献身の怪物の変化・前編
今日は執筆時間があまりなくて、短めです。
快人を膝枕して、その頭を撫でつつイルネスはぼんやりと思考を巡らせていた。
(私はぁ、なにをしているのでしょうねぇ? 今回は~あまりにぃ、強引過ぎたのではないでしょうかぁ?)
自問自答ともいえる内容。己にそう問いかけてしまうのは、そもそも今日は発端から少しイルネス自身精神的なおかしさを感じていたからだった。
一番最初は快人からフライングボードの大会の話を聞いていた際のことだった。
快人が優勝したことやフライングボードを楽しめたことは、本当に我がことのように嬉しく幸せな気持ちだった。しかし、その際にも少しだけ思ってしまったのだ。快人の勇姿を直接見て見たかったと……。
(不意に~思ってしまいましたぁ。私も~カイト様とぉ、どこかに出かけたいとぉ……己の欲の深さにぃ、心底驚きましたねぇ)
イルネスは基本的にリリア不在時に屋敷の運営を預かっていることなどもあり、快人とふたりで遠出をした経験は少ない。
まったく無いわけではないが、それでも泊りがけになるような場所に一緒に出掛けるという機会はない。イルネスは快人の恋人というわけでもないので、おかしなことではない。
だが、頭で納得できるのと心が受け入れられるかは話が別である。ふたりで遠出したいという欲が心にあることを否定することはできなかった。
(……難しい話ですねぇ。きっと~カイト様はぁ、私がこの欲望を口に出したとしてもぉ、優しく受け入れてくれると思いますぅ。一緒にどこかに出かけようとぉ、誘ってくれるかもしれませんねぇ……だからこそぉ、口に出し辛いのですがぁ……愛する人が優しすぎるというのもぉ、不思議と気を遣うものですねぇ)
実際イルネスの思っている通り、イルネスが「一緒に遠出したい」といえば、快人はふたつ返事で了承しただろう。イルネスもそれが分かっている……分かっているからこそ、快人に迷惑をかけてしまうという考えが先立って口に出すことができなかった。
それでも、イルネスの心境の変化は快挙と言えるレベルである。彼女は献身の怪物だった。己など必要とせず、ただ捧げ使える献身のみ……ある意味では異常といえる精神を持つ怪物だった。
しかし、そんな彼女は最近少しずつではあるが『快人と一緒になにかしたい』という思考を持ち始めている。快人と共に在る未来を望み始めているのだ。
「カイト様ぁ、お加減はどうですかぁ?」
「あっ、えっと、かなり気持ちいいというか……癖になりそうなぐらいです」
「くひひ、そうですかぁ……寝湯のことかぁ、枕のことかは分かりかねますがぁ、癖になっても大丈夫ですよぉ。いつでも~ご用意いたしますからねぇ」
膝の上で心地よさそうに寝ころんでいる快人を見ると心が温かくなる。ふたりで時間を共有しているのだと思うと、胸の奥が痺れるような不思議な感覚があった。
(幸せですねぇ。カイト様がぁ、こうして~心地よさそうにしてくれていてぇ、それを近くで見られるのもそうですがぁ……私の行動によってぇ、そう思ってくださっているというのがぁ、どうしようもなく嬉しいですぅ。私の行動がぁ、カイト様を幸せにできていると知れるのもぉ……幸せですねぇ)
極端な言い方をしてしまえば、リラックスルームの入浴に関してはサポートが必要かと言われれば首を傾げる。体を洗うぐらいがせいぜいであり、それ以外は若干強引ではあったという自覚もあった。
ただ、快人になにかをしてあげたいという思いが強かった。
(入浴の時間を考えるとぉ、あと5分ほどで出ることを促すのがいいですねぇ。少々惜しいという思いもありますがぁ、カイト様のお身体が一番ですぅ。その後は~休憩室で飲み物などを用意してぇ、少しリラックスして過ごしていただくのがいいですねぇ)
今後の予定を考えつつも、イルネスはいまのこの幸せな時間を堪能するために再び快人の頭に触れ、優しく撫でた。
シリアス先輩「なっ、なにぃぃぃ……ばっ、馬鹿な……こっ、こんなっ――」




