もっとベビーカステラの可能性を求めて⑨
クロノアさん、ライフさんの神殿を回った後は、当然と言えば当然ではあるがフェイトさんの神殿にやって来た。俺たちが訪れると、フェイトさんはいつも通りのクッションに乗った状態で笑顔で迎えてくれた。
「カイちゃん、いらっしゃ~い」
「こんにちは、フェイトさん。急にすみません」
「ううん。カイちゃんならいつでも歓迎だよ……けど、クロりんも一緒に来るのは珍しいね」
「お邪魔するね、フェイトちゃん」
「……クロりん? あれ? フェイトさん、クロのことそんな呼び方してましたっけ?」
俺の記憶が間違いでなければ、フェイトさんはクロのことは「冥王」と呼んでいたはずだ。そう思って尋ねると、フェイトさんは笑顔を浮かべつつ説明してくれた。
「ああ、ほら、前に海水浴に行った時に死王のことをアイちゃんって呼ぶようになったじゃん。それで、冥王だけそのままってのもなんだったから、ついでに変えてクロりんって呼ぶようにした。まぁ、お互いにカイちゃんの恋人なわけだし、仲良くしたいしね~」
「そうそう、ボクもそんな風なあだ名をつけられるのは初だから、結構新鮮だよ。えへへ、クロりんです! なんちゃって」
子供っぽい笑顔を浮かべて頬に人差し指を当ててポーズをとるクロは大変可愛らしかった。なんというか、クロは基本的にノリがいいので、何気にフェイトさんとの相性もいい気はする。
フェイトさんも、最初の方の他人に興味がない感じはどこへやら、いまとなっては他の恋人たちとも積極的に交流を持とうとしており一番友好的ともいえる人かもしれない。なんというか、成長というか変化を実感する。
「……それで、クロりんも一緒ってことはなにか用事があったの?」
「ああ、それなんだけど、いまカイトくんとベビーカステラの新しい可能性を探してあちこちで意見を聞いて回ってるんだよ」
「ふむふむ……え? その話の流れだと、私にも聞きに来た感じ?」
「うん。というわけで、フェイトちゃん。なんかいい意見無いかな?」
クロの質問にフェイトさんは明らかに困惑したような表情を浮かべる。果たしてフェイトさんはベビーカステラを食べたことがあるのだろうか? というか、俺とクロの共通の知り合いって、意外とベビーカステラ自体食べたことなさそうな人が多いな……。
フェイトさんは少し考えるような表情を浮かべたあとで、真剣な表情で頷いた。
「……なるほど、他ならぬカイちゃんとクロりんの頼みだし、私もできれば力になりたい。だから、精一杯答えるよ……『私の代わりにシャルたんが』!!」
「そっか、じゃあ、シャルティアよろしく」
「ちょっと待ってください! なに、ふざけた話の流れにしてんすか!!」
キリッとした顔で、フェイトさんはいっそ清々しいまでアリスに全投げし、クロもそれに乗っかってアリスに尋ねた。そうなると、当然だまっていないのは本日4度目の解答となるアリスである。
姿を現したアリスは、明らかに慌てた様子でフェイトさんに詰め寄る。
「いいですか、フェイトさんは知らないかもしれませんが私は既に3回も、このクソ興味もない話題に回答してんすよ。お願いだから、こっちに投げないでください」
「そっか……シャルたんも大変だね。けど、誤解せずに聞いて欲しんだけど、私も悪意があるわけじゃないんだ。ただ、これが最善だと思う……ほら、私って最高神だし、最近カイちゃんのおかげで視野が広がったと言っても、それまではずっと狭い価値観の中で生きてきたんだ。そんな私が、クロりんが納得できるような答えを返すのは難しい……だけど、こうして頼ってきてくれたクロりんとカイちゃんの力になりたいって思いはあって、熟考した上での発言なんだ」
「……フェイトさん」
「……あと単純に面倒臭いってのもある」
「絶対にそっちがメインじゃねぇっすか!!」
「いや、全部じゃないよ……面倒って理由は全体の99.9%ぐらい」
「それもう全部って言っていいんすよ……」
なんか一瞬いい話をしてるかと思ったが、そこは安定のフェイトさんであり、理由は面倒だからというものだった。まぁ、いろいろ変化していたとしてもやっぱりフェイトさんはフェイトさんであり、そういう面倒臭がりのところなどは変わっていないようだった。
「というわけで、クロりん。シャルたんが超絶凄い解答をしてくれるから」
「分かったよ! じゃあ、シャルティア、超絶凄い解答よろしく」
「……ふっ、ふふふ、ははは……そうっすか……そう来るなら、私にも考えがあります」
「……あ~や、やっぱ、私自分で解答しようかなぁ……」
「……あ、ぼ、ボクもちょっと悪ふざけが過ぎたかなぁ、なんて……とりあえず、シャルティア……その物凄い魔力の短剣を戻して欲しいかなぁ……」
気のせいかもしれないがブチッとなにかが切れるような音が聞こえた気がした。そして、アリスがスッとどこからともなく取り出した短剣を見て、クロとフェイトさんは顔を青ざめさせた。
「権限起動。限定貸出申請……code奈落」
「……あっ、動けない……空間軸ごと拘束された。フェイトちゃん、これたぶんヤバいの来るよね?」
「なんか、全能級とか来そうな雰囲気……シャルたん、すっごい隠し玉持ってるなぁ……」
「この気配。前の神界決戦の時に覚えがあるなぁ……マグナウェルの分体といい、これといい……シャルティアってもしかして地球神と仲が良いのかな?」
「う~ん、あのバケモノ神が自分の世界以外の人と仲良くする様子が思い浮かばないんだけど……でも、シャルたんだしなぁ、なんか上手いことやったのかもねぇ」
なんか凄いことになってはいるが、クロやフェイトさんの会話はどこか緩い感じだった。
まぁ、アリスとフェイトさんは親友同士で、クロとも仲がよくなんだかんだでじゃれてるみたいなものだろう。アリスもなんか邪悪……もとい悪戯っぽい笑みを浮かべてるし……うん。まぁ、喧嘩するほど仲が良いってことで……。
そして直後に亜空間かどこかに姿を消した三人を見送ってたあと、さてひとり残された俺はどうしたものかと思考を巡らせた。
シリアス先輩「……え? あの短剣、全能鉄球呼べるの?」
マキナ「うん。いっぱい余ってたから、セットで付けといた!」
シリアス先輩「そんなポテトおまけに付けたみたいな感覚で、全能級を……」