ベビーカステラの可能性を求めて⑥
精霊樹の葉の購入と、都合が合うようならレイさんとフィアさんにも会うためにリグフォレシアにやって来た。何気にジークさんの里帰り以降、久々のリグフォレシアである。
「……クロ、頼みがある」
「うん?」
「俺に認識阻害魔法をかけてくれ」
「……なんで?」
「なんか、リグフォレシアだと変に有名になってるから……」
「あ、あ~そういえばそんな話を聞いたような……うん。分かった」
以前リグフォレシアに来た際は、レイさんとフィアさんの家に行くまでに相当声を掛けられる事態になった。認めたくないし、目を逸らしたい事実ではあるのだが、残念なことに俺がリグフォレシアで有名というのは否定しようがない。
そこで、クロの認識阻害魔法である。俺にはシロさんの祝福があるので通常の認識阻害魔法はキャンセルされるのだが、クロは問題なくかけることができる。
手間を考えなければシロさんに頼んでも一緒ではあるが、こうして一緒に来ているのだからクロにかけてもらうのが手っ取り早い。
「はい。これで、おっけ~」
「ありがとう、じゃ、行こうか……最初は買い物から行くか?」
「そうだね。果物とかも買っとこうか」
「……というか、精霊樹の葉って市販されてるの?」
「薬の材料になるから、薬草とかを売ってる店にあるね。食材とかとは違う店だけど……まぁ、リグフォレシア自体はそこまで広いわけじゃないから、商店とかはある程度固まってるからあちこち移動する必要は無いよ」
「なるほど……」
そんな会話をしながらリグフォレシアに入ると、明らかに以前来た時とは注目度が違った。認識阻害魔法の効果は偉大である。まぁ、リグフォレシア以外で言えば、そんなに顔が知られていたりするわけでもないので認識阻害魔法は必要ない。
……というか、むしろリグフォレシアではなんであんなに顔が知られてるんだ? 宝樹祭の件があるとはいえ、一度見ただけの顔をそこまで覚えているものだろうか? ああ、もしかしたら本の挿絵とかに書かれててそれで覚えられてるのかもしれないな。
「あっ、見て見てカイトくん。大きなカイトくんの絵があるよ」
「うん? ……は? なにあれ?」
クロの言葉に視線を動かすと、本屋らしき店の前に俺の等身大サイズのPOPが置かれていた。近くには看板もあり『最新刊発売』と書かれていた。
あ、ああ、アレか……あの、俺を題材にした本の新刊が最近出て、その宣伝として等身大POPを用意してる訳か……い、いや、まぁ、確かに執筆者の人に手紙を貰った時に「宣伝などを含め自由にしてもらって大丈夫」と返しはしたが、まさかこんなことになっていたとは……しかもあのPOP、本物よりだいぶイケメンに描かれているような気がする。
なんだろうこの異様な恥ずかしさは……。
「……ああ、そういえばカイトくんの本があるんだったね。大人気シリーズらしいね」
「らしいな……しかし、まぁ、改めて思うとよくネタが続くもんだよな。宝樹祭のことだけじゃネタなんて足りないだろ」
「ああ、それはシャルティアがカイトくんの話のネタを提供してるからだね」
「………………なんだって?」
考えてみれば、確かに俺を題材に話を書き続けるにはどこかしらから俺の話を仕入れる必要がある。アイシスさんとかが話したのかと思っていたが、よくよく考えればそもそも普通の人はアイシスさんと会話をするのは無理だ。
一瞬怒りの感情が湧き上がりかけたが……すぐに思い留まる。確かにアリスは悪ふざけもするが、俺を傷つけるようなことや、俺が本気で嫌がるようなことをするとは思えない。
たぶん実際はなんらかの理由があって、それは辿っていけば、俺のためになるような理由だと思う。となると考えられるのは……。
「……もしかして、それって俺のためだったりする?」
「確実にそうだと思うよ。あの本のシリーズって人気なんでしょ? なら、作者が続巻を出すためにカイトくんの話を仕入れる必要があるけど、普通に聞き込みとかしてるとそれこそリグフォレシアがそうであるように、誇張された話とか眉唾物の噂話をかも入ってくるだろうからね」
「ああ、なるほど……それで変な書かれ方をするぐらいなら、最初から渡す情報を調整して俺が変な誤解をされるような事が無いようにコントロールしてくれてるのか」
「本人から聞いたわけじゃないけど、たぶんそうだね。シャルティアって、カイトくんには凄く献身的だしね」
やはり予想通り、情報を提供しているのは最初の巻のような……俺がブラックベアーを全滅させたとか、そんな風な書かれ方をしないように、アリスが裏から手を回してコントロールしてくれていたみたいだ。
たしかにソレならアリスらしい……なによりも俺に言ったりせずに、コッソリやってるところが一番アリスらしい気がする。
「アリス、ありがとうな」
「……い、いや、別に私はちょっと小遣い稼ぎしただけですから……」
「たぶんお金は貰ってないよ。照れてそう言ってるだけ」
「クロさん、余計なこと言わないで貰えます?」
後方に居るアリスにお礼の言葉を告げると、やはりというべきか少し照れたような声だけが聞こえてきた。そしてクロに少し前の逆襲とばかりにツッコミを受けていた。
なんというか、改めてアリスの優しさを実感できたというか、他にもたぶんいろいろ俺が気付かないところでフォローとかしてくれてるんだろうなぁと思うと、胸が温かくなる思いだった。
またなにか、改めてお礼でもしようと、そう思いながら俺はアリスとクロのやり取りを聞いて苦笑した。
シリアス先輩「実際アリスって、イルネスもかくやってレベルで献身的だし……やっぱ主従って似るのか?」
???「……ノーコメントで」




