魅惑のリラックスルーム⑤
岩盤浴を堪能したあとは、休憩室に移動する。休憩室は涼しめになっており、温まった体に心地よい。
本当に岩盤浴でかく汗はサラッとしている感じで不快感とかが全然ないので、デトックス効果が実感できるというか、かなり心地良い。
「カイト様ぁ、水をどうぞぉ」
「ありがとうございます」
イルネスさんが用意してくれた水を受け取って飲む。レモン果汁が入っているのか、爽やかな味わいの水は非常に美味しく感じた。
「次はどうされますかぁ?」
「う~ん、なかなか迷うところですね」
「焦る必要はありませんのでぇ、少しこちらの部屋で休憩されるのはいかがでしょうかぁ? よろしければぁ、軽食などもご用意できますよぉ」
「それは魅力的ですね。確かになにか食べたい気分ですが、食事までは……菓子とか、軽く摘まめるものがいいですね」
「ではぁ、お茶のご用意をいたしましょうかぁ?」
「あ、いいですね。是非」
岩盤浴が終わって少しまったりした気持ちなので、イルネスさんの提案は渡りに船といえるものだった。ある程度ここで休憩したあとはジャグジーとかアロマ風呂とかに入りたい。
というか、まず根本的にイルネスさんが傍に居てアレコレしてくれるという状況が心地よ過ぎるというか、安心感が凄くて本当にリラックスできる。
イルネスさんはこっちに召喚されてすぐに専属についてくれた相手で、なんと言うかやっぱり積み重ねてきた信頼感とでも言うべきものがある気がする。
「お待たせしましたぁ。クッキーとハーブティをご用意しましたぁ」
「おぉっ、美味しそう。イルネスさんって、ハーブティにも詳しいんですか?」
「一通りの知識は~ありますねぇ。ただぁ、お嬢様が~あまりハーブティを好んではいないのでぇ、淹れる機会は少ないですねぇ」
「あっ、そういえば、リリアさんはハーブティを飲んでいるのはほぼ見たこと無いですね」
リリアさんが好むのはオーソドックスな安定感のある紅茶だ。俺もそれなりに長く屋敷に居るので、ある程度リリアさんの紅茶の好みも分かってきたが、深みのある味わいの紅茶が好みっぽい。
逆にスーっとした爽やかな後味の紅茶はあまり好みではないようで、そういった類の紅茶を飲んでいることは少ない。まぁ、あくまであまり好んで飲まないというだけで、ハーブティや爽やかな後味の紅茶が嫌いというわけでは無いのだろうが……。
ちなみに俺は、そこまで拘りが現れるほど紅茶に詳しくないので、美味しければ大体なんでもOKである。なんなら、コーヒーも好きなので飲み物の好き嫌いは無いと言っていいかもしれない。
食べ物に関しても、緑の悪魔以外はほぼ問題なしである。やはり、問題は緑の悪魔だけだな……まぁ、迂闊に「絶滅しないかなぁ」とかいうと、マジで絶滅させそうな方が居るのでそういうことは言わない。あくまで俺の好き嫌いの問題であり、ピーマンという存在そのものが憎いわけでは無いのだ。
「せっかくなので、イルネスさんも一緒にどうですか?」
「ではぁ、ご一緒させていただきますねぇ」
イルネスさんも俺がそう言い出すのは分かっていたのかもしれない。俺が提案するとすぐに微笑みを浮かべて向かいの席に座ってくれた。
「フライングボードの大会はぁ、いかがでしたかぁ?」
「思ってた以上に面白い競技でしたね。運の要素とかも絡むんですけど、それだけじゃなくて結構駆け引きもある感じでしたよ」
「なるほど~私はぁ、名前ぐらいしか知らないので~いろいろお話を聞いてみたいですねぇ」
「もちろん。場所はハイドラ王国の辺境だったんですが……」
なんというか、俺がイルネスさんになにかを教えるというシチュエーションは少し珍しい。ただ、こちらの話を優し気に微笑みつつ、時折相槌を打ちながら聞いてくれるイルネスさんは、なんと言うか聞き上手で会話も弾んでいっている気がした。
「……って感じで、最後は勝負に出たんですが、幸い運も味方してくれて優勝することができました」
「それは~凄いですねぇ。運の要素も~確かにあったのでしょうがぁ、そもそもカイト様たちが勝負に出なければぁ、運が介在することもありませんでしたし~皆さんの努力の成果ですねぇ」
「そう言ってもらえると、なんだか嬉しいです」
「はいぃ。よく頑張りましたねぇ」
「あはは、ありがとうございます」
本当に嬉しそうに賞賛の言葉を伝えてくれるイルネスさん。感応魔法を使わずとも、なんというか俺が頑張ったことを褒めてくれているのが伝わってきて、くすぐったくも心地よい雰囲気だった。
やっぱり母性が凄いというか、こういうやりとりでの包容力がもの凄い気がする。
「優勝も素晴らしいですがぁ、なによりも~カイト様がフライングボードを楽しんでぇ、よい結果を掴みとれたのがぁ、己のことのように嬉しいですよぉ」
「俺もなんか、イルネスさんにそう言ってもらえるとより嬉しくなりましたよ」
「くひひ、それなら~よかったですぅ」
特徴的な笑みでありながら、どこか柔らかさと温かみを感じるイルネスさんの笑顔に体だけではなく心も癒されていくような、そんな感じがした。
シリアス先輩「……大丈夫……私はまだ……大丈夫」
???「先輩? なんか手が真っ白になってますよ?」
シリアス先輩「なっ、くそっ、3月だからホワイトチョコに変化してきてやがる!? このままだと……」
???「え? いや、季節で違うんすか?」




