同郷の家を訪ねて②
重信さんに渡した湯呑みは、間違いなくネピュラが作ったものであり国宝である曜変天目とかではないのだが、そもそもそれを簡単に作れてしまうのが凄いということだった。
また、実際の曜変天目はネピュラの湯呑みほど綺麗に星空のような焼き目にはならないとも言ってはいたが、生憎と俺や陽菜ちゃんは焼き物の知識がないので、サッパリ分からないという印象だった。
「なんかネピュラは、模様も計算して焼いたって言ってましたが……」
「出来るのか? いや、ある程度は出来るだろうが、ここまで完璧に? ……まぁ、この世界には私たちの常識が通用しない者も多いし、あり得ない話ではないか……」
「なんなら、快人先輩が腕につけてる魔法具は、私たちの常識が通用しないこの世界でも常識外の品みたいですけどね」
困惑しつつもひとまず納得する重信さんに対し、陽菜ちゃんがふと思いついたような表情で告げる。腕に付けている魔法具というのは、もちろん転移魔法具のことである。
シロさんから貰った白い魔水晶が使われているこの魔法具は、実はかなりとんでもない代物である。
「そうなのか? 見たところ、普通の魔法具にみえるが……」
「あ~えっと、これ、転移魔法具なんです」
「……転移魔法具? そのサイズで、ですか?」
陽菜ちゃんが妙なパスをしたおかげで、どう説明したものかと悩みつつ話すと、ハンナさんも不思議そうに首を傾げる。
それもそのはずだろう通常の転移魔法具というのは巨大である。ジークさんが買った最新式の転移魔法具でも、1.5mぐらいはあるが、それでもかなり小型化されたモデルらしい。
それだけ転移魔法というのは複雑で、消費魔力も大きい魔法ということなのだろう。
「……えっと、この魔水晶はあまりにも特殊で……魔水晶に刻める術式の限界もなく、魔力も内部で生成しているのでほぼ無限ですし……あと、使用や経年で劣化も一切しないそうです」
「「……は?」」
「そういう反応になりますよね。気持ちは分かりますが、これシロさ……創造神様が作った魔水晶なので、いろいろ常識外なんですよ」
ちなみにこの魔水晶には現在、転移魔法、ブラックベアーに襲われた際の傷を治した因果に干渉する回復魔法、手元から離していても俺が念じるだけで腕に戻ってくる魔法など様々な魔法が登録されている。
ただ、クロ曰く「それでもまだまだいくらでも刻もうと思えば術式を刻める」らしい。まぁ、あまりにも特殊な魔水晶なので、クロやアリスクラスの技量がない限りは術式を刻むのは不可能みたいだが……。
「……あ、あ~えっと、チラッと聞いたんだが、創造神様の祝福を受けてるってのは……やっぱマジなのか?」
「え、ええ、マジです」
「……そうか、いや、香織ちゃんからも聞いてたし、嘘だと思ってたわけじゃねぇんだが……それでも、やっぱり半信半疑な部分があってな」
「ええ、レイやフィアだけなら、いつものように大袈裟に言ってるのかと思ってましたけど……」
「……え? レイさんとフィアさん? お知り合いなんですか?」
ここで思わぬ名前が出てきた。ハンナさんの口ぶりだと、俺の話を香織さん以外からも聞いている様子で、その相手がレイさんとフィアさん……それは間違いなく、ジークさんの両親であるふたりのことだろう。
「……あっ、そういえばジークさんが、レイさんとフィアさんには異世界人の知り合いが居て、その家を真似て縁側を自宅に作ったとか言ってたような……」
「ああ、それが私たちのことだ。レイとフィア……レイジハルトとシルフィアは、昔の旅仲間でな。そこそこ長い付き合いなんだよ」
「「「旅仲間?」」」
重信さんが口にした旅仲間という言葉に、俺と葵ちゃんと陽菜ちゃんがほぼ同時に首を傾げる。すると、重信さんは少し照れ臭そうに頬をかきつつ説明をしてくれた。
「ああ、昔私はあちこち世界を旅しててな。冒険者とかってわけじゃなくて、根無し草の風来坊みたいな感じでな。あっちへこっちへ、特に目的を持たずにフラフラしてた時期があるんだ」
「時期というか、50年以上フラフラしてましたけどね」
「ははは、まぁ、確かに人生の大半フラフラしてたわな……まぁ、それで、その度の最中にいろんな連中と知り合って、時には一緒に旅したりすることもあってな。レイやフィアもその時に知り合って、しばらく一緒に旅をした仲間ってわけだ」
「へぇ……そういうのってなんかいいですね。ちなみに、レイさんとフィアさんはなんで旅を?」
当てもない旅の最中で知り合って仲間になった関係。そういうのもなんとなくRPGの主人公パーティみたいで、いいなぁと思う。
実際こうして旅を終えたいまもいい友人関係でいるみたいだし、そういうのは少し羨ましい。
「ああ、アイツらは外の世界を旅したいとかって理由でリグフォレシアを飛び出してきた不良カップルだったな」
「え? そうなんですか?」
「ええ、レイは警備隊の時期エースと言われてた実力者で、フィアも将来を有望視された精霊魔導士で将来は安泰だったはずなんですが、そんなのはつまらないって勧誘を蹴って飛び出してきたみたいです」
「あのふたりも、いまでこそ子供もできて親になって少しは落ち着いているが、昔は酷いもんだったぞ。例えば……」
思わぬところで見つかった共通の知り合いの話題で、話は盛り上がりを見せ、俺たちの知らない昔のレイさんやフィアさんについて、面白おかしく教えてくれる重信さんの話を楽しく聞くこととなった。
シリアス先輩「いまでも結構はっちゃけて見えるが、重信とかから見ると落ち着いてる方なんだ……」




