願ったものを諦められなかった。皮肉にもそれが、彼女の心をさらに苦しめることとなる。


 探し始めてから一万年が経った。諦めの感情はどんどん大きくなり、アイシスは次第に居城から外に出ることがなくなってきた。

 魔界中で集めた大量の本を読みながら、広い城の中でひとりで過ごす。誰も自分を受け入れてなんかくれない……もうひとりのアイシスが語った言葉が、重く、重く心にのしかかっていた。

 それでも完全には諦めきれず、出かける回数がゼロになることだけはなかった。趣味という名目で、本に出てきた品を収集するという理由を付けて、見つからないものを探しに行く。


 探し始めてから二万年が経った。ここで世界は大きく様相を変えた。魔王による人界侵略をきっかけに、三世界の友好条約が結ばれ……世界が広がった。

 ゆえに、必然だろう……広がった新たな世界に希望を抱いてしまうのは……だが、彼女は受け入れられなかった。

 他の六王たちが受け入れられ、その行動範囲を広げていく中で……彼女だけは拒絶された。

 得たのは、『最も恐ろしき六王』という恐怖と畏敬。おおよそ、彼女が望むものではなかった。


「……なんで……どうして……私……だけ……」

『もう、諦めよう? ワタシたちは十分に頑張った。人界のあちこちを巡った、異世界人とも会ってみた……だけど、誰もワタシたちを受け入れてはくれなかった。だからもう……』

「……いや……こんな寂しいまま……諦めたく……ない」

『……そう』


 黒い吹雪が吹き荒れる雪原で、アイシスともうひとりのアイシスは涙を流す。

 孤独に震え、己の境遇に絶望し……それでも、希望を捨てきれずにあがき続けた。


 だから……なのだろうか? そこですべてを諦めてしまわなかったからこそ、それから千年後……待ち続けた奇跡が訪れることになる。


 本当に長い年月が経ち、彼女は、アイシスは求め続けた存在――宮間快人と巡り合う。




???「本当にアイシスさんの過去編を見ていると、カイトさん早く来てくれ~って感じになりますね」

シリアス先輩「というか、お前結構アイシスの心配してたんだな。そういえば、本編でアイシスが『たまに遊びに来る』って発言してたな」

???「まぁ、家族ですしね。正直私としてはアイシスさんの求めている相手が見つかるとは思ってなかったので、もうひとりのアイシスさんと同じく妥協すべき派でしたね。カイトさんマジで特異点ですね」

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― 新着の感想 ―
[一言] 己も億レベルで生きる事でかつての大邪神の気持ちを理解し始めてるの因果すぎる。億レベルで生きてる連中は皆似たような感覚なんだろうか
[一言] 引いた分だけデカい波が押し寄せてくる理論で、コメントが一色に染まってるの笑うしかない。 あえて受け止めようとして、無事ドロッドロに融けてくれ先輩。
[一言] シリアス先輩、ここまでか。
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