とても魅力的な女神だと思う
本日は二話更新です。これは二話目なのでご注意を。
嬉し恥ずかし……と言うより、嬉しさが恥ずかしさに踏み潰されたような昼食を過ごした後も、シロさんとの海辺でのデートは続く。
「……い、いいですか、シロさん。そっと……そっとですよ!」
「はい」
「本当に、クッキーを持つみたいに優しく……」
「分かりました」
造り出したビーチバレーのボールを持つシロさんに対し、俺は恐る恐る何度も告げる。
食後に海での遊びと言われて、ビーチバレーを提案したのは俺だが……今になってとても後悔している。
「お願いしますよ! 俺、本当に死んじゃいますからね!?」
「死んでも生き返らせるので、大丈夫ですよ」
「大丈夫じゃないですからね、それ!?」
なぜなら、相手はシロさん……紛う事無きこの世界最強の存在だからだ。
加減無しで打たれたら、俺の体がもたない……いや、持たないどころか、間違いなく消し飛ぶ。
先にボールの方が消し飛びそうだが、たぶん風圧だけでこの辺は更地になるんじゃないかと思う。
だって、さっきからクロノアさんが、ハラハラした様子でこちらを見てるのが何よりの証拠。
明らかに俺に命の危機が迫ってるから、いざとなったら助けようとしてくれてると思う……が、シロさん相手ではクロノアさんでも無理かもしれないと思ってしまうので、必死にお願いをする。
「分かりました。必ず、快人さんにも返せる強さで打ちます……その代わり、勝負をしましょう」
「勝負、ですか?」
「ええ、以前快人さんが幻王としたのと同じ……負けた方が、勝った相手の言う事を一つ聞く。いかがですか?」
「……わ、分かりました。良いですよ」
なんだろう? 何でシロさんはわざわざそんな事を提案してきたんだろうか?
……嫌な予感がする。具体的には、シロさんは俺に何かをさせたがっている。
しかも、普通に提案すれば俺が拒否するであろう何かを……ま、負けられない。
ちなみにコートも無い状態で、どうやって勝ち負けを判断するのかと尋ねたら、ボールを落としたら負けらしい。
つまり仮に俺がミスショットをして明後日の方向にボールが飛んだとしても、それをシロさんが返せなければ負け……打つ側に有利な条件と言える。
シロさんはゆっくりとした動きで、ボールを打ち、宣言通りボールは俺でも十分に対応できる速度で山なりに飛んでくる。
真っ直ぐ飛んできたボールを、俺はレシーブの体勢で打ち返すが……うん、やっぱ体育の授業位しかバレー経験が無い俺に綺麗に返せる訳もなく、ボールはかなりシロさんから逸れる。
が、しかし……
「……は? え? ちょっ!?」
シロさんの姿が消え、ボールの落下地点に出現。簡単にボールを返してきた。
え? ちょっと待って、瞬間移動とか使うの? ず、ズルい!?
そしてその後の勝敗は言うまでもなく、どんな方向に飛んだボールも瞬間移動して打ち返してくるシロさん相手に、俺は惨敗した。
つまり俺はシロさんの言う事を一つ聞かなくてはならなくなった訳だが、シロさんは「後で」と告げ、次の遊びをしようと言ってきた……なんか、滅茶苦茶不安なんだけど……
「……ねぇ、シロさん?」
「なんですか?」
「……どうして、スイカ割りで『海が割れる』んですか?」
「さあ?」
可愛らしく首を傾げるシロさんだが、例によって例の如く、目の前の光景はこの天然女神のせいだ。
スイカ割りをする事になり、シロさんが棒を振ったら……スイカと一緒に視界に映る景色全てが真っ二つに切れた。
そして首を傾げるシロさんの横で、燃え尽きたような表情で頭を抱えているクロノアさん……もうクロノアさんの精神はボロボロである。
「これ、津波とか来るんじゃ……」
「戻しましょうか?」
「是非、そうして下さい」
「分かりました」
シロさんが指を振ると、割れていた海は何事もなかったかのように元に戻る。
あ、相も変わらず、滅茶苦茶な方だ……
「……シロさん、おかしいです」
「そうですか?」
「……ええ、だってこれ砂の城とかそういうレベルじゃ無くて、砂で出来た『本物の城』ですからね」
「少し、大きかったですかね?」
「少しじゃないです。ほら、クロノアさんもう目が死んでるじゃないですか、誰のせいだと思ってるんですか」
「さあ?」
「……」
今俺の目の前には、砂で出来た巨大な城がある。
本当に王城と言われても信じてしまいそうな大きさと外観……勿論シロさんが作った。
砂遊びのレベルじゃないからねコレ!?
もうクロノアさんが精神的に追い詰められまくってるせいか、魂が抜けかかった表情浮かべてるんだけど。
「……ミヤマ……頼む……なんでもする……助けてくれ」
「く、クロノアさん」
「脱げというなら脱ぐ故……シャローヴァナル様に進言してくれ……」
「そんなことしなくて良いですから、ちゃんと俺から元に戻すようお願いしますから」
もうクロノアさんはいっぱいいっぱいな感じで、俺の手を弱々しく握り、虚ろな目で助けを求めてくる。
クロノアさんって、本当に苦労性と言うか……物凄く可哀想だ。
夕暮れに差し掛かり、茜色の光が海岸を照らし始める中、俺とシロさんはビニールシートに座り、煌く海を眺めていた。
「楽しいひと時でした」
「それは、本当に良かったです」
クロノアさんは……シロさんが沈没船を造り出し、宝探しをしようと言った辺りで気絶して、今は海の家でアインさんに介抱されているみたいだ。
ちなみに、アインさんがずっと姿を現さないのは……姿を現すと、シロさんに水着に変えられてしまうかららしい。
本当にシロさんは滅茶苦茶で、時間はあっという間に過ぎて行ったが……楽しくなかったかと聞かれれば、楽しかった。
終始振り回されっぱなしだった筈だが、それに対して文句が出てこない。
たぶんそれは、シロさんが……本当に楽しそうにしていたからだと思う。
シロさんは相変わらず無表情だったが、口角はずっと微かに上がっていたし、何より海を割ったり城を作ったり、滅茶苦茶な行動をとっていたのは……たぶんシロさんなりにはしゃいでいて、加減が出来なかった感じだと思う。
本来創造神であるシロさんが、こんな風に遊ぶ機会はないのだろう。だからこそ、シロさんなりに凄く楽しんでいたんだと思う。
そんな楽しそうなシロさんと一緒に居た俺も、何だかんだで……やっぱり楽しかった。
「……快人さん」
「え? あ、はい」
「勝負の約束、覚えていますか?」
「ええ、一つ言う事を聞くんでしたね」
「はい。それを今使います」
「……な、何をすればいいんでしょうか?」
考え事をしていると、シロさんが抑揚の無い声で告げてきて、不安を感じながら聞き返す。
こ、ここで使ってくるか……い、一体何させられるんだ? 流石にそんな酷い事ではないと思うが、そこはかとなく嫌な予感がする。
不安を感じている俺の前で、シロさんは腰に巻いていたパレオを外し、美しい生足を露出される。
思わず目線が集中してしまうのを実感していると、シロさんは自分の膝を軽く叩く。
「膝枕をさせてください」
「……は? えぇぇ!?」
「クロがしているのを見て、私も一度したいと思っていたんです」
「い、いや、でも……」
膝枕!? い、いや、でも現在の状況的にそれは非常に不味い。
だだ、だってシロさん水着だもん!? この状態で膝枕されるって、つまり生足に寝転がれってことでしょ? 無理無理、昼食の時でさえ沸騰しそうだったのに、それは……
「一つ言う事を聞いてくれるんですよね?」
「うぐっ……」
た、確かにそういう約束をして、俺も了承した。
これで断るのは不誠実以外の何物でもない……か、覚悟を決めるしかないのか?
「……わ、分かりました」
「はい。では、どうぞ」
「……ごくっ……」
真珠のように美しいシロさんのふとももを見て、思わず生唾を飲んでしまい、俺は必死に首を振って頭を落ち着かせてから、ゆっくりシロさんの膝に寝転がる。
驚く程に柔らかく、それでいて確かな弾力のある膝……シロさんの体温を頬で感じ、湯気が出そうな程顔が赤くなるのを自覚した。
こ、コレは想像以上に、柔らかくて暖かくて……極楽と言うべきか、物凄く気持ちが良い。
少しでも気を抜いたら、起き上がれなくなってしまいそうな程魅力的な感触を味わいつつ、それでも必死に理性の糸を繋ぎとめようとしていると……シロさんが静かに口を開く。
「貴方は……本当に変わっていますね」
「……え? 何がですか?」
「私の力を見ても、畏怖したり、跪いたりしません」
「……えっと、無礼でしたかね?」
「いいえ、私はその方が嬉しいです。けど、不思議に思います……貴方は、私が怖くないのですか?」
「……」
相変わらずの抑揚の無い声ではあったが、そこには確かな感情が籠っているように感じられた。
シロさんが何を思ってそんな事を聞いてきたのかは分からない。俺の感応魔法も、シロさんには通用しないし、感情を読みとったりは出来ない。
なんで、俺がシロさんを怖がらないか……確かに、シロさんはこの世界でも最強の存在であり、ほぼ全能と言って良い程の力を持つ、正真正銘の神。
恐れ敬うのが普通の反応なのかもしれない……けど、う~ん。
「上手く答えられるかは、分かりませんけど……たぶん、えっと、シロさんが『完璧では無い』からですかね?」
「……続けて下さい」
「はい。えっと、もしシロさんが全知全能で一切つけ入る隙の無い存在だったら、恐れたかもしれません。でも、シロさんは全能かもしれないですが、全知では無いですよね?」
「はい」
「だから、たぶん、シロさんらしさって言うんですかね? そういう個性を感じられるので、怖く無いんだと思います」
「……」
実際の所、俺にも細かい理由なんて分からない。
最初に会った時は怖かった気もするけど、今はシロさんは天然でチートで……それでいてとても魅力的な女性だと、そう思っている。
少なくとも、怖いなんて感じないし、きっとこれからもそう思う事はないだろう。
そんな俺の言葉にシロさんは沈黙し、少し経ってから再び口を開く。
「……確かに、私は全知ではありません。それどころか、私は己の事すら分からない」
「……え?」
「私は、自分で生み出した世界の生物、植物、大地……それらに差異を感じない。同じ価値にしか思えない……私は、冷酷な存在なのでしょうか? この世界を……愛していないのでしょうか?」
「……」
相変わらず声に抑揚は無く、表情も変化していない。
でも、その言葉はどこか寂しそうで……無視する事なんて出来なかった。
「俺は……むしろ逆だと思います」
「逆、ですか?」
「はい。シロさんはたぶん、誰よりもこの世界を愛してるんだと思います」
「……え?」
俺の発言が余程意外だったのか、シロさんは今、明確に感情の籠った声を返してきた。初めて声に抑揚が現れていた。
俺は寝転がったままで、顔を動かし、シロさんの金色の美しい瞳を見ながら己の考えを口にする。
「シロさんは、自分の作ったこの世界を心から愛してる。この世界に存在する全ては、元を辿ればシロさんに行き着く。だからこそ、そこにあるものに差をつけたくないんじゃないでしょうか? 生物も植物も大地も、どれも等しく愛おしいから……そこに優劣を付けないで平等に見るし、滅多な事じゃ世界に関わろうとしない……手を加える事で、価値に差異が付いてしまうのが嫌だから」
「……」
「だから、ですかね? 異世界人の俺は……『シロさんが造り出した世界で生まれていない』俺は、シロさんにとって関わるには丁度良い相手なんですよ」
「……」
ともすれば不敬とも取られかねない俺の言葉を聞き、シロさんは静かに沈黙する。
金色の瞳が俺を捕らえ、時間がゆっくりと流れる様な感覚を味わっていると……
「……貴方は……本当に、面白い方ですね」
「っ!?」
そう言ってシロさんは微笑みを浮かべた。
普段はまず変わる事の無い表情が変化し、その笑顔は世界中の美を凝縮したかのように美しく、煌く恒星のように眩しく、尊いものに思えた。
シロさんは優しい笑顔を浮かべたまま、俺の頬に手を添え、ゆっくりと俺の頭を持ち上げて……胸に抱きしめた。ちょっ!? えぇぇぇ!?
「しし、シロさん!? なな、何を!?」
シロさんの豊満な胸に顔が埋まり、息苦しさと共に天国の様に柔らかく暖かい感触を伝えてくる。
「そうですか……私は、世界を愛していましたか……本当に、己の事は分からないものですね。貴方に言われて、初めて気付く事が出来ました」
「そそ、それは良かったですけど!? ここ、この状況は!?」
「お礼です」
「お礼っ!? ちょ、ちょっと、何言ってるか分からないんですけど!?」
膝枕ならぬ胸枕とでも言うべき状況に陥り、俺の頭はもう真っ白であり、何も考える事が出来ない。
ただただ、シロさんの胸が柔らかく、鼻孔をくすぐる心地良い香りと共に、とろける様に甘い感触を与えてくる。
「でも、快人さんは喜んでいるみたいですよ?」
「変な所で心読まないで下さい!?」
そりゃ、嬉しいか嬉しくないかで言えば、嬉しいに決まってる!?
当然ながら俺だって男だ。シロさんみたいな絶世の美女の胸の谷間に顔を埋めいる状況が、幸せじゃない訳が無いんだが……本当に理性が全部吹っ飛んじゃうから!?
「……ありがとうございます。快人さん。でも、一つだけ、訂正をさせて下さい」
「……へ? て、訂正?」
シロさんが穏やかな声で告げた言葉を聞き、微かに目線を上げると……美しい微笑みを浮かべたシロさんの顔が近付き、俺の額に柔らかい感触が触れた。
「貴方が、異世界人だから関わろうとしているのではありません……私が、貴方を『愛おしく想う』から、関わりたいと感じるのですよ」
「へ? あ、ああ、えと、その……っ!?」
あまりにも優しく、まるで音に温度を感じるように暖かな声と共に……許容量の限界を超えた俺の頭はついにショートし、意識が沈んでいった。
そして意識を手放す直前、シロさんが強く俺を抱きしめた気がした。
拝啓、母さん、父さん――シロさんは天然で、時々滅茶苦茶で、一緒にいると振り回されるばかりな気がする。だけど、それでもこの方と過ごす時間は楽しいと思うし、何よりシロさんは――とても魅力的な女神だと思う。
鬼の理性を持つ快人を精神的ダメージで気絶させたのは、シロが初めて。
シロ、ヒロイン力上昇中……あれ? シロ滅茶苦茶可愛くないですか?
何気に快人に告白した、二人目です。
追記:私の勘違いです。アリスもいたので三人目ですね。
あと快人は爆ぜろ、胸枕とかふざけるな、爆ぜろ。
そして一話はさんで王宮へ向かいます……挟む一話は、きっと好きな方、推している方もいるのではないかと思いますが……リリアのターン!