同郷の家を訪ねて④
重信さんは半世紀以上……まぁ、この世界に世紀という区切りはないが、ともかく長くこちらの世界に住んでいることもあって、いろいろと面白い話を聞かせてくれた。
特に俺たちの興味を誘ったのは、異世界……俺たちの居た世界の食材に関してだ。
「面白い話といえば、皆リプルは知ってるか?」
「ええ、もちろん」
「疑問に思ったことは無いか? 他のオレンジやらぶどうやらって果物は、俺たちの居た世界と同じ名前なのに、リプル含めて少数の食材は異世界特有の名称ってとこに……」
「確かに、考えてみると変ですね? 逆なら納得なんですが……」
重信さんの言葉に葵ちゃんが同意するように頷く。確かにほとんど異世界特有の名称で、一部俺たちの世界から伝わった名前が使われているとかならともかく、殆どが俺たちの世界と同じ名称というのは不思議かもしれない。
ただ、俺はこの話しを以前少し聞いた覚えがある。たしか、元々は別の名前がついていたのだが、勇者役に馴染みやすいようにと長い年月をかけて、俺たちの世界の名称に合わせる形で変化してきたという話だったような……そして、リプルなどの一部の品は、なんらかの事情があって変えられなかったとか……。
「どこで聞いたかは忘れたんですが、勇者役に馴染みやすいようにって意図的に俺たちの世界の名称に合わせて変化してきたんでしたっけ?」
「おっ、よく知ってんな。その通り、私が勇者役をやった頃にはもうほとんど馴染みある名前だったけどな、案内の相手が名称が違うものがあれば教えてほしいとかって聞いてきたりしたな」
「あれ? じゃあ、なんでリプルはりんごじゃないんですか?」
「諸説あるな。魔界の保守的な種族に深くかかわる名称で変えられないとか、歴史ある大きな商会のシンボルとして使われているからだとか、都市の名前になってるからとか……そういったなんかしらの変えにくい事情があって、そのままの食材もあるわけだ」
なにかしら強い立場の相手がリプルという名称に拘りがあって変えたくなかったとか、そういうのもありそうだ。ただ、個人的な考えとしては、いくつかそういう異世界感のある名称の食材もあった方がいい気もする。
実際リプルに関しては、俺たちもすっかり和んでおり逆にリンゴと言われると違和感を覚える可能性もある。
「そうやって考えると、いろいろ勇者役に配慮してくれてるんですよね」
「ああ、米も各国で一定数は作ってるしな、この辺りもハイドラ王国内で数少ない米の生産地ってことで国から補助が出たりもしてる」
しみじみと語る葵ちゃんに重信さんも頷く。確かに、勇者役というか異世界人が過ごしやすいようにいろいろな場面で配慮してくれていることもあって、この世界はなんというか居心地がいい。
異世界って感じもありつつも、常識が違い過ぎて付いていけないということも少ないので、その辺りのバランスは本当に素晴らしいと思う。
と、そこでふとあることを思い出して重信さんに尋ねてみることにした。
「そういえば、重信さんは農家って話でしたけど、もしかして米を?」
「ああ、いや、米は作ってねぇな。知識も大してねぇし、私がやってるのは趣味の延長のようなもんさ。それで生計を立てたりしてるわけじゃねぇよ」
「昔の貯えもありますし、夫婦ふたりでの生活ですから大してお金もかかりませんしね」
苦笑しながら告げる重信さんに、ハンナさんも同意しつつ微笑みを浮かべる。
米の産地という話が出たので、異世界人としての経験を生かして米農家をしているのかと思ったが、そういうわけでは無さそうだった。
しかし、まぁ、言われてみれば俺も日本人だからといって、じゃあ異世界で米を栽培できるかと言われれば……無理だ。水田で作るぐらいの知識しかないし、少なくとも生活できる程に稼げる可能性は低いだろう。
「ちょっとでかめの家庭菜園ぐらいなもんで、作ってるのは野菜だな。大根だとか人参だとか……ゴボウを育てた時は、コイツに変な顔をされたがな」
「……いや、だって、アレは初めて見たら木の根だと思うでしょう」
「まぁ、ゴボウはたしかに……俺たちの居た世界ですら、外国の一部では木の根だと思われてたりもするらしいですしね」
日本人は本当に何でも食べるので、外国の人から見ると意外なものを食べてたりすることもある。俺の知り合いだとラズさんも野菜を作っているが、ラズさんの畑は規模が違う。大農園ってレベルで巨大だし、かなり数が多いクロの城に住む家族でも消費しきれずにあちこちに卸していたりするらしい。
ラズさんは野菜を作るのが好きなのでついつい作り過ぎてしまうのだとか……最近知ったことだが、ラズさんの作る野菜は「妖精の野菜」という知る人ぞ知るブランドらしい。ただ、基本的に知り合いにしか卸していないので貴重なのだとか。
「せっかく来たんだし、畑も見てみるか?」
「いいんですか? 是非」
重信さんが畑を見せてくれることになり、俺たち三人は立ち上がる重信とハンナさんに続いて家の裏手に移動した。
シリアス先輩「ほのぼのが、いい……砂糖回での傷が癒される」
???「……ついに、シリアスじゃなくてほのぼのでもOKの思考になってきましたよ、この自称シリアスの化身……」




