競技後の打ち上げ⑧
打ち上げも終盤に差し掛かり、料理も目に見えて減ってきて食事をしている人も少なくなってきた。全体的にまったりした雰囲気というか、終わりが近づいてきたなぁという雰囲気である。
そのタイミングでたまたま遭遇したブラックマスカットのリーダーの人と、軽い雑談を行っていた。
「最後のカーブでの制御は見事でしたね。運も絡みますが、初めてであそこまで的確に操作できるのは素晴らしいですよ」
「ありがとうございます。ブラックマスカットの方たちもコース取りが凄く上手くて、後ろを飛んでいると抜ける隙が無くて苦戦しました……あっ、そういえば、いまさらですけど自己紹介してなかったですね。俺は宮間快人と言います」
「おっと、そういえばそうでしたね。私はリメギテ・リノリア・ギスルド・アメテス・アンと申します」
「……リメ……え?」
「ふふふ、失礼私の種族の名前は独特で難しいでしょう。アンと呼んでくだされば大丈夫です」
自己紹介をしていなかったと思って尋ねたのだが、とんでもなく独特な名前が聞こえてきて思わずキョトンとしてしまった。ただ、そう言って反応に慣れているのか呼び名はアンでかまわないと言ってくれた。
「では、アンさんと……俺も快人と名前の方で呼んでくださって大丈夫です」
「分かりました。それでは、カイトさんと呼ばせていただきますね」
「アンさんの種族って確か、クルーエルっていいましたっけ?」
「ええ、そうですよ。クルーエス族の名前の付け方は特殊なんですよ。まず祖父と祖母の名前から2文字ずつ、私の場合はリメギテが父方の祖父母、リノリアが母方の祖父母から貰った名前です。そして、両親の名前からそれぞれ4文字ずつ、父からギスルド、母からアメテスという文字を貰って、最後に2文字付け加えて名前とする風習があるのですよ」
「なるほど、合計18文字の名前になるわけなんですね」
考えてみれば、そういう種族的に特徴ある名前の付け方をしていてもおかしくはない。たまたまいままで知り合った方々にそういうのが無かったというだけだ。
しかし、その法則で考えると家族も含め同種族は全員18時の名前になるわけで……覚えるのが大変そうだなぁとは思う。
「カイトさんのミヤマというのは家名ですか?」
「そうです」
「家名が前で名前が後ろというのは少し珍しいですね。いえ、私も後ろには付くのですが、前が家名というわけでもないので……」
「ああ、俺は異世界人なのでこの世界の人から見れば、珍しい形式かもしれませんね」
この世界には家名の無い人も多い。というか貴族以外は基本的に家名は無い。たぶん一夫多妻制なので、そういう形になっているのだと思うが……考えてみれば、確かにこの世界の人にとっては俺の名前も珍しい形式と言えるだろう。
「異世界人……本物と会ったのは初めてですね。遠めには見たことがありましたが、やはり普通の人間族と変わらない印象ですね」
「実際、人間族とほぼ差は無いですしね。クルーエルは人族になるんですか?」
「ええ、分類としては人族ですね。魔界にも似た外見の種族は居るのですが、そちらはシャドウアースと呼ばれる別種族です。まぁ、我々でも並ばれると同族と区別がつかないのと、種族の規模としてはシャドウアースのほうが大きいので、クルーエルは魔界から人界に流れ着いたシャドウアースの末裔ではないかとも言われていますね。そういう意味であれば、魔族という可能性も捨てきれませんね」
「へぇ、そういうのもあるんですね」
それは少し面白い話である。逆のパターンだってあり得るわけなので、クルーエルが大昔に魔界に迷い込んでその地で発展したのかもしれない。複数の世界がや種族があるとそういうこともあり得る話だ。
「おや、トップ3のチームの代表同士が集まっていますね。私も仲間に入れていただいてよろしいですか?」
「スカーレットブルーの……えっと……」
「失礼。グリンと申します。どうぞお見知りおきを」
「あ、宮間快人です。よろしくお願いします」
……一瞬グリーンって聞こえて、名前は緑なのかと思った。
「おや、グリンさんはいつの間にドレスからその服に?」
「汚してはいけませんからね。アンさんこそ、打ち上げ前にローブを外していたでは無いですか……」
「キャラ作ってるせいで、ローブを被ったままだと口調が引っ張られちゃうんですよね」
アンさんとグリンさんは顔見知りらしく、軽く苦笑を浮かべ合っていた。開始前の険悪な雰囲気はどこへ行ったのやら、仲は結構よさそうな感じである。
図らずも1位から3位のチームからひとりずつ集まっているような状況になったが、ふたりともいい人なので一緒に話すのは楽しそうである。
そして、その予感は外れることはなく、俺たち三人は穏やかに世間話を楽しんだ。
シリアス先輩「ほっ……ヒロインって感じの雰囲気じゃないな、ヨシ! 打ち上げもそろそろ終わりそうだし、その後は重信を訪ねる話になるだろうから、しばらく砂糖の心配はないな!」
???「フライングボードを終えて帰ったカイトさんの元に、労を労う様にパンデモニウムが……」
シリアス先輩「恐ろしいこと言うな!?」
 




